Prof.Sawadaの薬剤師ヒヤリ・ハット・ホット
事例260

ダラシンTローションの処方の意図は?

ヒヤリした!ハットした!

リンデロン-VG軟膏0.12%<ベタメタゾン吉草酸エステル/ゲンタマイシン硫酸塩>とダラシンTローション1%<クリンダマイシンリン酸エステル>が顔に処方された男児。症状を母親に確認したところ、顎の湿疹と足のにおいを改善する薬を処方してもらったというので、足に塗布する薬の処方漏れが疑われたが、実はダラシンTローションが足のにおいを消す目的で処方された薬であった。

<処方1>10歳の男児。皮膚科クリニック。

リンデロン-VG軟膏0.12%5g 1日2回 顔
ダラシンTローション1% 20mL 1日2回 顔

<効能効果>

●ダラシンTローション1%<クリンダマイシンリン酸エステル>
〈適応菌種〉
クリンダマイシンに感性のブドウ球菌属、アクネ菌
〈適応症〉
ざ瘡(化膿性炎症を伴うもの)

どうした?どうなった?

患児は、母親と一緒に初めて来局した。薬剤師は母親に受診理由と現在の症状を尋ねた。

患児母:「顎の湿疹と足が蒸れてにおうので、それを診てもらった。それぞれの部位へ塗布する薬が処方されるはずです」

母親は今日初めて会った薬剤師に「足が蒸れてにおう」というのが恥ずかしそうであった(できれば言いたくなかったという雰囲気であった)。
薬剤師は、単純に足に塗布する薬の処方漏れではないかと思い、疑義照会を行うことにした。疑義照会する前に、本件を管理薬剤師に相談したところ、ダラシンTローションは足のにおいを消す目的で処方されることがあると教えてくれたため、疑義照会は、「処方漏れを確認する」のではなく、「ダラシンTローションの使用部位を確認する」ことにした。
疑義照会の結果、ダラシンTローションの使用部位は足に変更された。また、処方目的は足臭の消臭であることも医師からの回答で確認できた。
母親は足に塗布する薬も処方されていたことに安心した様子であった。ただし、薬剤師は『足のにおいを消す薬』と説明してしまったので、後から、男児と母親に対して配慮に欠ける言葉だったかと反省した。

なぜ?

薬剤師はダラシンTローションが足臭の消臭目的で使用されることを知らなかった。ダラシンTローションの適応症はざ瘡であり、添付文書の用法及び用量には「適量を1日2回、洗顔後、患部に塗布する」とあることからも、使用部位の「顔」ということには疑問をもてなかった。

ホットした!

的確な疑義照会を行うために、適応外使用を含め、薬の幅広い知識の習得に努める。皮膚科領域の疾患では、患者が薬剤師になかなか患部や症状を教えない場合も多い。患者の「薬剤師に言うのは恥ずかしい」というような思いを汲み取り、患者から聞き出すことに固執せず、処方意図は医師に尋ねるなど、適切な服薬指導が行えるようにする。

もう一言

*足のにおいについて
体臭は皮膚の上の老廃物等を皮膚常在菌が代謝することにより発生する。足臭の原因成分は一般的にイソ吉草酸、イソ吉草酸アルデヒド、ジアセチル、アセトイン、酢酸、イソアミルアルコール等の物質であるとされ、このうちイソ吉草酸はL-ロイシンを基質として皮膚常在菌により発生することが知られている[文献1)]。ヒトの皮膚常在菌として表皮ブドウ球菌(Staphylococcusepidermidis)、アクネ桿菌(Propionibacteriumacnes)、黄色ブドウ球菌(Staphylococcusaureus)が挙げられる[文献2)]。ダラシンTローションはブドウ球菌属、アクネ菌を適応菌種としているため、本事例ではその効果を期待し、適応外使用ではあるものの、処方されたと考えられる。
ヒトの体臭は医療機関や介護施設等の従事者にとっても問題となっており、消臭や脱臭について学んでおくことも薬剤師としては大切かもしれない。

【引用文献】
1)植村清美ら,日本味と匂学会誌,22:433-436(2015).
2)中溝聡,実験医学,30:3316-3322(2012).

[国試対策問題]

問題:10歳男児。母親とともに皮膚科受診後、初めて薬局に来局した。処方箋には、外用薬2剤がいずれも「顔」に使用する指示で記載されていた。薬剤師が母親に受診理由を確認したところ、「顎の湿疹と、足が蒸れてにおうことを相談した。顔と足、それぞれに塗る薬が出るはずです」と話した。母親は、足のにおいについて話すことをためらっている様子であった。この時点での薬剤師の対応として、適切なのはどれか。2つ選べ。

1 処方箋に「顔」と記載されているため、指示通り2剤とも顔に使用するよう説明する。
2 母親の説明と処方内容が一致していないため、外用薬の使用部位や処方意図を医師に確認する。
3 足のにおいの程度を把握するため、患児本人に待合室で詳しく説明させる。
4 患者・家族が話しにくい内容であることに配慮し、周囲に聞こえにくい環境で必要な情報を確認する。
5 足に使用する薬が処方されていないと判断し、薬剤師の判断で顔用の薬を足にも使用するよう指導する。

【正答】2、4
1 誤:患者側の説明と処方内容に不一致があるため、処方箋どおりに説明する前に確認が必要である。
2 正:外用薬では使用部位の確認が重要であり、処方意図が不明な場合は医師へ確認する。
3 誤:体臭に関する内容を待合室で詳しく話させるのは、羞恥心への配慮に欠ける。
4 正:体臭など話しにくい内容では、羞恥心に配慮しつつ、適正使用に必要な情報を確認する。
5 誤:薬剤師の判断だけで使用部位を変更して指導することは不適切である。

*本稿では、全国各地において収集したヒヤリ・ハット・ホット事例について、要因を明確化し、詳細に解析した結果を紹介します。事例の素材を提供していただいた全国の薬剤師の皆様に感謝申し上げます。

澤田教授

澤田教授
四半世紀にわたって医療・介護現場へ高感度のアンテナを張り巡らし、薬剤師の活動の中から新しい発見、ヒヤリ・ハット・ホット事例を収集・解析・評価し、薬剤師や医師などの医療者や患者などの医療消費者へ積極的に発信している。最近は、医薬分業(薬の処方と調剤を分離し、それぞれを医師と薬剤師が分担して行うこと)のメリットを全国民に理解してもらうためにはどのような仕組みとコンテンツが必要かや、医療・介護の分野でDXが進む中で薬剤師はどのような役割を果たすべきかなどを、日々考えている。

薬学者。東京大学薬学部卒業。その後、米国国立衛生研究所研究員、東京大学医学部助教授、九州大学大学院薬学研究院教授、東京大学大学院情報学環教授を経て、現在、東京大学大学院薬学系研究科客員教授。更に、NPO法人 医薬品ライフタイムマネジメントセンター理事長・センター長。著書には「ポケット医薬品集2024」(南山堂,2024年)、「処方せんチェック・ヒヤリハット事例解析 第2集」(じほう,2012年)、「ヒヤリハット事例に学ぶ服薬指導のリスクマネジメント」(日経BP社,2011年)、「処方せんチェック虎の巻」(日経BP社,2009年)、「薬学と社会」(じほう,2001年)、「薬を育てる 薬を学ぶ」(東京大学出版会,2007年)など他多数。

記事作成日:2026年5月29日

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