Prof.Sawadaの薬剤師ヒヤリ・ハット・ホット
事例22

デパケンR錠を噛んで服用、適切な剤形提案が出来なかった

ヒヤリした!ハットした!

家族から、患者がデパケンR錠を噛んで服用しているとの訴えがあった。散剤への処方変更が考えられたが、服用しにくいとのことから何の対処もとらないうちに、患者はてんかん発作を起こして入院してしまった。

<処方1>50歳代の男性。病院の内科。オーダー/印字出力。 4月20日

デパケン R錠 200mg 4錠 1日2回 朝夕食後 28日分
ハルナール D錠 0.2mg 1錠 1日1回 夕食後 28日分

<処方2>50 歳代の男性。病院の内科。オーダー/印字出力。 5月18日

バルプロ酸ナトリウム細粒 20%「EMEC」 6g 1日3回 毎食後 28日分
パルナックカプセル 0.2mg 1Cap 1日1回 夕食後 28日分

*徐放剤から細粒への切り替えに際しての用量変更は、入院中に血中濃度を測定して決定されたと考えられる。

<効能効果>デパケン R錠200mg(バルプロ酸ナトリウム徐放錠)

  • 1.各種てんかん(小発作・焦点発作・精神運動発作ならびに混合発作)およびてんかんに伴う性格行動障害(不機嫌・易怒性等)の治療
  • 2.躁病および躁うつ病の躁状態の治療
  • 3.片頭痛発作の発症抑制

どうした?どうなった?

患者の家族から「錠剤は全て噛んでしまう。食事は普通に取れているし、飲み込みも悪くはないが、いくら言っても口の中で噛んでから飲み込んでいる。粉はむせてしまって飲めない。今のところ、薬を噛んで服用していても、調子が悪いということはない。医師にも伝えてある。」との情報を以前より得ていた。

家族には、デパケンR錠を噛んで服用することで徐放性が失われ、血中濃度が安定しない可能性があり、副作用やてんかん発作が起きやすいかもしれないことを伝えていた。また、デパケン細粒への変更を医師に申し出るように提案したが、細粒は服用しにくいとのことであった。

その後、患者はてんかん発作を起こし、10日間入院した。入院中に、デパケンR錠はバルプロ酸ナトリウム細粒 20%「EMEC」に変更になった<処方2>。家族の話によると、処方2に変更になってからは、薬はご飯にかけて服用できるようになったとの事である。バルプロ酸ナトリウム細粒20%「EMEC」はジェネリック医薬品であるが、ご飯にかけるとその水分で粉っぽさがなくなり、わずかに甘みもついているため、粉薬を飲めないと言っていた当該患者でも服用可能になったようである。

なぜ?

てんかん発作の発現と、デパケンR錠を噛んで服用していたことに関連があるかどうかは不明であるが、噛んで服用することにより血中濃度が不安定になった可能性は十分に考えられる。心配になった時点で、速溶性であるバルプロ酸ナトリウムの細粒剤やシロップ剤への剤形変更を医師に進言できなかったことが悔やまれる。

ホットした!

患者毎に適切な剤形を選択するべきであり、医師への剤形を変えるなどの処方変更の提案は、問題点が発覚した時点で積極的に行うべきである。

もう一言

健常成人8名にデパケンR錠(徐放錠:200mg)及びデパケン錠(非徐放錠:200mg)を、それぞれ1回3錠(600mg)経口投与した場合の血清中バルプロ酸濃度の推移は下図のとおり、1-コンパートメントモデルを用いて算出した薬物速度論的パラメータは下表のとおりである。非徐放錠と比較して、デパケンR錠では制御された溶出に由来する血中濃度の安定した持続性が認められ、また、食事の影響を受けずに安定した吸収が得られた1)。

非徐放錠(噛み砕いて徐放性がなくなった場合を想定)は、デパケンR錠(正しく服用した場合を想定)と比較して、Tmaxの短縮、Cmaxの増加、半減期の短縮が観測されている。これにより、投与後初期の血中濃度上昇による副作用の惹起、後期の血中濃度低下による治療効果の減弱(痙攣発作)の可能性がある。

引用文献:
1) 武田明夫ら:てんかん研究, 6, 196(1988)
澤田教授

澤田教授
四半世紀にわたって医療・介護現場へ高感度のアンテナを張り巡らし、薬剤師の活動の中から新しい発見、ヒヤリ・ハット・ホット事例を収集・解析・評価し、薬剤師や医師などの医療者や患者などの医療消費者へ積極的に発信している。最近は、医薬分業(薬の処方と調剤を分離し、それぞれを医師と薬剤師が分担して行うこと)のメリットを全国民に理解してもらうためにはどのような仕組みとコンテンツが必要かや、医療・介護の分野でDXが進む中で薬剤師はどのような役割を果たすべきかなどを、日々考えている。

薬学者。東京大学薬学部卒業。その後、米国国立衛生研究所研究員、東京大学医学部助教授、九州大学大学院薬学研究院教授、東京大学大学院情報学環教授を経て、現在、東京大学大学院薬学系研究科客員教授。更に、NPO法人 医薬品ライフタイムマネジメントセンター理事長・センター長。著書には「ポケット医薬品集2024」(南山堂,2024年)、「処方せんチェック・ヒヤリハット事例解析 第2集」(じほう,2012年)、「ヒヤリハット事例に学ぶ服薬指導のリスクマネジメント」(日経BP社,2011年)、「処方せんチェック虎の巻」(日経BP社,2009年)、「薬学と社会」(じほう,2001年)、「薬を育てる 薬を学ぶ」(東京大学出版会,2007年)など他多数。

記事作成日:2016年6月9日

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