Prof.Sawadaの薬剤師ヒヤリ・ハット・ホット
事例162

フェントステープの使用法と注意すべき点とは?

ヒヤリした!ハットした!

薬剤師は、フェントステープ<フェンタニルクエン酸塩>が処方された患者から、「痛いところにその都度貼って良いのか?」と質問を受けた。

<処方1>60歳の女性。乳腺腫瘍内科。処方オーダリング。

フェントステープ1mg 1枚 1日1回 計14枚
ノバミン錠5mg 3錠 1日3回 毎食後 14日分

<効能効果>

●フェントステープ0.5mg・1mg・2mg・4mg・6mg・8mg<フェンタニルクエン酸塩>
成人:非オピオイド鎮痛剤及び弱オピオイド鎮痛剤で治療困難な下記における鎮痛
(ただし、慢性疼痛は他のオピオイド鎮痛剤から切り替えて使用する場合に限る。)
○中等度から高度の疼痛を伴う各種がん
○中等度から高度の慢性疼痛

小児:非オピオイド鎮痛剤で治療困難な下記における鎮痛
(ただし、他のオピオイド鎮痛剤から切り替えて使用する場合に限る。)
○中等度から高度の疼痛を伴う各種がん

どうした?どうなった?

患者は、今回よりオキシコンチン錠<オキシコドン塩酸塩>からフェントステープに処方変更となった。
薬剤師は、フェントステープの処方意図、その使用法について一通り説明した。使用方法についての患者とのやり取りを以下に記す。

薬剤師:「まずフェントステープを貼る場所を決め、あらかじめ貼る部位を清潔にしてください。このとき、フェントステープの有効成分の吸収に影響することがあるため、石けん、アルコール、ローションなどは使用しないでください。
また、水分や汗をよく取り除いてください。なるべく体毛のないところに貼ってください。体毛が濃い場合は、カミソリを使わずハサミで短くカットしてください。
ご質問等ございますか?」
患者:「痛いところ(乳房部分)にフェントステープをその都度貼っていけば良いのね?」

なぜ?

痛み止めの貼り薬といえば一般的な消炎鎮痛薬の貼付剤に馴染みがあるため、患者は局所作用を連想してしまったと考えられる。

薬剤師は、患者がこのように考えてしまうことを想像できておらず、全身作用薬であることを説明していなかった。さらに、どこに貼付すべきか具体的な説明もされておらず、貼付前の部位の処置方法のみを説明していた。

ホットした!

全身作用のある貼付剤について丁寧にかつわかり易く説明する。

「この薬は貼り薬ですが、筋肉痛などに使うサロンパスなどの貼り薬とはまったく違うタイプの薬です。サロンパスなどは筋肉痛など痛みのある部位に貼ることで、薬が皮膚から直接吸収され鎮痛作用が働きます。

しかし、フェントステープは、その部位(乳癌部位を意味している)で直接鎮痛効果が出てくるのではなく、皮膚から吸収されて、一度体内(血液中)へと入っていきます。そして、体内を循環した後に脳内へ到達し、脳からの司令で痛みが軽減できるのです。ですから痛い部位に直接貼っても意味はないことになります。

痛みの場所によらず、比較的貼り易い胸部、腹部、上腕部、大腿部等に貼って使用してください。また、皮膚刺激を避けるため、毎回貼付部位を変えるようにしてください。」

もう一言

全身作用目的の貼付剤に対して局所作用であると誤認識していた類似事例を以下に示す。

ホクナリンテープ使用の注意点を指導

ヒヤリした!ハットした!

<処方>70歳代の男性。病院の消化器内科。オーダリング/印字出力。

ビオフェルミン配合散 3g 1日3回 毎食後 49日分
ウルソ錠100mg 6錠 1日3回 毎食後 49日分
ホクナリンテープ2mg 14枚 1日1回 1枚貼付

*添付文書では、気管支喘息治療における長期管理の基本は、吸入ステロイド剤等の抗炎症剤の使用であり、吸入ステロイド剤等により症状の改善が得られない場合、あるいは患者の重症度から吸入ステロイド剤等との併用による治療が適切と判断された場合にのみ、本剤と吸入ステロイド剤等を併用して使用することとされているが、今回は医師の判断で単独で処方された。

どうした?どうなった?

気管支喘息の患者が、ホクナリンテープ<ツロブテロール>は喉に貼るものだと勘違いしていた。
患者は咳がひどいようで、消化器内科の定期受診のときに、医師に咳止めを出してほしいと依頼した。その際、飲み薬が他にもあるので、内服薬を増やしたくないとも伝えた。その訴えにより、今回、外用剤のホクナリンテープが初めて処方された。

服薬指導時、ホクナリンテープの使用方法を説明していると、患者が喉に貼るテープであると勘違いしていたことが判明した。
ホクナリンテープの貼り方の説明書にそって、貼付部位は胸、背中、上腕のいずれかでよいことを説明するとともに、貼り方と貼るときの注意点についてくわしく説明した。

なぜ?

患者はホクナリンテープをこれまでに使用した経験がなく、気管支狭窄治療の薬で、症状のある気管支のあたり(喉のところ)に貼るものと勘違いしていたと考えられる。本貼付剤は全身作用目的の気管支喘息治療であるとの認識がなかった。即ち、患者は本薬がどのような作用機構(どのように体内に吸収されるかなど)で治療効果が発揮するか殆ど理解していなかったことになる。

ホットした!

ツロブテロールテープのように、全身作用型の貼付剤が初めて処方された際には必ず貼る場所を確認する。

薬剤師自身、全身作用型貼付剤の貼付部位や自己注射製剤の注射部位など、適用部位が血中濃度や効果に及ぼす影響を理解しておく。
患者に、全身作用目的の貼付剤の作用機構についてわかりやすく説明する。

[参考記事]
●Prof.Sawadaの薬剤師ヒヤリ・ハット・ホット
事例81 ホクナリンテープを1日に3回貼り替え!貼付部位を強調しすぎた患者指導
(記事作成日:2018年12月12日)

澤田教授

澤田教授
四半世紀にわたって医療・介護現場へ高感度のアンテナを張り巡らし、薬剤師の活動の中から新しい発見、ヒヤリ・ハット・ホット事例を収集・解析・評価し、薬剤師や医師などの医療者や患者などの医療消費者へ積極的に発信している。最近は、医薬分業(薬の処方と調剤を分離し、それぞれを医師と薬剤師が分担して行うこと)のメリットを全国民に理解してもらうためにはどのような仕組みとコンテンツが必要かや、医療・介護の分野でDXが進む中で薬剤師はどのような役割を果たすべきかなどを、日々考えている。

薬学者。東京大学薬学部卒業。その後、米国国立衛生研究所研究員、東京大学医学部助教授、九州大学大学院薬学研究院教授、東京大学大学院情報学環教授を経て、現在、東京大学大学院薬学系研究科客員教授。更に、NPO法人 医薬品ライフタイムマネジメントセンター理事長・センター長。著書には「ポケット医薬品集2024」(南山堂,2024年)、「処方せんチェック・ヒヤリハット事例解析 第2集」(じほう,2012年)、「ヒヤリハット事例に学ぶ服薬指導のリスクマネジメント」(日経BP社,2011年)、「処方せんチェック虎の巻」(日経BP社,2009年)、「薬学と社会」(じほう,2001年)、「薬を育てる 薬を学ぶ」(東京大学出版会,2007年)など他多数。

記事作成日:2022年5月10日

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