Prof.Sawadaの薬剤師ヒヤリ・ハット・ホット
事例124

介護者の負担軽減のために服薬ゼリーの使い方を指導

ヒヤリした!ハットした!

認知症の患者に錠剤を服薬させるため、介護者である夫は『ペンチ』で薬を破砕して服薬させていた。

<処方>70歳代の女性。在宅専門クリニック。処方オーダリング。

【般】ドネペジル塩酸塩錠5mg 1錠 1日1回 朝食後14日分
メマリー錠20mg 1錠 1日1回 夕食後14日分
マグミット錠250mg 6錠 1日3回 毎食後14日分
【般】モサプリドクエン酸塩錠5mg 3錠 1日3回 毎食後14日分
【般】センノシド錠12mg 4錠 1日1回 夕食後14日分

どうした?どうなった?

在宅専門クリニックの医師から、患者宅へ訪問するように指示のある処方せんを受け取った。当薬局としては新規の患者であり、居宅療養管理指導を算定して、在宅での服薬指導が始まった。

患者宅に伺い、介護者である夫に服薬状況を尋ねたところ、患者は認知症で錠剤の服薬拒否がみられ、口に入れると吐き出してしまうため、錠剤をペンチで破砕して砂糖と混ぜて服薬させていることが分かった。ペンチを使った理由は、あまり力を入れずに粉砕することができるからであった。

そこで、予め錠剤を粉砕し、服薬ゼリー(商品名:らくらく服薬ゼリー)を準備して、使い方を説明した。夫はそれ以降の服薬介助が楽になったと喜んでくれた。錠剤以外の剤形への変更も考慮したが、細粒にすると量(体積)が増えて服用しにくくなる可能性などを考え、粉砕とした。

なぜ?

これまでの病院内での調剤や院外薬局での調剤では、患者の服薬状況を知ることができていなかった。窓口での対応だけでは、介護者の苦労をはかり知る事ができていなかったと思われる。

ホットした!

今回の事例の患者のように、特に認知症の患者では、薬局に代理人のみが薬を取りに来ることが多い。対応する薬剤師が介護に関する知識が不足している場合、家族がどんな大変な思いをしているのかを予想する事ができないかもしれない。
認知症に関する見識を広げ、薬剤師として手助けできることや困っていることを聞き出せるような服薬指導を心掛ける。

必要に応じて在宅訪問を患者に提案し、希望があれば、医師の協力を得て薬局主導で在宅を開始してみる。そのためにも、普段から、医師、ケアマネージャー、訪問看護師など、介護に関わる他職種と連携できるように体制を整えておく。

もう一言

患者宅にある『ペンチ』による不適正使用だけではなく、どこにでもある『ハサミ』によっても不適正使用の事例がある。
「ハサミで切ってPTPのまま飲んでしまった」「薬の包装をハサミで切って湿気らせてしまった」「軟膏剤・液剤の口をハサミで切って一気に出し切ってしまった」「貼付剤をハサミで切って使えなくしてしまった」など、以下に幾つかの事例をまとめた。

<内服剤>
●70歳代の女性。低血圧症、骨粗鬆症など。
・ワンアルファ錠<アルファカルシドール>など
・PTPシートを1錠ずつ切り離して保管
・そのまま飲み込み、喉にひっかかったため、救急車で搬送され緊急手術
●70歳代の男性。高血圧症。
・ノルバスク錠<アムロジピン>など複数薬剤
・全ての薬のPTPシートを事前にハサミで切断して準備
・薬の判別がつかず誤服薬
●40歳代の女性。てんかん。
・セレニカR錠<バルプロ酸ナトリウム>
・PTPシートをハサミで切って保管
・切り損なって包装に穴があき薬剤が大気に触れ、湿気って使用不可

<外用剤>
●60歳代の男性。気管支喘息など。
・スピリーバ吸入用カプセル18μg<チオトロピウム臭化物水和物>
・妻がブリスターからカプセルを1カプセルずつ丁寧にハサミで切断して管理
・患者が使う段になって、裏面からアルミを剥がそうとして開封不可
●50歳代の男性。気管支喘息。
・フルタイド100ロタディスク<フルチカゾンプロピオン酸エステル>
・吸入せずにハサミで切って中身の粉を手に取って服用
・肺での十分な濃度が得られず、治療効果は得られず
●60歳代の男性。外耳炎。
・タリビッド耳科用液0.3%<オフロキサシン>
・先端をハサミで切断し使用
・勢いよく出てすぐに無くなってしまったため、その後に使用不可
●80歳代の女性。胃潰瘍、白内障、睡眠障害など。
・カタリンK点眼用0.005%<ピレノキシン>
・ハサミで切断して使用
・顆粒パックの中に溶解液が混入して固まり、使用不可
●30歳代の男性。禁煙中。
・ニコチネルTTS30<ニコチン>
・量を減らすためにハサミで切断
・急激にニコチンの吸収が増加、高濃度のニコチンが露出して皮膚刺激増強の可能性

このような不適正使用は、有害作用の惹起、治療効果の減弱、必要な時に薬がなくなるなどの問題に繋がる。これらの問題を回避するためには、薬剤師、医師からの適正使用のための情報が、患者に理解できる言葉で提供される必要がある。

澤田教授

澤田教授
四半世紀にわたって医療・介護現場へ高感度のアンテナを張り巡らし、薬剤師の活動の中から新しい発見、ヒヤリ・ハット・ホット事例を収集・解析・評価し、薬剤師や医師などの医療者や患者などの医療消費者へ積極的に発信している。最近は、医薬分業(薬の処方と調剤を分離し、それぞれを医師と薬剤師が分担して行うこと)のメリットを全国民に理解してもらうためにはどのような仕組みとコンテンツが必要かや、医療・介護の分野でDXが進む中で薬剤師はどのような役割を果たすべきかなどを、日々考えている。

薬学者。東京大学薬学部卒業。その後、米国国立衛生研究所研究員、東京大学医学部助教授、九州大学大学院薬学研究院教授、東京大学大学院情報学環教授を経て、現在、東京大学大学院薬学系研究科客員教授。更に、NPO法人 医薬品ライフタイムマネジメントセンター理事長・センター長。著書には「ポケット医薬品集2024」(南山堂,2024年)、「処方せんチェック・ヒヤリハット事例解析 第2集」(じほう,2012年)、「ヒヤリハット事例に学ぶ服薬指導のリスクマネジメント」(日経BP社,2011年)、「処方せんチェック虎の巻」(日経BP社,2009年)、「薬学と社会」(じほう,2001年)、「薬を育てる 薬を学ぶ」(東京大学出版会,2007年)など他多数。

記事作成日:2020年10月13日

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