Prof.Sawadaの薬剤師ヒヤリ・ハット・ホット
事例18

医師と薬剤師双方のジゴシン散の用法入力ミスで、倍量投与しそうになった

ヒヤリした!ハットした!

病院の処方入力ミスにより、これまで1日2回(1回0.035mg、1日0.07mg)で投与されていたジゴシン散<ジゴキシン>が1日1回(1回0.07mg、1日0.07mg)で処方されていた。薬局では、処方通り1日1回(1回0.07mg、1日0.07mg)で調剤したが、コンピューターへの入力を間違ってDo処方としてしまったため、電子薬歴、薬袋、薬情に1日2回(朝夕食後)と記載されてしまった。このまま交付された場合、患児は2倍量(1回0.07mg、1日0.14mg)のジゴシン散を服用することになり、大変危険な状態であった。

<処方1>1歳の男児。A病院の小児科。オーダー/印字出力。

ラシックス細粒 4% 8mg(成分量) 1日2回 朝夕食後 30日分
アルダクトン A細粒10% 8mg(成分量)1日2回 朝夕食後 30日分
ジゴシン散 0.1% 0.07mg(成分量) 1日1回 朝食後 30日分
レニベース錠 5mg 0.1錠(粉砕) 1日1回 朝食後 30日分
パンビタン末 0.5g 1日1回 朝食後 30日分
ワイドシリン細粒 20% 100mg(成分量) 1日1回 朝食後 30日分
ワーファリン錠 1 mg 0.4錠 1日1回 朝食後 30日分

<ジゴシン散 0.1%(ジゴシン)の効能効果>

  • 次の疾患に基づくうっ血性心不全(肺水腫、心臓喘息等を含む)
    先天性心疾患、弁膜疾患、高血圧症、虚血性心疾患(心筋梗塞、狭心症等)、肺性心(肺血栓・塞栓症、肺気腫、肺線維症等によるもの)、その他の心疾患(心膜炎、心筋疾患等)、腎疾患、甲状腺機能亢進症ならびに低下症等
  • 心房細動・粗動による頻脈
  • 発作性上室性頻拍
  • 次の際における心不全及び各種頻脈の予防と治療
    手術、急性熱性疾患、出産、ショック、急性中毒

どうした?どうなった?

患児の親はこれまでB病院の処方せんを持って来局していたが、担当医がA病院(当該薬局の門前病院)で診察するようになったため、今回初めてA病院を受診し、A病院の処方せんをもって来局した。A病院からは、処方入力ミスにより1日2回(1回 0.035mg、1日 0.07mg)でなく1日1回(1回 0.07mg、1日 0.07mg)の処方せんが発行されていたが、当該薬局では、その変更を見逃して疑義照会せずにそのまま調剤してしまった。
さらに、当該薬局での処方入力時、処方せん通りの1日1回(朝食後)ではなく、前回来局した際の1日2回(朝夕食後)のままで(Do処方として)入力してしまった。このため、電子薬歴、薬袋、薬情を「1日2回(朝夕食後)」で作成してしまった。
このまま交付された場合、患児は2倍量(1回 0.07mg、1日 0.14mg)のジゴシン散を服用することになり、大変危険であったが、幸い調剤薬鑑査者が間違いに気がつき、事なきを得た。

なぜ?

(病院側)
担当医がB病院から異動してA病院で診察することなり、処方情報の転記ミスが起こった可能性がある。なお、医師がなぜ、どの様な段階で間違えたのかは不明である。

(薬局側)
処方鑑査時、前回の薬歴の確認が不十分であった。今回の処方せんとコンピューターに入力された情報(薬歴、薬袋、薬情)とを照らし合わせて、相違を発見できなかった。従って、同じと判断されてそのままDo入力されてしまった。調剤者も、コンピューターに入力された前回の処方情報(薬歴)と、処方せんそのものでなく今回の処方入力情報のみを比較したため、Do処方と判断して間違いを見逃していた。

ホットした!

処方せん鑑査においては、薬歴に記載された前回処方から変更がないかどうか必ず確認する。また、患者インタビューから処方変更の有無を聴取する。変更、未変更に疑義があれば、必ず医師に照会する。処方せん鑑査、調剤、調剤薬鑑査、投薬時、いずれにおいても、必ず「処方せん」通りに調剤されているかどうか、処方せんの内容と薬袋、薬情に記載されている内容が一致するかどうかを確認することを徹底する。

澤田教授

澤田教授
四半世紀にわたって医療・介護現場へ高感度のアンテナを張り巡らし、薬剤師の活動の中から新しい発見、ヒヤリ・ハット・ホット事例を収集・解析・評価し、薬剤師や医師などの医療者や患者などの医療消費者へ積極的に発信している。最近は、医薬分業(薬の処方と調剤を分離し、それぞれを医師と薬剤師が分担して行うこと)のメリットを全国民に理解してもらうためにはどのような仕組みとコンテンツが必要かや、医療・介護の分野でDXが進む中で薬剤師はどのような役割を果たすべきかなどを、日々考えている。

薬学者。東京大学薬学部卒業。その後、米国国立衛生研究所研究員、東京大学医学部助教授、九州大学大学院薬学研究院教授、東京大学大学院情報学環教授を経て、現在、東京大学大学院薬学系研究科客員教授。更に、NPO法人 医薬品ライフタイムマネジメントセンター理事長・センター長。著書には「ポケット医薬品集2024」(南山堂,2024年)、「処方せんチェック・ヒヤリハット事例解析 第2集」(じほう,2012年)、「ヒヤリハット事例に学ぶ服薬指導のリスクマネジメント」(日経BP社,2011年)、「処方せんチェック虎の巻」(日経BP社,2009年)、「薬学と社会」(じほう,2001年)、「薬を育てる 薬を学ぶ」(東京大学出版会,2007年)など他多数。

記事作成日:2016年4月25日

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