Prof.Sawadaの薬剤師ヒヤリ・ハット・ホット
事例201

点眼薬のみが処方されていた理由

ヒヤリした!ハットした!

患者家族から、いつも目薬が足りなくなると訴えがあった。患者は1滴だけだと目薬が目に入っているか不安なため、1回に2、3滴ずつ点眼していた。次回受診時まで十分量の点眼薬が処方されているにもかかわらず、次の受診日を待たずに点眼薬のみをもらいにきていたが、薬剤師は何の疑問も持たずに交付していた。

<処方1>80歳台の女性。病院の眼科。3月6日。

ザラカム配合点眼液 7.5mL 両眼1日1回寝る前1回1滴
ヒアレイン点眼液0.1%(5mL) 5瓶 両眼1日4回1回1滴

<処方2>2月6日。

メコバラミン錠500μg「NP」 3錠 1日3回毎食後56日分
ザラカム配合点眼液 7.5mL 両眼1日1回寝る前1回1滴
ヒアレイン点眼液0.1%(5mL) 5瓶 両眼1日4回1回1滴

<効能効果>

●ザラカム配合点眼液<ラタノプロスト・チモロールマレイン酸塩>
緑内障、高眼圧症
●ヒアレイン点眼液0.1%・0.3%<精製ヒアルロン酸ナトリウム>
下記疾患に伴う角結膜上皮障害
○シェーグレン症候群、スティーブンス・ジョンソン症候群、眼球乾燥症候群(ドライアイ)等の内因性疾患
○術後、薬剤性、外傷、コンタクトレンズ装用等による外因性疾患

どうした?どうなった?

患者は緑内障で継続受診している。今回は<処方1>の点眼薬のみの処方であり、交付時に患者家族から質問を受けた。

家族:「いつも飲み薬は2ヵ月分出すのに、なぜ目薬は1ヵ月分しか出さないのか?毎回途中で目薬だけもらいに来るのが大変だ。」

薬剤師が薬歴を確認したところ、前回は1ヵ月前に<処方2>のように点眼薬に加えてメコバラミンが56日分処方されていた。薬歴をさらに遡って確認すると、メコバラミンは56日分処方され、その間に点眼薬のみ処方されているケースが何度か続いていた。
点眼薬のみを交付するときの薬歴には「目薬がなくなったのでもらいに来た」、「家族に交付」といった内容しか記載されておらず、その理由は聞き取りできていないようであった。
薬剤師は点眼薬の2.5mL瓶は50滴以上、5mL瓶は100滴以上と認識しており、ザラカム3本とヒアレイン5本が1ヵ月でなくなるのは、使い過ぎであると思われた。そのため、患者家族に薬の管理や使用状況を確認した。

家族:「薬は患者本人が管理しており、点眼も自分でしている。本人はしっかりしているので、間違えて使ってはいないと思う。」

そこで、薬剤師は患者家族に、通常はこの処方で点眼薬も2ヵ月は持つはずであることを伝えて、改めて点眼薬の使用回数と、きちんと目に入れば1滴で十分であることを説明し、普段の自宅での使用状況を確認してもらうよう依頼した。
投薬後、薬剤師が各メーカーに1本当たりの滴数を確認したところ、ザラカムは約80滴、ヒアレインは約114滴であった。それぞれ1.4本、4.0本あれば、計算上56日もつことになる。
数日後、薬剤師が家族に電話し、患者の点眼薬の使用状況を確認したところ、1日の点眼回数は間違えていないが、1回点眼するのに、ぽたぽたぽたと数滴を連続で滴下しており、目からあふれて涙のように流れ出している状態で使用していたことが判明した。患者家族が患者に1滴でよいと説明したら、「1滴だとちゃんと入っているか不安である」と述べたとのことだった。

なぜ?

薬袋に『1回1滴』と記載していただけで、薬剤師が「目の中にある薬剤をためるポケットの量は、点眼薬1滴の半分くらいしかないので、1回1滴で十分な効果があります。」などの説明を口頭でもせず、薬袋などにも記載していなかった。したがって、患者は1滴だとちゃんと点眼できているのか不安になり、毎回数滴あふれ出るほど滴下していた。
次回受診時まで十分量の点眼薬が処方されているにもかかわらず、次の受診日を待たず点眼薬のみをもらいにきていたが、薬剤師は何の疑問も持たず交付していた。また、同じ点眼薬がずっと継続処方されていたため、点眼状況などの詳細な確認を失念していた。

ホットした!

点眼薬が継続処方されている患者に投薬する場合、2種類を点眼するときには5分以上間をあけているか、1回1滴ずつ使用しているかなど、定期的に点眼薬の使用方法を改めて確認する必要がある。
また、点眼薬の処方量と処方日数が適正であるかを確認する必要がある。いつもは内服薬と点眼薬が処方されているが、時に点眼薬のみが処方されている場合には、不適正(過量)使用を疑い、患者から使用状況を聴取する。
患者が「1滴だとちゃんと入っているか不安なので何回も点眼する」、「手が震えて眼球に命中しないので何回も点眼する」などと述べた場合には、確実に点眼できる方法(げんこつ法、点眼補助器などの使用)を提案する。

もう一言

患者に目薬(点眼液・眼軟膏)の使い方を指導する場合には、点眼液メーカーの以下のサイトが有用である。
https://www.santen.co.jp/ja/healthcare/eye/eyecare/eyelotion/

*本稿では、全国各地において収集したヒヤリ・ハット・ホット事例について、要因を明確化し、詳細に解析した結果を紹介します。事例の素材を提供していただいた全国の薬剤師の皆様に感謝申し上げます。

澤田教授

澤田教授
四半世紀にわたって医療・介護現場へ高感度のアンテナを張り巡らし、薬剤師の活動の中から新しい発見、ヒヤリ・ハット・ホット事例を収集・解析・評価し、薬剤師や医師などの医療者や患者などの医療消費者へ積極的に発信している。最近は、医薬分業(薬の処方と調剤を分離し、それぞれを医師と薬剤師が分担して行うこと)のメリットを全国民に理解してもらうためにはどのような仕組みとコンテンツが必要かや、医療・介護の分野でDXが進む中で薬剤師はどのような役割を果たすべきかなどを、日々考えている。

薬学者。東京大学薬学部卒業。その後、米国国立衛生研究所研究員、東京大学医学部助教授、九州大学大学院薬学研究院教授、東京大学大学院情報学環教授を経て、現在、東京大学大学院薬学系研究科客員教授。更に、NPO法人 医薬品ライフタイムマネジメントセンター理事長・センター長。著書には「ポケット医薬品集2024」(南山堂,2024年)、「処方せんチェック・ヒヤリハット事例解析 第2集」(じほう,2012年)、「ヒヤリハット事例に学ぶ服薬指導のリスクマネジメント」(日経BP社,2011年)、「処方せんチェック虎の巻」(日経BP社,2009年)、「薬学と社会」(じほう,2001年)、「薬を育てる 薬を学ぶ」(東京大学出版会,2007年)など他多数。

記事作成日:2024年1月19日

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