Prof.Sawadaの薬剤師ヒヤリ・ハット・ホット
事例28

インスリン製剤を車内のクーラーボックスに入れていた患者

ヒヤリした!ハットした!

患者は、インスリン製剤であるノボラピッド注フレックスペンを車内で保管する際に、保冷剤を入れていないクーラーボックスに保管していたため、変質して浮遊物が浮いたインスリンを使用していた。

<処方1>50 歳代の男性。病院の内科。処方オーダリング。

ノボラピッド注フレックスペン(300 単位) 4キット
(1日3回 毎食前 10-10-20単位)
ランタス注ソロスター(300 単位) 1キット
(1日1回 朝食前 朝12単位)

*その他の併用薬、針の処方は省略

<効能効果>ノボラピッド注フレックスペン(インスリンアスパルト(遺伝子組換え))

インスリン療法が適応となる糖尿病

どうした?どうなった?

ある日、患者から、「インスリンはどれくらいで変質をするのか? 今使用しているインスリンは、白いチラチラしたものが浮いているが、大丈夫か? 夏は暑いせいか時々白いのが出来ることがある。」と相談を受けた。

患者に詳しいインスリンの保管状況やインスリンの状態を確認した。患者は、「朝・昼・夕」と 1 日 3 回インスリンを打たなくてはいけなかったが、車で移動する仕事のため、いつも車にノボラピッド注フレックスペンを積んでおり、平日の「昼と夕」は車内でインスリンを打っていた。

そして、開封後のインスリンは室温保存でよいことを知っていたため、車内のクーラーボックスに置けば、その温度が保たれるので特に保冷剤は必要ないだろうと考えていた。そのため、インスリンを車内の後部座席に置いたクーラーボックスに保管しており、夏には時々白いチラチラしたものが浮いたり、白っぽく濁ることがあったが、あまり気にせずに使用していたということであった。

メーカーに確認したところ、「一般的な室温である 30℃以下で保存が望ましい。37℃程度であっても、数日で変質する可能性は低いと思われる。しかし、夏場の車内は 50-60℃となるため、数時間で変質する可能性がある。」との回答を得た。

薬剤師は、患者に「クーラーボックスにインスリンを保管するときには、30℃以下の温度が保てるだけの保冷剤を必ず入れてください。保管状況が 30℃を大きく超えてしまう場合には、数時間でインスリンの変質が起こる可能性があり、白濁したり、浮遊物が確認されたものは破棄して、新しいものを使用してください。」と改めて説明した。

なぜ?

患者が薬局に初めて来局したときには、すでに他の病院でノボラピッド注フレックスペンを使用しており、手技や保管状況(未開封分は冷蔵庫保存、開封後は室温保存)など大まかな説明はしたが、患者の「大丈夫、大丈夫」という言葉を信じてしまい、細かな服薬説明と確認がなされていなかった。

薬剤師は、ノボラピッド注フレックスペンが 1 日中 50-60℃の高温になる車内に置かれ(クーラーボックス内の実際の温度は不明)、目視で確認できるほど変質したにもかかわらず、患者があまり気にせず使用を継続する可能性があることを予測できなかった。そのため、平日勤務している患者が昼、夕のインスリン注射をどこでどのように行っているのかの詳細なチェックを怠っていた。

ホットした!

これまで中長期にインスリンを使用している患者であっても、患者の生活環境が変化する可能性もあることや、長く使用しているため慣れてしまい、正しい使用方法が遵守されなくなる可能性もある。患者の「わかっている」や「大丈夫」という言葉に惑わされることなく、改めて手技や保管状況、低血糖時の対応などを適宜確認する必要がある。

もう一言

  1. 1)未使用の本剤は、冷蔵庫内に、食物等とは区別して清潔に保存してください。しかし凍らせてはいけません(フリーザーの中や冷蔵庫内の冷風が直接あたるような場所には置かないでください)。凍らせた場合は使用しないでください。なお、旅行等に際して短期間ならば室温に置いてもさしつかえありません。使用中の本剤は冷蔵庫に入れないで、室温で保管し、4 週間以内に使用してください。
  2. 2)本剤は遮光して保存してください。直射日光のあたるところ、自動車内等の高温になるおそれのあるところには置かないようにしてください。
  3. 3)外箱及び本体に表示してある使用期限を過ぎたものは使用しないでください。

ノボラピッド注フレックスペンの使用説明書(ノボ・ノルディスクファーマ株式会社)から保存方法を引用する。

澤田教授

澤田教授
四半世紀にわたって医療・介護現場へ高感度のアンテナを張り巡らし、薬剤師の活動の中から新しい発見、ヒヤリ・ハット・ホット事例を収集・解析・評価し、薬剤師や医師などの医療者や患者などの医療消費者へ積極的に発信している。最近は、医薬分業(薬の処方と調剤を分離し、それぞれを医師と薬剤師が分担して行うこと)のメリットを全国民に理解してもらうためにはどのような仕組みとコンテンツが必要かや、医療・介護の分野でDXが進む中で薬剤師はどのような役割を果たすべきかなどを、日々考えている。

薬学者。東京大学薬学部卒業。その後、米国国立衛生研究所研究員、東京大学医学部助教授、九州大学大学院薬学研究院教授、東京大学大学院情報学環教授を経て、現在、東京大学大学院薬学系研究科客員教授。更に、NPO法人 医薬品ライフタイムマネジメントセンター理事長・センター長。著書には「ポケット医薬品集2024」(南山堂,2024年)、「処方せんチェック・ヒヤリハット事例解析 第2集」(じほう,2012年)、「ヒヤリハット事例に学ぶ服薬指導のリスクマネジメント」(日経BP社,2011年)、「処方せんチェック虎の巻」(日経BP社,2009年)、「薬学と社会」(じほう,2001年)、「薬を育てる 薬を学ぶ」(東京大学出版会,2007年)など他多数。

記事作成日:2016年8月29日

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