Prof.Sawadaの薬剤師ヒヤリ・ハット・ホット
事例104

腎機能低下者に通常用量でシタグリプチンが処方

ヒヤリした!ハットした!

腎不全のため透析導入寸前の患者に、グラクティブ錠が通常用量で処方された。医師は、DPP-4阻害薬の体内消失経路(腎排泄型、肝代謝型、胆汁排泄型など)の情報を把握していなかった。

<処方1>70歳代の女性。病院の内科。処方オーダリング。

グラクティブ錠50mg 1錠 1日1回 朝食後 28日分

<処方2>腎クリニック。処方オーダリング。

クレメジン細粒分包2g 3包 1日3回 毎食間 28日分
アーガメイト20%ゼリー25g 75g 1日3回 毎食後 28日分

<効能効果>

●グラクティブ錠12.5mg/25mg/50mg/100mg<シタグリプチン>
2型糖尿病

どうした?どうなった?

患者は元々、腎クリニックからクレメジン細粒が処方されていたが、今回よりアーガメイトゼリーの処方も追加となっており(処方2)、腎不全のため透析導入寸前であった(検査値などは聞き取りしていないので不明)。

今回より病院の内科でグラクティブ錠50mg(腎排泄型)が処方開始されたが(処方1)、グラクティブは腎機能低下例において減量が必要である。そのため25mgに減量すべきだと考え疑義照会したところ、医師と薬剤師との話し合いの中でエクア錠50mg<ビルダグリプチン>(肝代謝・腎排泄型(中間型))を1日1回に処方変更となった。

なぜ?

今回より新しく追加になった薬剤で、医師による腎機能低下者に対する用量のチェックミスが生じた可能性、または医師が腎機能低下者に対して減量しなくてはいけないことを認識していなかった可能性がある。

ホットした!

DPP-4阻害薬は腎機能低下者では用量調節しなくてはならない薬剤とそうでない薬剤がある事を再度確認した。クレアチニンクリアランス(Ccr)に応じて用量調節が必要な薬剤があるので、腎機能のチェック(検査値、患者からの聞き取り、併用薬など)を怠らないように注意する。更に、各種DPP-4阻害薬の腎排泄型、肝代謝型、胆汁排泄型などの情報を医師へ提供する。

もう一言

DPP-4阻害薬の消失(腎排泄、胆汁中排泄、代謝)経路および腎機能低下者への投与量を表にまとめた。

一般名 商品名 通常1回量/用法 排泄経路*1 腎機能障害者の用量
シタグリプチン ジャヌビア/
グラクティブ
50mg/1日1回*2 腎(79-88) Ccr等に応じて用量調節
ビルダグリプチン エクア 50mg/1日2回 肝腎(22.7) 中等度以上は1日1回投与
アログリプチン ネシーナ 25mg/1日1回 腎(73) Ccr等に応じて用量調節
リナグリプチン トラゼンタ 5mg/1日1回 胆汁(0.6) 調節不要
テネリグリプチン テネリア 20mg/1日1回*2 肝腎(21-22) 調節不要
アナグリプチン スイニー 100mg/1日2回*2 腎(49.9) 重度、末期は1日1回投与
サキサグリプチン オングリザ 5mg/1日1回 肝腎(15.8、活性代謝物22.2) 中等度以上は2.5mg
トレラグリプチン ザファテック 100mg/週1回 腎(76) Ccr等に応じて用量調節
オマリグリプチン マリゼブ 25mg/週1回 腎(74) 重度、末期は12.5mg

*1:()内は未変化体尿中排泄率%
*2:増量可
中等度以上:末期腎不全患者、透析患者を含む

澤田教授

澤田教授
四半世紀にわたって医療・介護現場へ高感度のアンテナを張り巡らし、薬剤師の活動の中から新しい発見、ヒヤリ・ハット・ホット事例を収集・解析・評価し、薬剤師や医師などの医療者や患者などの医療消費者へ積極的に発信している。最近は、医薬分業(薬の処方と調剤を分離し、それぞれを医師と薬剤師が分担して行うこと)のメリットを全国民に理解してもらうためにはどのような仕組みとコンテンツが必要かや、医療・介護の分野でDXが進む中で薬剤師はどのような役割を果たすべきかなどを、日々考えている。

薬学者。東京大学薬学部卒業。その後、米国国立衛生研究所研究員、東京大学医学部助教授、九州大学大学院薬学研究院教授、東京大学大学院情報学環教授を経て、現在、東京大学大学院薬学系研究科客員教授。更に、NPO法人 医薬品ライフタイムマネジメントセンター理事長・センター長。著書には「ポケット医薬品集2024」(南山堂,2024年)、「処方せんチェック・ヒヤリハット事例解析 第2集」(じほう,2012年)、「ヒヤリハット事例に学ぶ服薬指導のリスクマネジメント」(日経BP社,2011年)、「処方せんチェック虎の巻」(日経BP社,2009年)、「薬学と社会」(じほう,2001年)、「薬を育てる 薬を学ぶ」(東京大学出版会,2007年)など他多数。

記事作成日:2019年11月25日

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