Prof.Sawadaの薬剤師ヒヤリ・ハット・ホット
事例190

抑肝散の長期服用による低カリウム血症を疑い、疑義照会

ヒヤリした!ハットした!

ツムラ抑肝散エキス顆粒を長期服用中(17ヵ月間以上)で、介護施設に入居中の患者の血清カリウム値(2.9mEq/L)が低下しており、一旦中止したところ、3ヵ月後、血清カリウム値が基準値範囲内(4.2mEq/L)に戻った。

<処方1>80歳台の女性。内科クリニック。処方オーダリング。

クロピドグレル錠75mg 1錠 1日1回 朝食後
イルベサルタン錠100mg 1錠 1日1回 朝食後
アムロジピンOD錠10mg 1錠 1日1回 朝食後
ツムラ抑肝散エキス顆粒 7.5g 1日3回 毎食後
ほかに、ランソプラゾールOD錠15mg、ロスバスタチンOD錠2.5mg、ドネペジル塩酸塩OD錠5mg、モサプリドクエン酸塩錠5mg、マグミット錠500mgを服用中である。

*身長:153cm、体重:44.1kg、血清Cr:0.54mg/mL、Ccr:56.2mL/min(昨年10月の疑義照会時の値)

<効能効果>

●ツムラ抑肝散エキス顆粒
虚弱な体質で神経がたかぶるものの次の諸症:
神経症、不眠症、小児夜なき、小児疳症

どうした?どうなった?

当該介護施設では、入居者の血液検査(肝臓系、腎臓系、尿酸、脂質系、血糖、血球系など一般の検査項目)が3ヵ月に一度の頻度で行われていた。担当薬剤師は、入居者のほとんどは腎機能が低下していることと、施設全体で酸化マグネシウム、ビタミンD3、抑肝散、利尿薬などの処方が多いことから、カリウム、マグネシウム、カルシウムなど電解質を測定することを医師に提案し、昨年9月ごろより血液検査の測定項目として追加してもらうことになった。

当該患者は、一昨年5月の入居時から<処方1>を継続服用中であった。以前から怒りやすく、大声を上げるなどの症状があったため、入居前からほかの病院にて抑肝散が処方されていた。
昨年10月の検査結果では、カリウム値が2.9mEq/L(基準値:3.5-5.0mEq/L)と低値を示していた。これまで電解質のチェックを行っていなかったので、いつごろから低値だったのかは不明である。低カリウム血症の症状は見られなかったが、抑肝散による低カリウム血症を疑い(ほかの併用薬には、添付文書上、低カリウム血症の注意喚起は記載されていない)、心疾患の既往もあるため、医師に疑義照会を行ったところ、一旦中止となった。

その後、本年1月に行った血液検査では、カリウム値が4.1mEq/Lに回復した。また、現時点では問題になるような認知症の周辺症状などは見られていないため、抑肝散は中止を継続している。

なぜ?

一般的な血液検査項目は測定されていたが、薬剤性の電解質異常が起きうることが医師、看護師に認識されていなかったため、電解質のチェックが行われていなかった。

ホットした!

介護施設では便秘治療薬の酸化マグネシウム、骨粗鬆症用薬のビタミンD3、認知症用薬の抑肝散、浮腫などで利尿薬が処方され、服用している患者が少なくないことから、共通の副作用、検査値異常を注視する必要がある。
副作用を見つけることも、施設における薬剤師の業務と考え、検査値のチェックや入居者の様子の日々の観察、看護・介護スタッフからの聞き取りをこまめに行う。

もう一言

1.ツムラ抑肝散エキス顆粒の成分
本品7.5g中、下記の割合の混合生薬の乾燥エキス3.25gを含有する。

日局ソウジュツ......4.0g 日局トウキ............3.0g
日局ブクリョウ......4.0g 日局サイコ............2.0g
日局センキュウ......3.0g 日局カンゾウ.........1.5g
日局チョウトウコウ...3.0g

2.抑肝散エキス顆粒の重大な副作用
・間質性肺炎:発熱、咳嗽、呼吸困難、肺音の異常等があらわれた場合には、本剤の投与を中止し、速やかに胸部X線、胸部CT等の検査を実施するとともに副腎皮質ホルモン剤の投与等の適切な処置を行うこと。
・偽アルドステロン症:低カリウム血症、血圧上昇、ナトリウム・体液の貯留、浮腫、体重増加等の偽アルドステロン症があらわれることがあるので、観察(血清カリウム値の測定等)を十分に行い、異常が認められた場合には投与を中止し、カリウム剤の投与等の適切な処置を行うこと。
・心不全:心不全があらわれることがあるので、観察を十分に行い、体液貯留、急激な体重増加、心不全症状・徴候(息切れ、心胸比拡大、胸水等)が認められた場合には投与を中止し、適切な処置を行うこと。
・ミオパチー、横紋筋融解症:低カリウム血症の結果として、ミオパチー、横紋筋融解症があらわれることがあるので、観察を十分に行い、脱力感、筋力低下、筋肉痛、四肢痙攣・麻痺、CK(CPK)上昇、血中および尿中のミオグロビン上昇が認められた場合には投与を中止し、カリウム剤の投与等の適切な処置を行うこと。
・肝機能障害、黄疸:AST(GOT)、ALT(GPT)、Al-P、γ-GTP等の著しい上昇を伴う肝機能障害、黄疸があらわれることがあるので、観察を十分に行い、異常が認められた場合には投与を中止し、適切な処置を行うこと。

[参考文献]
ツムラ抑肝散エキス顆粒(医療用)の添付文書
(株式会社ツムラ 2016年6月改訂)

*本稿では、全国各地において収集したヒヤリ・ハット・ホット事例について、要因を明確化し、詳細に解析した結果を紹介します。事例の素材を提供していただいた全国の薬剤師の皆様に感謝申し上げます。

澤田教授

澤田教授
四半世紀にわたって医療・介護現場へ高感度のアンテナを張り巡らし、薬剤師の活動の中から新しい発見、ヒヤリ・ハット・ホット事例を収集・解析・評価し、薬剤師や医師などの医療者や患者などの医療消費者へ積極的に発信している。最近は、医薬分業(薬の処方と調剤を分離し、それぞれを医師と薬剤師が分担して行うこと)のメリットを全国民に理解してもらうためにはどのような仕組みとコンテンツが必要かや、医療・介護の分野でDXが進む中で薬剤師はどのような役割を果たすべきかなどを、日々考えている。

薬学者。東京大学薬学部卒業。その後、米国国立衛生研究所研究員、東京大学医学部助教授、九州大学大学院薬学研究院教授、東京大学大学院情報学環教授を経て、現在、東京大学大学院薬学系研究科客員教授。更に、NPO法人 医薬品ライフタイムマネジメントセンター理事長・センター長。著書には「ポケット医薬品集2024」(南山堂,2024年)、「処方せんチェック・ヒヤリハット事例解析 第2集」(じほう,2012年)、「ヒヤリハット事例に学ぶ服薬指導のリスクマネジメント」(日経BP社,2011年)、「処方せんチェック虎の巻」(日経BP社,2009年)、「薬学と社会」(じほう,2001年)、「薬を育てる 薬を学ぶ」(東京大学出版会,2007年)など他多数。

記事作成日:2023年7月20日

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