Prof.Sawadaの薬剤師ヒヤリ・ハット・ホット
事例143

低カリウム血症へのアーガメイトゼリー処方を疑義照会

ヒヤリした!ハットした!

腎機能が悪くない低カリウム血症の患者にアーガメイトゼリー<ポリスチレンスルホン酸カルシウム>が処方された。

<処方1>60歳代の女性。病院の消化器内科。処方オーダリング。

レボフロキサシン錠500mg「DSEP」 1錠 1日1回 朝食後 7日分
酸化マグネシウム錠330mg「ケンエー」 3錠 1日3回 毎食後 7日分
(自己調節可)
アーガメイト20%ゼリー25g 3個 1日3回 毎食後 7日分

<処方2>(処方変更後)

レボフロキサシン錠500mg「DSEP」 1錠 1日1回 朝食後 7日分
酸化マグネシウム錠330mg「ケンエー」 3錠 1日3回 毎食後 7日分
(自己調節可)
アスパラカリウム散50% 0.9g 1日3回 毎食後 7日分

<効能効果>

●アーガメイト20%ゼリー25g<ポリスチレンスルホン酸カルシウム>
・急性および慢性腎不全に伴う高カリウム血症

●アスパラカリウム散50%<L-アスパラギン酸カリウム>
・下記疾患又は状態におけるカリウム補給
*降圧利尿剤、副腎皮質ホルモン、強心配糖体、インスリン、ある種の抗生物質などの連用時
*低カリウム血症型周期性四肢麻痺
*心疾患時の低カリウム状態
*重症嘔吐、下痢、カリウム摂取不足及び手術後

どうした?どうなった?

患者は慢性膵炎のため近隣の公立病院に通院中で、大学病院からの継続処方などを服用中であった。今回、<処方1>について、患者から次のように伝えられた。

患者:「低カリウム血症にはゼリータイプの薬があると先生に言われた。大学病院では普段、錠剤が大きくて飲めなかったため粉薬にしてもらっていた。粉薬でも飲みにくさはあった。腎臓は悪くない。」

薬剤師は、腎機能が悪くないにもかかわらずアーガメイトゼリーが処方されていることに疑問を持った。また、もしも腎機能が低下しているならばレボフロキサシン錠の用量を再考してもらう必要があると考え、次のように医師に疑義照会した。

薬剤師:「カリウム値が低いためゼリータイプの薬を処方されたと患者さんは理解していらっしゃいますが、処方は高カリウム血症に用いるアーガメイトゼリーとなっております。今一度ご確認ください。カリウム補充であれば錠剤か散剤になりますが、患者さんはどちらかといえば散剤なら飲めるとおっしゃっています。」

疑義照会の結果、アーガメイトゼリーは削除となり、<処方2>に変更となった。
患者には、カリウム値を上げる薬が必要であるにもかかわらず、カリウム値を下げる薬が処方されていたので疑義照会したこと、しかしカリウム値を上げる薬にはゼリータイプはなく、粉薬か錠剤になることを説明し理解してもらった。

なぜ?

今回処方したのは30歳代の若い消化器科の医師で、常時で外来を担当していない。詳細は不明であるが、うっかりミスなのか、カリウム値に関係した両剤を混同した可能性がある。カリウム値を“下げる”、“上げる”が頭の中で入れ替わってしまったのかもしれない。
あるいはアーガメイトゼリーの効能を理解していなかった可能性も考えられる。

ホットした!

臨床検査値の結果については、低○○値、高○○値などがあり、医師、薬剤師、患者・家族共に、実際とは逆に判断してしまうことがあるので注意する必要がある。

もう一言

類似のヒヤリハットとして、下痢の患者に下剤(便秘の薬)、便秘の患者に下痢止めが誤処方されてしまうことがある。頭の中で、下痢、便秘、下剤、便秘薬が交錯して混乱したものと思われる。

事例:50歳代の男性。

「アミティーザカプセル24μg 2カプセル 1日2回 朝夕食後 14日分」が処方された新患である。
お薬手帳を見る限り下剤を飲むのは初めてであり、便秘がひどいのかと思って投薬に行ったところ、患者から「今日は下痢がひどくて止まらなくて、点滴受けてきたんだよね」と聴取。
処方されている薬が下剤であることと、医師が間違っている可能性があることを患者に伝えて問い合わせをしたところ、アミティーザカプセルは削除、「ロペミンカプセル1mg 2カプセル 1日2回 朝夕食後 14日分」に変更となった。
薬の名前が似ている訳ではないことから、なぜ間違えて処方されたのかは不明である。

澤田教授

澤田教授
四半世紀にわたって医療・介護現場へ高感度のアンテナを張り巡らし、薬剤師の活動の中から新しい発見、ヒヤリ・ハット・ホット事例を収集・解析・評価し、薬剤師や医師などの医療者や患者などの医療消費者へ積極的に発信している。最近は、医薬分業(薬の処方と調剤を分離し、それぞれを医師と薬剤師が分担して行うこと)のメリットを全国民に理解してもらうためにはどのような仕組みとコンテンツが必要かや、医療・介護の分野でDXが進む中で薬剤師はどのような役割を果たすべきかなどを、日々考えている。

薬学者。東京大学薬学部卒業。その後、米国国立衛生研究所研究員、東京大学医学部助教授、九州大学大学院薬学研究院教授、東京大学大学院情報学環教授を経て、現在、東京大学大学院薬学系研究科客員教授。更に、NPO法人 医薬品ライフタイムマネジメントセンター理事長・センター長。著書には「ポケット医薬品集2024」(南山堂,2024年)、「処方せんチェック・ヒヤリハット事例解析 第2集」(じほう,2012年)、「ヒヤリハット事例に学ぶ服薬指導のリスクマネジメント」(日経BP社,2011年)、「処方せんチェック虎の巻」(日経BP社,2009年)、「薬学と社会」(じほう,2001年)、「薬を育てる 薬を学ぶ」(東京大学出版会,2007年)など他多数。

記事作成日:2021年8月5日

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