
超高齢入居者へタミフルが通常の用法用量で処方された
高齢者介護施設において、入居者やケアスタッフへのタミフル<オセルタミビル>の予防投与が行われたが、腎機能が低下している超高齢の入居者に過量投与されそうになった。
<処方1>90歳代の女性。内科クリニック。
| タミフルカプセル75 | 1Cap1日1回朝食後7日間 |
|---|
*要介護4であり、往診医が処方している。
<効能効果>
●タミフルカプセル75・ドライシロップ3%<オセルタミビルリン酸塩>
A型またはB型インフルエンザウイルス感染症およびその予防
高齢者介護施設において、一人の全介助の入居者がインフルエンザを発症し(原因は確定できていないが、面会した家族が持ち込んだ可能性が高い)、おそらくその階を担当するケアスタッフを介して伝染し、ケアスタッフ10名のうち5名、入所者20名のうち6名がインフルエンザ陽性と診断された。
ほかの階への感染を阻止するために、インフルエンザ発生階を閉鎖し、居室対応、マスク着用、手指の消毒などの感染対策を行った。さらに、どの程度の効果があるかは不明であったが、最初の入居者の発症から2日以内には、同階の未感染の入居者やケアスタッフに対し、往診医からオセルタミビルの予防投与が指示され、処方された。
薬剤師は、介護施設において大人数に対してタミフルが処方されていることを知り、上記の状況を施設の看護スタッフから確認した。薬剤師は、入居者の腎機能が気になり、確認した上で医師に減量提案を行う必要があること、減量が必要な場合であっても初日は75mgを1カプセルの服用でよいことを看護スタッフに伝え、了解を得た。
20名の入居者のうち、2名のクレアチニンクリアランス(Ccr)が29.0mL/min、22.3mL/minと30mL/min以下であり、減量対象であったため疑義照会したところ、隔日投与に減量となった。
医師、看護スタッフは、オセルタミビルが腎排泄型薬剤(未変化体と活性体の尿中排泄は投与量の70~80%である)であり、腎機能低下者では減量が必要であることを知らなかった可能性がある。また、多くの未感染の入居者やケアスタッフに対して同時に大量の処方箋を発行することになったため、腎機能による用法用量の調節まで頭が回らなかった可能性もある。
インフルエンザの感染拡大で多くの処方箋が発行された場合においても、薬物の消失経路の確認と高齢者における腎機能の把握を怠らない。
オセルタミビルの腎機能ごとの薬物動態と用法用量[文献1]
オセルタミビル100mgを1日2回、6日間反復投与したとき、活性体のAUC(ng・hr/mL、平均±標準偏差)は、Ccr>90で4,187±630、60<Ccr≦90で9,931±1,636、30<Ccr≦60で15,010±4,158、Ccr≦30で43,086±18,068であり、腎機能の低下とともに上昇した。腎機能に応じた用法用量を表に示す。
表.腎機能に応じた用法用量
| Ccr(mL/min) | 治療 | 予防 |
|---|---|---|
| Ccr>30 | 1回75mg、1日2回 | 1回75mg、1日1回 |
| 10<Ccr≦30 | 1回75mg、1日1回 | 1回75mg、隔日 |
| Ccr≦10 | 推奨用量は未確立 | 推奨用量は未確立 |
[国試対策問題]
問題:高齢者介護施設の入居者1名がインフルエンザを発症した。その後、同じ階の入居者、担当ケアスタッフの複数名がインフルエンザ陽性と診断された。施設では、当該階の閉鎖、居室対応、マスク着用、手指衛生などの感染対策が開始された。さらに、同じ階の未発症の入居者および担当ケアスタッフに対して、医師からオセルタミビルの予防投与が指示された。施設を担当する薬剤師が行う対応として、適切なのはどれか。2つ選べ。
1 オセルタミビルの予防投与が開始されたため、マスク着用や手指衛生は中止してよいことを説明する。
2 未発症者へのオセルタミビル投与は予防目的であることを確認し、服薬の必要性と発症時の報告について説明する。
3 施設内で一斉に処方された場合は、対象者に対して同一用法用量で交付してよく、個別の腎機能確認は不要である。
4 発症者数、発症時期、接触状況、未発症者の範囲などを看護スタッフに確認し、薬剤供給、服薬管理、医師への処方提案に反映する。
5 予防投与を受けている入居者が発熱や呼吸器症状を呈しても、服薬継続中であれば経過観察のみでよい。
【正答】2、4
1 誤:オセルタミビルの予防投与は、感染対策の代替ではない。マスク着用、手指衛生、居室対応、発生階の閉鎖などの感染拡大防止策は継続する必要がある。
2 正:未発症者へのオセルタミビルの予防投与の目的、服薬方法、服薬中でも発症する可能性、発熱・咳などが出た場合の報告について説明する。
3 誤:施設内で一斉に処方された場合でも、入居者ごとの腎機能、嚥下状態、服薬管理状況などを確認する必要がある。特に超高齢者では腎機能が低下していることが多く、オセルタミビルでは予防投与であっても腎機能に応じた用量調節が必要となる。
4 正:看護スタッフなどから感染者数、発症時期、接触状況、未発症者の範囲、服薬管理体制を確認し、薬剤供給、服薬支援、副作用確認、医師への処方提案に反映する。薬剤師は抗インフルエンザ薬の適正使用だけでなく、多職種と連携して施設内の感染拡大防止にも関与する。
5 誤:予防投与中であってもインフルエンザを発症する可能性がある。発熱、咳、倦怠感などの症状が出現した場合は、医師・看護スタッフへ速やかに報告し、診断や治療投与への切り替えを検討する。
*本稿では、全国各地において収集したヒヤリ・ハット・ホット事例について、要因を明確化し、詳細に解析した結果を紹介します。事例の素材を提供していただいた全国の薬剤師の皆様に感謝申し上げます。

澤田教授
四半世紀にわたって医療・介護現場へ高感度のアンテナを張り巡らし、薬剤師の活動の中から新しい発見、ヒヤリ・ハット・ホット事例を収集・解析・評価し、薬剤師や医師などの医療者や患者などの医療消費者へ積極的に発信している。最近は、医薬分業(薬の処方と調剤を分離し、それぞれを医師と薬剤師が分担して行うこと)のメリットを全国民に理解してもらうためにはどのような仕組みとコンテンツが必要かや、医療・介護の分野でDXが進む中で薬剤師はどのような役割を果たすべきかなどを、日々考えている。
薬学者。東京大学薬学部卒業。その後、米国国立衛生研究所研究員、東京大学医学部助教授、九州大学大学院薬学研究院教授、東京大学大学院情報学環教授を経て、現在、東京大学大学院薬学系研究科客員教授。更に、NPO法人 医薬品ライフタイムマネジメントセンター理事長・センター長。著書には「ポケット医薬品集2024」(南山堂,2024年)、「処方せんチェック・ヒヤリハット事例解析 第2集」(じほう,2012年)、「ヒヤリハット事例に学ぶ服薬指導のリスクマネジメント」(日経BP社,2011年)、「処方せんチェック虎の巻」(日経BP社,2009年)、「薬学と社会」(じほう,2001年)、「薬を育てる 薬を学ぶ」(東京大学出版会,2007年)など他多数。
-
- 事例262
- リズミック錠とメジコン錠の併用は問題あるか?
-
- 事例260
- ダラシンTローションの処方の意図は?
-
- 事例259
- OD錠が口の中で溶かすことは悪いこと!?
-
- 事例258
- お薬手帳を親子で共有していた
-
- 事例256
- アラミスト点鼻液が効かない理由は?
-
- 事例255
- 点眼液を指に?適応外使用で混乱!
-
- 事例247
- 「初めだけ」を誤解して空打ちをしていなかった患者
-
- 事例245
- ネオキシテープを手首に誤用していた患者
-
- 事例237
- イナビル吸入粉末剤を経鼻吸入しようとした患者
-
- 事例236
- ゼロックス療法なのにカペシタビン錠の処方がない!
-
- 事例235
- 患者の提出忘れ!処方箋は実は2枚つづりだった!
-
- 事例232
- 在宅介入した薬剤師からの情報で生活改善
-
- 事例228
- 薬剤師提案の血中濃度測定でジゴキシン中毒が発覚
-
- 事例223
- 昇圧薬と降圧薬が同時に処方された
-
- 事例219
- 処方せんの用法の記載に問題あり!
-
- 事例218
- オピオイド服用患者、痛みの強い波と眠気から転倒
-
- 事例217
- シクロホスファミド錠の適応外使用
-
- 事例211
- プレドニン錠中止時の漸減を忘れる落とし穴
-
- 事例206
- スタレボ配合錠L100を半錠で調剤できる?
-
- 事例203
- エフピーOD錠とアジレクト錠の併用?
-
- 事例202
- 包数の多い散剤処方に介入して服薬の煩わしさの改善
-
- 事例201
- 点眼薬のみが処方されていた理由
-
- 事例200
- 家族への服用中止の指示は、電話連絡だけでは不十分
-
- 事例199
- 酸化マグネシウム原末が義歯にはさまって効果減弱
-
- 事例197
- 薬名類似による誤処方を発見し疑義照会
-
- 事例196
- 医師の一言『効果の高い薬』で不安になった患者
-
- 事例194
- 認知症患者の服薬状況の把握不足
-
- 事例192
- 患者が自己判断でリリカOD錠の服用を中止
-
- 事例188
- 指導不足によるタリビッド点耳液の不適正使用
-
- 事例187
- 薬の併用による副作用について疑義照会
-
- 事例186
- アロプリノール錠の服薬状況の認識不足
-
- 事例185
- 患者が一包化薬の分包ごと服用していいかと質問
-
- 事例184
- ゼローダ錠の服薬スケジュールに関して疑義照会
-
- 事例183
- イーケプラ錠の不均等処方について疑義照会
-
- 事例182
- レキップCR錠の急激な減量を発見し疑義照会
-
- 事例181
- ニトロペン舌下錠の保管方法に関する服薬指導不足
-
- 事例179
- 処方意図が不明なため疑義照会を検討
-
- 事例177
- 患者のジェネリック医薬品に対する考え方が変化
-
- 事例176
- 知識不足で『レスパイトケア』の意味が分からず
-
- 事例174
- 骨折でドライブスルー利用した患者への配慮不足
-
- 事例173
- 腎臓疾患患者へのアスパラカリウム錠処方を疑義照会
-
- 事例172
- 薬剤師の聞き方で誤解を生んだ疑義照会
-
- 事例170
- 疑義照会にて薬名類似による処方ミスと発覚
-
- 事例169
- キサラタン点眼液 点眼し忘れ時の対応の説明不足
-
- 事例168
- 慢性腎不全患者へのワントラム錠処方を疑義照会
-
- 事例167
- 口腔内の乾燥によるニトロペン舌下錠の溶解遅延
-
- 事例166
- ウルティブロ吸入後のうがいは必要?
-
- 事例165
- 患者の服薬不遵守を察知し、メトグルコ錠の処方変更
-
- 事例162
- フェントステープの使用法と注意すべき点とは?
-
- 事例161
- 個装箱内の残薬に気づかず破棄
-
- 事例158
- 複合要因から後発品の普通錠を徐放錠で誤調剤
-
- 事例157
- 禁忌薬の認識不足で妻が自身への処方薬を夫と共用
-
- 事例155
- テルネリン錠の増量処方を見落とし調剤
-
- 事例154
- プラリア皮下注には天然型のデノタスが必須と勘違い
-
- 事例153
- 患者からの申告がなく緑内障既往歴を把握せずに投薬
-
- 事例150
- 胃全摘患者へのランソプラゾール処方を疑義照会
-
- 事例147
- 中止すべきバイアスピリンを患者が誤って服用
-
- 事例144
- 前回処方年月日を見誤り、的外れな服薬指導
-
- 事例142
- セレスタミンにプレドニン追加でステロイドが重複
-
- 事例141
- セルニルトン服用が花粉症に効くという仮説
-
- 事例139
- 手書きの麻薬処方箋の「(8時」を「18時」と誤読
-
- 事例138
- リパクレオンカプセルの1シート当たりの数に注意
-
- 事例137
- パーキンソン病治療薬による病的賭博の副作用を発見
-
- 事例134
- ムコスタ点眼液UDの副作用の説明不足
-
- 事例131
- 患者の認識と処方内容に違和感を覚え疑義照会
-
- 事例128
- アロマシン錠に関しての患者の理解度の確認不足
-
- 事例124
- 介護者の負担軽減のために服薬ゼリーの使い方を指導
-
- 事例122
- 腎機能が悪くない患者にケイキサレート散が処方
-
- 事例121
- クラビット錠の疑義照会で、偽造処方箋が発覚
-
- 事例120
- ユベラNカプセルなど3剤の継続処方の確認不足
-
- 事例118
- ノルスパンテープの貼付期間の説明不足
-
- 事例111
- 高用量ベネットによる副作用の認識不足
-
- 事例109
- 水痘患者への亜鉛華単軟膏の処方を疑義照会
-
- 事例107
- 端数のPTPシートを組み合わせて調剤
-
- 事例105
- フォルテオ保管方法の説明不足
-
- 事例104
- 腎機能低下者に通常用量でシタグリプチンが処方
-
- 事例102
- 患児の外見と記載の体重に違和感を覚え疑義照会
-
- 事例101
- ナウゼリンの1回量過量の見逃し
-
- 事例98
- 異なるPTPシートによる数量の誤調剤
-
- 事例97
- 漢方薬初回処方患者への副作用の説明不足
-
- 事例96
- 視覚障害者に最適なうがい液へ疑義照会
-
- 事例95
- 1回量と1日量を読み違えて誤調剤
-
- 事例89
- スタチンの一般名を病院外来事務職員が誤認
-
- 事例76
- 一部手書きの処方箋により用法を誤認識
-
- 事例64
- 服用時点の押印ミスで朝夕の薬を逆に投薬
-
- 事例60
- 患者が激怒!了承を得ずに行った疑義照会
-
- 事例37
- シプロキサンとルボックスは併用禁忌?
-
- 事例14
- インスリン製剤はどれも同じと思った患者
-
- 事例10
- 遮光が必要なのはモーラステープ?
-
- 事例06
- 手書き処方せんを読み間違って半量を調剤
-
- 事例01
- え!?…私ってうつ病?



