Prof.Sawadaの薬剤師ヒヤリ・ハット・ホット
事例140

ムコダイン錠「心障害のある患者」への要慎重投与の認識不足

ヒヤリした!ハットした!

薬剤師は、ムコダイン錠<カルボシステイン>が心障害のある患者に慎重投与であることを認識していなかった。

<処方1>30歳の女性。病院の内科。処方オーダリング。

メインテート錠2.5mg 1回1錠 1日1回 朝食後14日分
ムコダイン錠500mg 1回1錠 1日3回 毎食後5日分
頓)ロキソニン錠60mg 1回1錠 1日2回まで 5回分

<効能効果>

●ムコダイン錠250mg・500mg
○上気道炎(咽頭炎、喉頭炎)、急性気管支炎、気管支喘息、慢性気管支炎、気管支拡張症、肺結核の去痰
○慢性副鼻腔炎の排膿

どうした?どうなった?

当薬局には初めて来局した患者で、植え込み型除細動器を使用中であり、メインテート錠<ビソプロロールフマル酸塩>を服用中であった。
薬剤師は調剤監査をしながら、心臓が悪いのならロキソニン錠<ロキソプロフェンナトリウム>の飲み過ぎに注意しなければならないと考えていたところ、ムコダイン錠の薬情に「心臓に病気のある方は申し出てください。」との記載があることに初めて気づいた。

ムコダイン錠の添付文書を確認すると、類薬での悪影響が報告されているとの記載であることから、特に疑義照会はせず、心機能に変化があればすぐ受診するように注意喚起して投薬した。なお、薬情に記載がなければ、このような注意喚起は行わなかったであろう。

なぜ?

薬剤師は、ムコダインのような比較的安全と思われる薬剤の使用上の注意に、「慎重投与:心障害のある患者[類薬で心不全のある患者に悪影響を及ぼしたとの報告がある。]」との記載があることを認識していなかった。
また、ムコダインの薬情に「心臓に病気のある方は申し出てください。」との記載があることを認識していなかった。
上記の注意喚起は、類薬での報告に基づくものであり、そのような程度のものまで薬情に記載されているとは思っていなかった。

ホットした!

これまでも他の患者に対して、薬情の記載をよく確認しないまま投薬し、後日、「このようなことが記載されていましたが、服用して問題ないでしょうか。」と電話相談を受けた経験が何回かあり、薬情の内容を見直す必要を再認識した。今回のムコダインにおいても、薬情に本注意喚起を記載しておくことが必要であるかどうか検討すべきである。

もう一言

ムコダイン錠のインタビューフォームには、「外国においてメチルシステインのエアロゾル製剤で心不全の患者2例に悪影響を及ぼしたとの報告があるため慎重投与とした。」とある。
L-メチルシステイン塩酸塩(ペクタイト錠50mg・100mg)の添付文書には、使用上の注意として、「慎重投与:心障害のある患者[心不全のある患者に悪影響を及ぼしたとの報告がある。]」との記載がある。

[文献]
ムコダイン錠(250㎎、500㎎)・ムコダインDS50%・ムコダインシロップ5%の医薬品インタビューフォーム
2017年6月改訂(第20版)、杏林製薬株式会社より

澤田教授

澤田教授
四半世紀にわたって医療・介護現場へ高感度のアンテナを張り巡らし、薬剤師の活動の中から新しい発見、ヒヤリ・ハット・ホット事例を収集・解析・評価し、薬剤師や医師などの医療者や患者などの医療消費者へ積極的に発信している。最近は、医薬分業(薬の処方と調剤を分離し、それぞれを医師と薬剤師が分担して行うこと)のメリットを全国民に理解してもらうためにはどのような仕組みとコンテンツが必要かや、医療・介護の分野でDXが進む中で薬剤師はどのような役割を果たすべきかなどを、日々考えている。

薬学者。東京大学薬学部卒業。その後、米国国立衛生研究所研究員、東京大学医学部助教授、九州大学大学院薬学研究院教授、東京大学大学院情報学環教授を経て、現在、東京大学大学院薬学系研究科客員教授。更に、NPO法人 医薬品ライフタイムマネジメントセンター理事長・センター長。著書には「ポケット医薬品集2024」(南山堂,2024年)、「処方せんチェック・ヒヤリハット事例解析 第2集」(じほう,2012年)、「ヒヤリハット事例に学ぶ服薬指導のリスクマネジメント」(日経BP社,2011年)、「処方せんチェック虎の巻」(日経BP社,2009年)、「薬学と社会」(じほう,2001年)、「薬を育てる 薬を学ぶ」(東京大学出版会,2007年)など他多数。

記事作成日:2021年6月10日

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