Prof.Sawadaの薬剤師ヒヤリ・ハット・ホット
事例261

超高齢入居者へタミフルが通常の用法用量で処方された

ヒヤリした!ハットした!

高齢者介護施設において、入居者やケアスタッフへのタミフル<オセルタミビル>の予防投与が行われたが、腎機能が低下している超高齢の入居者に過量投与されそうになった。

<処方1>90歳代の女性。内科クリニック。

タミフルカプセル75 1Cap1日1回朝食後7日間

*要介護4であり、往診医が処方している。

<効能効果>

●タミフルカプセル75・ドライシロップ3%<オセルタミビルリン酸塩>
A型またはB型インフルエンザウイルス感染症およびその予防

どうした?どうなった?

高齢者介護施設において、一人の全介助の入居者がインフルエンザを発症し(原因は確定できていないが、面会した家族が持ち込んだ可能性が高い)、おそらくその階を担当するケアスタッフを介して伝染し、ケアスタッフ10名のうち5名、入所者20名のうち6名がインフルエンザ陽性と診断された。
ほかの階への感染を阻止するために、インフルエンザ発生階を閉鎖し、居室対応、マスク着用、手指の消毒などの感染対策を行った。さらに、どの程度の効果があるかは不明であったが、最初の入居者の発症から2日以内には、同階の未感染の入居者やケアスタッフに対し、往診医からオセルタミビルの予防投与が指示され、処方された。
薬剤師は、介護施設において大人数に対してタミフルが処方されていることを知り、上記の状況を施設の看護スタッフから確認した。薬剤師は、入居者の腎機能が気になり、確認した上で医師に減量提案を行う必要があること、減量が必要な場合であっても初日は75mgを1カプセルの服用でよいことを看護スタッフに伝え、了解を得た。
20名の入居者のうち、2名のクレアチニンクリアランス(Ccr)が29.0mL/min、22.3mL/minと30mL/min以下であり、減量対象であったため疑義照会したところ、隔日投与に減量となった。

なぜ?

医師、看護スタッフは、オセルタミビルが腎排泄型薬剤(未変化体と活性体の尿中排泄は投与量の70~80%である)であり、腎機能低下者では減量が必要であることを知らなかった可能性がある。また、多くの未感染の入居者やケアスタッフに対して同時に大量の処方箋を発行することになったため、腎機能による用法用量の調節まで頭が回らなかった可能性もある。

ホットした!

インフルエンザの感染拡大で多くの処方箋が発行された場合においても、薬物の消失経路の確認と高齢者における腎機能の把握を怠らない。

もう一言

オセルタミビルの腎機能ごとの薬物動態と用法用量[文献1]
オセルタミビル100mgを1日2回、6日間反復投与したとき、活性体のAUC(ng・hr/mL、平均±標準偏差)は、Ccr>90で4,187±630、60<Ccr≦90で9,931±1,636、30<Ccr≦60で15,010±4,158、Ccr≦30で43,086±18,068であり、腎機能の低下とともに上昇した。腎機能に応じた用法用量を表に示す。

表.腎機能に応じた用法用量

Ccr(mL/min) 治療 予防
Ccr>30 1回75mg、1日2回 1回75mg、1日1回
10<Ccr≦30 1回75mg、1日1回 1回75mg、隔日
Ccr≦10 推奨用量は未確立 推奨用量は未確立

[国試対策問題]

問題:高齢者介護施設の入居者1名がインフルエンザを発症した。その後、同じ階の入居者、担当ケアスタッフの複数名がインフルエンザ陽性と診断された。施設では、当該階の閉鎖、居室対応、マスク着用、手指衛生などの感染対策が開始された。さらに、同じ階の未発症の入居者および担当ケアスタッフに対して、医師からオセルタミビルの予防投与が指示された。施設を担当する薬剤師が行う対応として、適切なのはどれか。2つ選べ。

1 オセルタミビルの予防投与が開始されたため、マスク着用や手指衛生は中止してよいことを説明する。
2 未発症者へのオセルタミビル投与は予防目的であることを確認し、服薬の必要性と発症時の報告について説明する。
3 施設内で一斉に処方された場合は、対象者に対して同一用法用量で交付してよく、個別の腎機能確認は不要である。
4 発症者数、発症時期、接触状況、未発症者の範囲などを看護スタッフに確認し、薬剤供給、服薬管理、医師への処方提案に反映する。
5 予防投与を受けている入居者が発熱や呼吸器症状を呈しても、服薬継続中であれば経過観察のみでよい。

【正答】2、4
1 誤:オセルタミビルの予防投与は、感染対策の代替ではない。マスク着用、手指衛生、居室対応、発生階の閉鎖などの感染拡大防止策は継続する必要がある。
2 正:未発症者へのオセルタミビルの予防投与の目的、服薬方法、服薬中でも発症する可能性、発熱・咳などが出た場合の報告について説明する。
3 誤:施設内で一斉に処方された場合でも、入居者ごとの腎機能、嚥下状態、服薬管理状況などを確認する必要がある。特に超高齢者では腎機能が低下していることが多く、オセルタミビルでは予防投与であっても腎機能に応じた用量調節が必要となる。
4 正:看護スタッフなどから感染者数、発症時期、接触状況、未発症者の範囲、服薬管理体制を確認し、薬剤供給、服薬支援、副作用確認、医師への処方提案に反映する。薬剤師は抗インフルエンザ薬の適正使用だけでなく、多職種と連携して施設内の感染拡大防止にも関与する。
5 誤:予防投与中であってもインフルエンザを発症する可能性がある。発熱、咳、倦怠感などの症状が出現した場合は、医師・看護スタッフへ速やかに報告し、診断や治療投与への切り替えを検討する。

*本稿では、全国各地において収集したヒヤリ・ハット・ホット事例について、要因を明確化し、詳細に解析した結果を紹介します。事例の素材を提供していただいた全国の薬剤師の皆様に感謝申し上げます。

澤田教授

澤田教授
四半世紀にわたって医療・介護現場へ高感度のアンテナを張り巡らし、薬剤師の活動の中から新しい発見、ヒヤリ・ハット・ホット事例を収集・解析・評価し、薬剤師や医師などの医療者や患者などの医療消費者へ積極的に発信している。最近は、医薬分業(薬の処方と調剤を分離し、それぞれを医師と薬剤師が分担して行うこと)のメリットを全国民に理解してもらうためにはどのような仕組みとコンテンツが必要かや、医療・介護の分野でDXが進む中で薬剤師はどのような役割を果たすべきかなどを、日々考えている。

薬学者。東京大学薬学部卒業。その後、米国国立衛生研究所研究員、東京大学医学部助教授、九州大学大学院薬学研究院教授、東京大学大学院情報学環教授を経て、現在、東京大学大学院薬学系研究科客員教授。更に、NPO法人 医薬品ライフタイムマネジメントセンター理事長・センター長。著書には「ポケット医薬品集2024」(南山堂,2024年)、「処方せんチェック・ヒヤリハット事例解析 第2集」(じほう,2012年)、「ヒヤリハット事例に学ぶ服薬指導のリスクマネジメント」(日経BP社,2011年)、「処方せんチェック虎の巻」(日経BP社,2009年)、「薬学と社会」(じほう,2001年)、「薬を育てる 薬を学ぶ」(東京大学出版会,2007年)など他多数。

記事作成日:2026年6月17日

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