Prof.Sawadaの薬剤師ヒヤリ・ハット・ホット
事例47

薬名が原因でグリセリン浣腸液の包装単位を間違った

ヒヤリした!ハットした!

B薬局にグリセリン浣腸液50%「ムネ」120mLが処方された患者が来局したが、B薬局は本剤を在庫しておらず、近隣のA薬局に借りたいと依頼した。しかし、A薬局は間違って60mLの包装製品を貸してしまい、更に患者に交付されてしまった。

<処方> 60歳の男性。病院の内科。手書き。

グリセリン浣腸 50%「ムネ」60 5本 便秘時に注入

*処方意図は、グリセリン含量が60gの製品、即ち「グリセリン浣腸50%「ムネ」120mL」である。

<効能効果>

●グリセリン浣腸液50%「ムネ」30mL・60mL・120mL・150mL(グリセリン)
便秘、腸疾患時の排便

どうした?どうなった?

A薬局に、近隣のB薬局からグリセリン浣腸の在庫が無いため「60gを貸してください。」と電話で依頼があった。その後、B薬局の事務職員が、A薬局を訪問して本剤を借りていった。後日、返却された浣腸が60g(内容液量として120mL)であったため、貸したものは60mL(グリセリン含量は30g)だと言ったところ、B薬局が本当に借りたかったものは60g(内容液量は120mL)であったこと、更に貸した60mL(グリセリン含量は30g)のグリセリン浣腸がそのまま患者へ交付されてしまっていたことも判明した。即ち、処方意図「60g、120mL」に対して「30g、60mL」の1/2過少量調剤ということになる。

なぜ?

貸し借りが行われたのは忙しい時間帯でもあり、互いの薬局がきちんと確認を行わなかった。更に、直ぐ近くの馴染みの薬局同士の貸し借りだったため、書類を交わすことなくずさんに行われてしまい、薬剤の鑑査を怠った(書類の交換は後日行うことにしていた)。
B薬局の薬剤師が電話で「60g……」と述べたとき、A薬局の薬剤師は60mLと思い込んだ。A薬局の薬剤師は、本剤がg単位で呼ばれることを想定しておらず、包装に「60」(実はグリセリン含量は30g)と書かれていた製品を貸し出してしまった。
グリセリン浣腸液50%「ムネ」の包装(内容液量)には「30mL・60mL・120mL・150mL」があるが、グリセリン含量はそれぞれ「15g・30g・60g・75g」である。包装には大きな字でmL数が記載されており、更に、30mLと30g、60mLと60gの数字が同じであり、処方作成、調剤で混乱が起こる要因となっている。

ホットした!

近隣薬局との医薬品の貸し借りはよく行われていることで、つい軽い気持ちで貸し借りをしてしまいがちであるが、もっと緊張感を持つ必要がある(貸し借りの書類はリアルタイムに交わす)。さらに、他の薬局から借りてきた薬剤は、特にしっかり鑑査を行ってから投薬する。
本剤においては、処方意図がg単位(成分量)、mL単位(製剤量)であるかを確認してから調剤にかかる。この場合、他者に確認(疑義照会など)する場合には、相手の思い込みがある可能性があるので、「今回は、60gということですが、本剤には、“60mL包装”、これはグリセリン成分が30g、“120mL包装”、これはグリセリン成分が60gの製品があります。今回は後者のことでしょうか?」のような具体的な説明(確認)を行う必要がある。

もう一言

グリセリン浣腸液50%には、他に下表のような包装の製品が発売されている。

販売名 内容液量 グリセリン含量 製造販売会社
グリセリン浣腸液 50%「マイラン」 40mL 20g ファイザー
60mL 30g
120mL 60g
150mL 75g
グリセリン浣腸液 50%「ムネ」30mL 30mL 15g 丸石製薬
グリセリン浣腸液 50%「ムネ」60mL 60mL 30g
グリセリン浣腸液 50%「ムネ」120mL 120 mL 60 g
グリセリン浣腸液 50%「ムネ」150mL 150mL 75g
グリセリン浣腸液 50%「ORY」 60mL 30g 日医工
120mL 60g
グリセリン浣腸「オヲタ」小児用 30 30mL 15g 日医工/帝國製薬
グリセリン浣腸「オヲタ」60 60mL 30g
グリセリン浣腸「オヲタ」120 120mL 60g
グリセリン浣腸「オヲタ」150 150mL 75g
グリセリン浣腸「ヤマゼン」 30mL 15g 山善製薬
60mL 30g
120mL 60g
ケンエー G 浣腸液 50% 30mL 15g 健栄製薬
40mL 20g
50mL 25g
60mL 30g
90mL 45g
120mL 60g
150mL 75g
澤田教授

澤田教授
四半世紀にわたって医療・介護現場へ高感度のアンテナを張り巡らし、薬剤師の活動の中から新しい発見、ヒヤリ・ハット・ホット事例を収集・解析・評価し、薬剤師や医師などの医療者や患者などの医療消費者へ積極的に発信している。最近は、医薬分業(薬の処方と調剤を分離し、それぞれを医師と薬剤師が分担して行うこと)のメリットを全国民に理解してもらうためにはどのような仕組みとコンテンツが必要かや、医療・介護の分野でDXが進む中で薬剤師はどのような役割を果たすべきかなどを、日々考えている。

薬学者。東京大学薬学部卒業。その後、米国国立衛生研究所研究員、東京大学医学部助教授、九州大学大学院薬学研究院教授、東京大学大学院情報学環教授を経て、現在、東京大学大学院薬学系研究科客員教授。更に、NPO法人 医薬品ライフタイムマネジメントセンター理事長・センター長。著書には「ポケット医薬品集2024」(南山堂,2024年)、「処方せんチェック・ヒヤリハット事例解析 第2集」(じほう,2012年)、「ヒヤリハット事例に学ぶ服薬指導のリスクマネジメント」(日経BP社,2011年)、「処方せんチェック虎の巻」(日経BP社,2009年)、「薬学と社会」(じほう,2001年)、「薬を育てる 薬を学ぶ」(東京大学出版会,2007年)など他多数。

記事作成日:2017年6月21日

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