Prof.Sawadaの薬剤師ヒヤリ・ハット・ホット
事例63

規格単位が異なる点眼液を分譲先の薬局へ譲渡

ヒヤリした!ハットした!

A薬局からの分譲依頼に対して、間違えて別の薬剤を渡してしまった。これにより患者から強いクレームがあり、大きなトラブルが発生してしまった。

<処方>50歳代の男性。病院の眼科。処方オーダリング。

チモプトール点眼液0.25% 10mL 1日2回 両眼 朝・夕

*分譲先のA薬局で受けた処方箋の内容であり、分譲元の薬局ではこの処方を扱っていない。

<効能効果>

緑内障、高眼圧症

どうした?どうなった?

ある日、A薬局から「チモプトール点眼液 0.25% 10mL」(5mLボトル2本)の分譲依頼の電話があった。後ほど受け取りに来るとのことで、いったん電話を切り、聞き取った内容をメモし、ほかの用件を済ませてから分譲品の準備をした。その際に「チモプトール点眼液 0.25%」ではなく「チモプトール点眼液 0.5%」を誤って用意してしまった。用意した薬剤を透明なビニールに入れ、相手に渡すよう事務職員に依頼した。そして、数分後に来たA薬局の事務職員にそのまま手渡された。
A薬局では、点眼液を揃えるのに少々時間がかかるため、翌日に患者に取りに来てもらう約束をしていた。チモプトール点眼液の入ったビニールは患者の薬歴のそばに置いたままで、譲渡された中身のチェックを全く行っていなかった。
そうした状況のまま患者がA薬局に来局し、いざ調剤する段階で薬の間違いに気づき、慌てて患者に説明・謝罪した。しかし、遠方から送迎自動車で来局していた患者は「二度と来ない!」と激怒し、大きなトラブルになってしまった。
後ほどA薬局が分譲元の薬局に連絡入れたことで、分譲元の薬局が初めて間違いがあったことを知り、謝罪した。

なぜ?

分譲元の薬局ではチモプトール点眼液の「0.25%」と「0.5%」の両規格単位とも在庫があったが、「0.5%」の処方数量が多いため、担当した薬剤師は、無意識に0.5%と勘違いしてしまった。
両規格単位のチモプトール点眼液の外観が非常に似ており(水色と深青色の違いがあるだけで、投薬袋が遮光のため半透明ではなく、また規格の記載もないため、中身の区別がしづらい)、受渡の際に一見しただけでは区別がつかなかった。受渡の際に、きちんと確認をしないまま、金額の受け取りだけで済ませてしまった。
A薬局では、患者が来局する前の段階で、薬剤を確認していなかった。

ホットした!

分譲にからんだミスは、患者だけでなく分譲先の薬局を巻き込んだトラブルに発展してしまうため、分譲時における(1)調剤鑑査、(2)受渡時の両薬局担当者による確認を徹底するようにする。
また、譲受側の薬局でも、(3)受取った後、薬局に持ち帰って薬剤師が確認する必要がある。

もう一言

薬の譲渡に関するほかのヒヤリハット事例を紹介する。

事例:
70歳代の男性患者。
当該の薬局は、皮膚T細胞性リンパ腫に適応のある「ゾリンザカプセル100mg」の処方箋を病院から受け付けた。普段からやり取りのある病院ではあったが、薬局としては馴染みの薄い薬剤であった。当薬局には在庫がなかったため近隣薬局に分譲を依頼しようとした。しかし、1カプセル5,000円を超える高額の薬剤ということもあり、必要最少量を分けてもらおうとあちこち電話したが、用意できなかった。
そこで、医薬品卸に電話し、早急に配達してもらおうとしたが、この薬剤はメーカーが薬剤師に直接情報提供をした後でなければ出庫ができないとのことであった。メーカーに連絡したがすぐには来てもらえず、患者も翌朝分からの手持ちがなかったため、処方元の病院の薬剤部に依頼して借り、とりあえずの分を交付した。ただし、全く薬の詳細もわからずただ渡しただけの形になってしまった。
患者は当医薬品を入院中から服用しており、医師から指導をしっかり受けていたため問題はなかったようである。本剤は適応が限定されている上に、患者数が非常に少なかったため(最大で1,500人程度)、薬剤の流通はほとんどなく、情報も少なかった。

澤田教授

澤田教授
四半世紀にわたって医療・介護現場へ高感度のアンテナを張り巡らし、薬剤師の活動の中から新しい発見、ヒヤリ・ハット・ホット事例を収集・解析・評価し、薬剤師や医師などの医療者や患者などの医療消費者へ積極的に発信している。最近は、医薬分業(薬の処方と調剤を分離し、それぞれを医師と薬剤師が分担して行うこと)のメリットを全国民に理解してもらうためにはどのような仕組みとコンテンツが必要かや、医療・介護の分野でDXが進む中で薬剤師はどのような役割を果たすべきかなどを、日々考えている。

薬学者。東京大学薬学部卒業。その後、米国国立衛生研究所研究員、東京大学医学部助教授、九州大学大学院薬学研究院教授、東京大学大学院情報学環教授を経て、現在、東京大学大学院薬学系研究科客員教授。更に、NPO法人 医薬品ライフタイムマネジメントセンター理事長・センター長。著書には「ポケット医薬品集2024」(南山堂,2024年)、「処方せんチェック・ヒヤリハット事例解析 第2集」(じほう,2012年)、「ヒヤリハット事例に学ぶ服薬指導のリスクマネジメント」(日経BP社,2011年)、「処方せんチェック虎の巻」(日経BP社,2009年)、「薬学と社会」(じほう,2001年)、「薬を育てる 薬を学ぶ」(東京大学出版会,2007年)など他多数。

記事作成日:2018年2月27日

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