Prof.Sawadaの薬剤師ヒヤリ・ハット・ホット
事例77

患者の認識は「食事の20分前」?「食直前」の説明不足

ヒヤリした!ハットした!

患者はノボリン30R注フレックスペン<インスリンヒト(遺伝子組換え)>を「食直前」で打っていると言っていたが、実は「食事20分前」に打っていた。

<処方1>以前。70歳代の男性。病院の糖尿病内科。処方オーダリング。

ノボリン30R注フレックスペン2本(10-0-10単位) 食前30分以内

<処方2>今回。

ノボラピッド30ミックス注フレックスペン2本(10-0-10単位) 食直前

<効能効果・用法用量>

●ノボリン30R注フレックスペン
・インスリン療法が適応となる糖尿病
・本剤は速効型インスリンと中間型インスリンを3:7の割合で含有する混合製剤である。成人では通常1回4~20単位を1日2回、朝食前と夕食前30分以内に皮下注射する。なお、1日1回投与のときは朝食前に皮下注射する。投与量は症状及び検査所見に応じて適宜増減するが、維持量は通常1日4~80単位である。但し、必要により上記用量を超えて使用することがある。

●ノボラピッド30ミックス注フレックスペン
・インスリン療法が適応となる糖尿病
・本剤は、超速効型インスリンアナログと中間型インスリンアナログを3:7の割合で含有する混合製剤である。通常、成人では、初期は1回4~20単位を1日2回、朝食直前と夕食直前に皮下注射する。なお、1日1回投与のときは朝食直前に皮下注射する。投与量は症状及び検査所見に応じて適宜増減するが、維持量は通常1日4~80単位である。

どうした?どうなった?

患者はこれまでノボリン30R注フレックスペンを使用していたが、今回からノボラピッド30ミックス注フレックスペン<インスリンアスパルト(遺伝子組換え)>に変更となった。

投薬時に薬剤師が、今回からは「食事の直前」に打つようにと説明したところ、患者は「これまでも食事の直前に打っている」と返答した。ノボリン30Rは通常「食前30分以内に皮下注射」することになっているが、食直前に打つこともあるのかもしれないと薬剤師は考え、「では、これまでと同じ食直前で打ってください」と説明した。

しかし、薬剤師は薬剤交付後も「食事の直前」という患者の発言に違和感を抱いたため、患者宅に電話をして再確認したところ、患者は「ノボリン30Rを打ってから食事までは、20分位は時間が空く。」と回答した。そこで初めて、患者の認識している「食事の直前」とは、「食事の20~25分前」であることがわかった。

なぜ?

薬剤師は患者の言う「食直前」を鵜呑みにしていたが、具体的に食事の何分前にインスリンを打っているのか確認するべきであった。また、これまでノボリン30Rを具体的にどのように使用しているかのチェックを怠っていた。

ホットした!

インスリンでは、重篤な低血糖を起こすリスクや食後血糖低下作用の減弱があるため投与時期が決まっていることから、具体的な使用法をチェックすることや種類が変更になったときには、打つタイミングを具体的に、的確にアドバイスする。

もう一言

●インスリンの投与時期に関するヒヤリ・ハット事例を示す。
【事例】40歳代の男性。前回の薬歴に、ノボラピッド注フレックスペンが「朝8・昼6・夕8・寝る前10」という用法で処方され、「ノボラピッドは朝昼夕食直前と寝る前に使用してください」と服薬指導していたことが記載されていた。
今回も同様の処方であり、服薬指導を担当した薬剤師は、寝る前に使って低血糖は出なかったか不安になった。患者に話を聞いたところ、夜働いていて、1日4回くらい食事を摂るため、生活リズムに合わせて前回より1日3回から1日4回に変更になったということだった。ノボラピッドは寝る前には使用しておらず、全て食直前に使用しており、低血糖などは起きていないということだった。1日3回の時は「朝8・昼8・夜8」と入力しており、1日4回に変わった時に処方箋では(8-6-8-10)となっていたが、入力の際に「朝・昼・夕・寝る前」として入力されてしまっていた。

※医薬品の効能・効果、用法・用量、使用上の注意等の詳細につきましては、各製品の最新の添付文書をご参照ください。

澤田教授

澤田教授
四半世紀にわたって医療・介護現場へ高感度のアンテナを張り巡らし、薬剤師の活動の中から新しい発見、ヒヤリ・ハット・ホット事例を収集・解析・評価し、薬剤師や医師などの医療者や患者などの医療消費者へ積極的に発信している。最近は、医薬分業(薬の処方と調剤を分離し、それぞれを医師と薬剤師が分担して行うこと)のメリットを全国民に理解してもらうためにはどのような仕組みとコンテンツが必要かや、医療・介護の分野でDXが進む中で薬剤師はどのような役割を果たすべきかなどを、日々考えている。

薬学者。東京大学薬学部卒業。その後、米国国立衛生研究所研究員、東京大学医学部助教授、九州大学大学院薬学研究院教授、東京大学大学院情報学環教授を経て、現在、東京大学大学院薬学系研究科客員教授。更に、NPO法人 医薬品ライフタイムマネジメントセンター理事長・センター長。著書には「ポケット医薬品集2024」(南山堂,2024年)、「処方せんチェック・ヒヤリハット事例解析 第2集」(じほう,2012年)、「ヒヤリハット事例に学ぶ服薬指導のリスクマネジメント」(日経BP社,2011年)、「処方せんチェック虎の巻」(日経BP社,2009年)、「薬学と社会」(じほう,2001年)、「薬を育てる 薬を学ぶ」(東京大学出版会,2007年)など他多数。

記事作成日:2018年10月1日

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