Prof.Sawadaの薬剤師ヒヤリ・ハット・ホット
事例116

同用量同一薬剤の用法変更による負担金増額の説明不足

ヒヤリした!ハットした!

全く同じ種類の薬を同じ数量だけ受け取ったのに金額が異なることに気がついた患者から、薬局にクレームの電話がかかってきた。

<処方1>40歳代の男性。循環器内科。処方オーダリング。(前回処方)

ノルバスク錠2.5mg 1錠 1日1回 朝食後 21日分
ミカルディス錠40mg 1錠 1日1回 朝食後 21日分

*高血圧症である。

<処方2>(今回処方)

ノルバスク錠2.5mg 1錠 1日1回 夕食後 21日分
ミカルディス錠40mg 1錠 1日1回 朝食後 21日分

<効能効果>

●ノルバスク錠2.5mg/5mg/10mg・OD錠2.5mg/5mg/10mg<アムロジピンベシル酸塩>
高血圧症、狭心症
●ミカルディス錠20mg/40mg/80mg<テルミサルタン>
高血圧症

どうした?どうなった?

患者の服薬コンプライアンスは比較的良好であり、この1年近くは同一の処方が続いていた(処方1)。
今回、早朝血圧が高いとの理由から降圧剤2剤のうち1剤を夕食後に服用するように医師が指示し、ノルバスク錠を夕食後服用へ変更した(処方2)。薬局でも用法が変更になったことは理由とともに十分に説明した。

閉局後、患者から電話があり、前回と著しく金額が異なると激怒された。調剤録を確認すると、前回処方では負担金(3割負担)は1,210円であったが、今回は1,410円であった(2020年2月時点の計算による)。

負担金の計算は間違っておらず、他の薬局であっても同様の金額になることを患者に説明した。しかし、薬の種類と数量が全く同じなのに負担金が200円増えること(計算上、調剤技術料が増加するため)をどうしても理解してもらえなかった。この件については処方元の医療機関へも連絡し、処方医からも患者へ直接説明をしてもらった。

なぜ?

薬局で薬の内容変更については注意を払い、患者へ十分な説明を行ったが、負担金の変更についての説明が欠けていた。

ホットした!

薬局で患者が支払う負担金は、全てが薬の値段(薬剤料)ではないことを説明しておく必要がある。また、今回のように交付する薬剤は同じなのに増額負担となる場合などは特に丁寧な説明をしなければならない。

もう一言

医師や薬剤師は、用法が変わることにより調剤料が高くなり自己負担金も増えることをあらかじめ説明して患者の納得を得るべきである。現場ではよく経験することであるが、調剤料の計算は数字のマジックのような側面を持つ。本事例の場合、前回までは2種類の処方薬の服用時点が同一だったため、調剤料は同一剤として算定されていた。しかし、今回は服用時点が異なることで調剤料は別剤として算定されるため、自己負担金は高くなる。

患者にとっては、負担金は極めて関心の高い情報であり、きちんとした説明が必須である。特に今回の事例のように、薬の種類や数が変わらないのに調剤料や薬学管理料に違いがあり、増額負担になる場合は、きちんと説明する必要がある。

澤田教授

澤田教授
四半世紀にわたって医療・介護現場へ高感度のアンテナを張り巡らし、薬剤師の活動の中から新しい発見、ヒヤリ・ハット・ホット事例を収集・解析・評価し、薬剤師や医師などの医療者や患者などの医療消費者へ積極的に発信している。最近は、医薬分業(薬の処方と調剤を分離し、それぞれを医師と薬剤師が分担して行うこと)のメリットを全国民に理解してもらうためにはどのような仕組みとコンテンツが必要かや、医療・介護の分野でDXが進む中で薬剤師はどのような役割を果たすべきかなどを、日々考えている。

薬学者。東京大学薬学部卒業。その後、米国国立衛生研究所研究員、東京大学医学部助教授、九州大学大学院薬学研究院教授、東京大学大学院情報学環教授を経て、現在、東京大学大学院薬学系研究科客員教授。更に、NPO法人 医薬品ライフタイムマネジメントセンター理事長・センター長。著書には「ポケット医薬品集2024」(南山堂,2024年)、「処方せんチェック・ヒヤリハット事例解析 第2集」(じほう,2012年)、「ヒヤリハット事例に学ぶ服薬指導のリスクマネジメント」(日経BP社,2011年)、「処方せんチェック虎の巻」(日経BP社,2009年)、「薬学と社会」(じほう,2001年)、「薬を育てる 薬を学ぶ」(東京大学出版会,2007年)など他多数。

記事作成日:2020年5月22日

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