Prof.Sawadaの薬剤師ヒヤリ・ハット・ホット
事例167

口腔内の乾燥によるニトロペン舌下錠の溶解遅延

ヒヤリした!ハットした!

在宅酸素療法を行っている患者に、半年前、ニトロペン舌下錠0.3mg<ニトログリセリン>が処方されていた。しかし、効果発現まで30分ほどかかるとの訴えがあったため、ミオコールスプレー0.3mg<ニトログリセリン>が処方された。口腔内の乾燥によるニトロペン舌下錠の溶解遅延が原因と推測された。

<処方1>70歳代の女性。病院の呼吸器科。

ミオコールスプレー0.3mg 1本 胸痛時 1回1噴霧 他

*ニトロペン舌下錠0.3mgからの切り替えである。

<効能効果>

●ニトロペン舌下錠0.3mg<ニトログリセリン>
狭心症、心筋梗塞、心臓喘息、アカラジアの一時的緩解

どうした?どうなった?

患者は狭心症のためシグマート錠<ニコランジル>などを服用中で、半年前にニトロペン舌下錠0.3mgが処方されていた。狭心症の発作はほとんど起きないようであったが、今回、ミオコールスプレー0.3mgが処方された。
薬剤師は、ミオコールスプレーが処方された理由を患者に確認した。

患者:「ニトロペンは、舌下してから溶けずに、ずっと口の中に残っている。先生は、3分くらいで効いてくると言うけど、私は30分くらいかかる。だから、外出するときには、以前もらったことがあるスプレーの方がいい。味は好きじゃないけど、すぐに効くからね。」

患者自身は舌下溶解まで3~5分程度かかり、効果発現まで30分程度かかると認識している。

なぜ?

薬剤師は患者に、ニトロペン舌下錠の注意点について以下5点確認した。

(1)水で飲み込んでいないこと
(2)舌下投与していること
(3)使用期限内であること
(4)アルミ包装から出して保管していないこと
(5)包装の破れはないこと

これまで、一度だけではなく数回舌下投与し、いずれも効果発現まで時間がかかったと訴えていることから、口腔内の乾燥によるニトロペン舌下錠の溶解遅延が原因であると薬剤師は推測した。口腔内が乾燥していないか患者に確認したところ、在宅酸素療法をしており、ひどくはないが口渇は常に感じているとのことだった。

ニトロペン舌下錠が処方されたときには、口渇の有無も確認し、口渇がある場合、噛み砕いてから舌の下に置くか、可能であればひと口水を飲みこんで舌を湿らせてから舌下投与することを、事前に説明すべきであった(添付文書には記載されていないが、メーカー作成の患者指導箋には記載されている)。

また、胸痛が15分以上続くときには、大発作の可能性もあるため、直ちに受診することを伝えた。さらに、上記(1)~(5)の注意点を再度確認した。

ホットした!

薬剤の特性(今回の場合は錠剤の溶解性など)と患者の生理的状態(今回の場合は、口腔内の乾燥状態など)も常に念頭に置きながら、細かな服薬ケアが重要である。

ニトロペン舌下錠は、効果が得られない場合、1~2錠の追加ができるが、急に溶解が起こった際には過量投与となるため、口腔内乾燥などにより溶解不全かどうかの見極めは重要である。

ニトロペン舌下錠のように、発作時などたまにしか処方されない薬剤は、薬歴のサマリに記載するなどして、経過や使用状況もフォローする。さらに、初めて処方された場合には、口腔内の乾燥状態についても聴取する必要がある。

もう一言

他に頓服使用の舌下錠として、アブストラル舌下錠<フェンタニルクエン酸塩>があり、添付文書には、服用時の注意として、『水なしで服用すること。ただし、口腔内乾燥がある患者では、本剤服用前に口腔内を水で湿らせてもよい。』と記載されている。

[参考資料]
ニトロペン舌下錠0.3mg 添付文書
(日本化薬株式会社 2014年8月改訂)

アブストラル舌下錠100μg/アブストラル舌下錠200μg/アブストラル舌下錠400μg 添付文書
(協和キリン株式会社 2020年3月改訂)

澤田教授

澤田教授
四半世紀にわたって医療・介護現場へ高感度のアンテナを張り巡らし、薬剤師の活動の中から新しい発見、ヒヤリ・ハット・ホット事例を収集・解析・評価し、薬剤師や医師などの医療者や患者などの医療消費者へ積極的に発信している。最近は、医薬分業(薬の処方と調剤を分離し、それぞれを医師と薬剤師が分担して行うこと)のメリットを全国民に理解してもらうためにはどのような仕組みとコンテンツが必要かや、医療・介護の分野でDXが進む中で薬剤師はどのような役割を果たすべきかなどを、日々考えている。

薬学者。東京大学薬学部卒業。その後、米国国立衛生研究所研究員、東京大学医学部助教授、九州大学大学院薬学研究院教授、東京大学大学院情報学環教授を経て、現在、東京大学大学院薬学系研究科客員教授。更に、NPO法人 医薬品ライフタイムマネジメントセンター理事長・センター長。著書には「ポケット医薬品集2024」(南山堂,2024年)、「処方せんチェック・ヒヤリハット事例解析 第2集」(じほう,2012年)、「ヒヤリハット事例に学ぶ服薬指導のリスクマネジメント」(日経BP社,2011年)、「処方せんチェック虎の巻」(日経BP社,2009年)、「薬学と社会」(じほう,2001年)、「薬を育てる 薬を学ぶ」(東京大学出版会,2007年)など他多数。

記事作成日:2022年9月6日

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