Prof.Sawadaの薬剤師ヒヤリ・ハット・ホット
事例78

メトグルコ錠による乳酸アシドーシスの初期症状を発見か?

ヒヤリした!ハットした!

乳酸アシドーシスの初期症状と思われる症状が発現した。

<処方>30歳代の女性。病院の内科。処方オーダリング。

ネシーナ錠25mg 1錠 分1 朝食後42日分
メトグルコ錠250mg 3錠 分3 毎食後42日分

<効能効果>

●メトグルコ錠250mg・500mg
2型糖尿病
ただし、下記のいずれかの治療で十分な効果が得られない場合に限る。
(1)食事療法・運動療法のみ
(2)食事療法・運動療法に加えてスルホニルウレア剤を使用

どうした?どうなった?

患者は数年前に妊娠を希望してインスリン治療に切り替え、出産後もインスリン治療を続けていた。職場復帰するにあたり、インスリンでは仕事に支障をきたすとのことで、内服薬に戻すことになり、5/12にネシーナ錠<アログリプチン安息香酸塩>、メトグルコ錠<メトホルミン塩酸塩>が処方された。

6/13の受診時に、吐き気が度々起こったためメトグルコを服用しない日があったことを医師に相談したが、「原因は薬ではない」(理由は不明)と言われたとのことであった。

数日後、患者から薬局に電話があり、メトグルコ錠を服用すると食欲もなくなると訴えた。メトグルコ錠による乳酸アシドーシスの可能性も考えられたので、服用を直ちに中止して、症状が治まる、治まらないに関わらず直ちに病院を受診し、再度医師の指示を仰ぐように伝えた。

患者は、翌々日(月曜)に受診し、症状の詳細を述べたところ、医師からメトグルコ錠の中止を指示されたとのことだった。なお、医師が乳酸アシドーシスと判断したかどうかや、検査値などは不明である。

なぜ?

初回投薬時(5/12)の説明では、乳酸アシドーシスやその初期症状についてそれほど強調したわけでもなく、通り一遍の服薬指導しか行っていなかったことが、発見を遅くした一因になったかも知れない。
医師は、血糖コントロールばかり意識しており、副作用に対する注意が疎かになっていたのかもしれない。

ホットした!

メトグルコ錠の初回投薬時や増量の際には、今回の事例を参考にした服薬指導を心掛けたい。
また、患者の副作用を把握した6/13の時点で、積極的に疑義照会をすべきだったのかも知れない。即ち、初期症状を発見した段階で対応すべきであった。

もう一言

メトグルコ錠による乳酸アシドーシス関係の使用上の注意一覧を以下に示す。

<警告>
重篤な乳酸アシドーシスを起こすことがあり、死亡に至った例も報告されている。乳酸アシドーシスを起こしやすい患者には投与しないこと。

<禁忌(次の患者には投与しないこと)>
(1)次に示す状態の患者〔乳酸アシドーシスを起こしやすい。〕
1)乳酸アシドーシスの既往
2)中等度以上の腎機能障害〔腎臓における本剤の排泄が減少する。〕
3)透析患者(腹膜透析を含む)〔高い血中濃度が持続するおそれがある。〕
4)重度の肝機能障害〔肝臓における乳酸の代謝能が低下する。〕
5)ショック、心不全、心筋梗塞、肺塞栓等心血管系、肺機能に高度の障害のある患者及びその他の低酸素血症を伴いやすい状態〔乳酸産生が増加する。〕
6)過度のアルコール摂取者〔肝臓における乳酸の代謝能が低下する。〕
7)脱水症、脱水状態が懸念される下痢、嘔吐等の胃腸障害のある患者

<慎重投与>
(1)軽度の腎機能障害〔乳酸アシドーシスを起こすおそれがある。〕
(2)軽度~中等度の肝機能障害〔乳酸アシドーシスを起こすおそれがある。〕
(3)感染症〔乳酸アシドーシスを起こすおそれがある。〕

<重要な基本的注意>
(1)まれに重篤な乳酸アシドーシスを起こすことがあるので、以下の内容を患者及びその家族に十分指導すること。
1)過度のアルコール摂取を避けること。
2)発熱、下痢、嘔吐、食事摂取不良等により脱水状態が懸念される場合には、いったん服用を中止し、医師に相談すること。
3)乳酸アシドーシスの初期症状があらわれた場合には、直ちに受診すること。

(2)ヨード造影剤を用いて検査を行う患者においては、本剤の併用により乳酸アシドーシスを起こすことがあるので、検査前は本剤の投与を一時的に中止すること(ただし、緊急に検査を行う必要がある場合を除く)。ヨード造影剤投与後48時間は本剤の投与を再開しないこと。なお、投与再開時には、患者の状態に注意すること。

(3)脱水により乳酸アシドーシスを起こすことがある。脱水症状があらわれた場合には投与を中止し、適切な処置を行うこと。利尿作用を有する薬剤(利尿剤、SGLT2阻害剤等)との併用時には、特に脱水に注意すること。

<重大な副作用>
・乳酸アシドーシス(頻度不明)
乳酸アシドーシス(血中乳酸値の上昇、乳酸/ピルビン酸比の上昇、血液pHの低下等を示す)は予後不良のことが多い。一般的に発現する臨床症状は様々であるが、胃腸症状、倦怠感、筋肉痛、過呼吸等の症状がみられることが多く、これらの症状があらわれた場合には直ちに投与を中止し、必要な検査を行うこと。なお、乳酸アシドーシスの疑いが大きい場合には、乳酸の測定結果等を待つことなく適切な処置を行うこと。

※医薬品の効能・効果、用法・用量、使用上の注意等の詳細につきましては、各製品の最新の添付文書をご参照ください。

澤田教授

澤田教授
四半世紀にわたって医療・介護現場へ高感度のアンテナを張り巡らし、薬剤師の活動の中から新しい発見、ヒヤリ・ハット・ホット事例を収集・解析・評価し、薬剤師や医師などの医療者や患者などの医療消費者へ積極的に発信している。最近は、医薬分業(薬の処方と調剤を分離し、それぞれを医師と薬剤師が分担して行うこと)のメリットを全国民に理解してもらうためにはどのような仕組みとコンテンツが必要かや、医療・介護の分野でDXが進む中で薬剤師はどのような役割を果たすべきかなどを、日々考えている。

薬学者。東京大学薬学部卒業。その後、米国国立衛生研究所研究員、東京大学医学部助教授、九州大学大学院薬学研究院教授、東京大学大学院情報学環教授を経て、現在、東京大学大学院薬学系研究科客員教授。更に、NPO法人 医薬品ライフタイムマネジメントセンター理事長・センター長。著書には「ポケット医薬品集2024」(南山堂,2024年)、「処方せんチェック・ヒヤリハット事例解析 第2集」(じほう,2012年)、「ヒヤリハット事例に学ぶ服薬指導のリスクマネジメント」(日経BP社,2011年)、「処方せんチェック虎の巻」(日経BP社,2009年)、「薬学と社会」(じほう,2001年)、「薬を育てる 薬を学ぶ」(東京大学出版会,2007年)など他多数。

記事作成日:2018年10月1日

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