Prof.Sawadaの薬剤師ヒヤリ・ハット・ホット
事例99

リウマチ患者のシムビコートタービュヘイラーの吸入操作が困難という訴えを受け、処方変更を提案

ヒヤリした!ハットした!

シムビコートタービュヘイラー<ブデソニド・ホルモテロールフマル酸塩水和物>が初めて処方された患者から、本剤は使えそうにないとの訴えがあった。患者は関節リウマチで、右手にしびれがある。薬剤師は患者の右手の状態を見て、確かに吸入操作が困難であると判断し、吸入操作がより簡便なアドエアエアゾール<サルメテロールキシナホ酸塩・フルチカゾンプロピオン酸エステル>への処方変更を医師に提案した。

<処方>70歳代の女性。病院の総合診療科。

ジスロマックSR成人用ドライシロップ2g 1瓶 1日1回 昼食後2時間後 1日分
セレキノン錠100mg 1錠 1日1回 昼食後 1日分
コルドリン錠12.5mg 6錠 1日3回 毎食後 4日分
シムビコートタービュヘイラー60吸入 1本 1日2回 1回2吸入ずつ

*患者は関節リウマチがあり、別の医療機関において治療中である。

<効能効果>

●シムビコートタービュヘイラー60吸入<ブデソニド・ホルモテロールフマル酸塩水和物>
・気管支喘息(吸入ステロイド剤及び長時間作動型吸入β2刺激剤の併用が必要な場合)
・慢性閉塞性肺疾患(慢性気管支炎・肺気腫)の諸症状の緩解(吸入ステロイド剤及び長時間作動型吸入β2刺激剤の併用が必要な場合)

●アドエア125エアゾール120吸入用<サルメテロールキシナホ酸塩・フルチカゾンプロピオン酸エステル>
・気管支喘息(吸入ステロイド剤及び長時間作動型吸入β2刺激剤の併用が必要な場合)
・慢性閉塞性肺疾患(慢性気管支炎・肺気腫)の諸症状の緩解(吸入ステロイド剤及び長時間作動型吸入β2刺激剤の併用が必要な場合)

どうした?どうなった?

患者は、咳が続いていたため病院の総合診療科を初めて受診した。
呼吸器感染症を併発した気管支喘息と診断され、吸入薬としてシムビコートタービュヘイラーが処方された。

服薬指導の際、デモ機器を用いて使用方法を説明していたところ、患者より関節リウマチで右手がしびれており、使えそうにないと訴えがあった。
薬剤師は患者の右手の状態を見て、シムビコートタービュヘイラーの操作が困難であると判断し、同効薬で吸入操作がより簡便なアドエア125エアゾール120吸入用への処方変更を医師に提案することにした。
疑義照会の結果、提案通りアドエアに変更となり、説明・吸入指導を行った。

なぜ?

医師は、患者が関節リウマチであることを把握していなかった。従って、患者が関節リウマチの症状で吸入器を操作しにくい可能性を想起できなかったと考えられる。更に、患者自身も自分の既往歴・現病歴を医師に伝えていなかった。

また、医療機関の医師・看護師は、診察時に実物を見せながら、使用できそうかどうか確認していなかったと考えられる。

ホットした!

医療機関で、吸入器の使用方法が説明されているとは限らないこと、また、医師が既病歴・現病歴、使用薬剤などを確認せずに、診察時の症状の訴えに応じた薬剤を処方することがあることを認識すべきである。
本事例の様に、薬局では必ず実物を使って吸入方法の説明・指導を行い、患者自身が操作できるかどうかの判断を行う必要がある。

もう一言

吸入薬では、吸入する前に吸入器の操作が必要であるが、今回のように疾患で手先が不自由な患者だけでなく、高齢者など加齢により細かい操作ができない、小さい文字が見えない患者などでも注意が必要である。以下に、類似のヒヤリ・ハット事例を示す。

事例1:80歳代の女性。慢性閉塞性肺疾患でウルティブロ吸入用カプセルが処方されている。ある時、「カプセルの入っているシートがとても開けにくくて取り出しづらい。」との訴えがあった。薬剤師は、吸入器(ブリーズヘラー)の操作は実際にやってもらい確認したが、カプセルの入ったアルミシートを剥がせるかどうかは確認していなかった。

事例2:80歳代の女性。アドエア500ディスカス28吸入用が処方されている。患者は残回数が「0」になっても使い続けていたことが、患者の娘からの訴えで発覚した。残量カウンターの文字サイズが小さく、患者は残回数が「0」になったことに気づいていなかったと考えられる。

澤田教授

澤田教授
四半世紀にわたって医療・介護現場へ高感度のアンテナを張り巡らし、薬剤師の活動の中から新しい発見、ヒヤリ・ハット・ホット事例を収集・解析・評価し、薬剤師や医師などの医療者や患者などの医療消費者へ積極的に発信している。最近は、医薬分業(薬の処方と調剤を分離し、それぞれを医師と薬剤師が分担して行うこと)のメリットを全国民に理解してもらうためにはどのような仕組みとコンテンツが必要かや、医療・介護の分野でDXが進む中で薬剤師はどのような役割を果たすべきかなどを、日々考えている。

薬学者。東京大学薬学部卒業。その後、米国国立衛生研究所研究員、東京大学医学部助教授、九州大学大学院薬学研究院教授、東京大学大学院情報学環教授を経て、現在、東京大学大学院薬学系研究科客員教授。更に、NPO法人 医薬品ライフタイムマネジメントセンター理事長・センター長。著書には「ポケット医薬品集2024」(南山堂,2024年)、「処方せんチェック・ヒヤリハット事例解析 第2集」(じほう,2012年)、「ヒヤリハット事例に学ぶ服薬指導のリスクマネジメント」(日経BP社,2011年)、「処方せんチェック虎の巻」(日経BP社,2009年)、「薬学と社会」(じほう,2001年)、「薬を育てる 薬を学ぶ」(東京大学出版会,2007年)など他多数。

記事作成日:2019年9月20日

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