Prof.Sawadaの薬剤師ヒヤリ・ハット・ホット
事例176

知識不足で『レスパイトケア』の意味が分からず

ヒヤリした!ハットした!

患者の入院先の看護師から「患者がレスパイトケア目的で入院した」と言われたが、薬剤師は『レスパイトケア』の意味が分からなかった。

<処方1>80歳代の女性。A病院の脳外科。

チクロピジン塩酸塩錠100mg「日医工」 1錠 1日1回 朝食後91日分
ユニシア配合錠HD 1錠 1日1回 朝食後91日分

どうした?どうなった?

患者は息子(50歳代)と2人暮らしであった。患者自身では薬剤(全部で10剤)の服用が困難であり、息子による服薬ケアも困難な状況となっていた。そのため、当薬局のかかりつけ薬剤師が直接面会して服薬ケアの状況を確認し、A病院の処方医にトレースレポートにて詳細を報告した。服用薬を2剤<処方1>に減らすなど、かかりつけ薬剤師による服薬支援が行われていた。

しかし、患者の容態が急に悪化したため、息子のみでなく、隣県に住んでいる患者の妹も対応できなくなった。地域包括支援センターに相談したところ、患者は在宅療養支援病院であるB病院に入院することになった。

A病院の持参薬について、B病院の看護師から薬局に問い合わせがあった際、薬剤師は患者が入院することになった理由を尋ねたところ、「レスパイトケアと在宅介入目的での入院」と看護師から回答があったが、薬剤師は『レスパイトケア』の意味が分からなかった。

薬剤師は看護師にレスパイトケアの意味を尋ねた。『レスパイトケア』とは、介護で疲れている家族の疲労軽減のため、一時的にケアを代替する家族支援サービスであることを看護師に教わり、その後薬剤師は自分でもインターネットで調べた。

なぜ?

当薬局でも1、2件の在宅患者を担当しているが、薬局内の薬剤師全員が『レスパイトケア』という言葉を初めて聞き、レスパイトケアが広く行われていることを認識していなかった。

当薬局では在宅患者を受け持っているにも関わらず、薬剤業務の活動にとどまっていた。広域で行われている在宅関連の研修会に参加するなどして、在宅に関連する広い知識を身に着けることを怠っていた。

ホットした!

調剤薬局の在宅医療への参画が今後さらに必要とされるため、処方箋を発行する医療機関だけではなく、訪問看護や介護施設等の多職種との連携も重要である。

患者を中心とした在宅医療において、各専門職種と円滑な連携ができるように、在宅に関する広い知識と情報を身につける。

在宅や介護医療に関する専門用語などについて研修する必要がある。

もう一言

~レスパイトケア<一時的中断、休息、息抜きを意味する英語(respite)である>について~

1976年に短期入所として本制度が開始された。要介護者等が地域や在宅での生活を継続していくためには、介護者との関係性が大きく影響し、介護者の負担軽減は大きな課題である。介護者の休養やQOLの確保は、在宅ベース(訪問介護等)や地域ベース(通所介護等)、ショートステイ(短期入所生活介護等)などの形でレスパイトケアとして提供され、特にショートステイは在宅生活継続のために必要不可欠なサービスである。

[参考資料]

1)短期入所生活介護におけるレスパイトケアのあり方及び在宅生活の継続に資するサービス提供の在り方に関する調査研究事業 報告書
(日本介護支援専門員協会 平成27年3月)

2)レスパイトケアの推進に資する短期入所生活介護のあり方に関する調査研究事業 報告書
(日本介護支援専門員協会 平成24年3月)

澤田教授

澤田教授
四半世紀にわたって医療・介護現場へ高感度のアンテナを張り巡らし、薬剤師の活動の中から新しい発見、ヒヤリ・ハット・ホット事例を収集・解析・評価し、薬剤師や医師などの医療者や患者などの医療消費者へ積極的に発信している。最近は、医薬分業(薬の処方と調剤を分離し、それぞれを医師と薬剤師が分担して行うこと)のメリットを全国民に理解してもらうためにはどのような仕組みとコンテンツが必要かや、医療・介護の分野でDXが進む中で薬剤師はどのような役割を果たすべきかなどを、日々考えている。

薬学者。東京大学薬学部卒業。その後、米国国立衛生研究所研究員、東京大学医学部助教授、九州大学大学院薬学研究院教授、東京大学大学院情報学環教授を経て、現在、東京大学大学院薬学系研究科客員教授。更に、NPO法人 医薬品ライフタイムマネジメントセンター理事長・センター長。著書には「ポケット医薬品集2024」(南山堂,2024年)、「処方せんチェック・ヒヤリハット事例解析 第2集」(じほう,2012年)、「ヒヤリハット事例に学ぶ服薬指導のリスクマネジメント」(日経BP社,2011年)、「処方せんチェック虎の巻」(日経BP社,2009年)、「薬学と社会」(じほう,2001年)、「薬を育てる 薬を学ぶ」(東京大学出版会,2007年)など他多数。

記事作成日:2022年12月7日

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