Prof.Sawadaの薬剤師ヒヤリ・ハット・ホット
事例136

患者の家族がエフピーとトラムセットの併用禁忌の疑義照会を拒否

ヒヤリした!ハットした!

トラムセット配合錠<トラマドール塩酸塩・アセトアミノフェン>が処方された患者で、お薬手帳からエフピーOD錠<セレギリン塩酸塩>を服用していることが判明したため、疑義照会しようとしたが、家族(患者の息子)に拒否された。

<処方1>70歳代の男性。A総合病院の整形外科。処方オーダリング。

トラムセット配合錠 4錠 1日4回 毎食後および寝る前 14日分

<効能効果>

●トラムセット配合錠<トラマドール塩酸塩・アセトアミノフェン>
・非オピオイド鎮痛剤で治療困難な非がん性慢性疼痛、抜歯後の疼痛における鎮痛
●エフピーOD錠2.5<セレギリン塩酸塩>
・パーキンソン病
(レボドパ含有製剤を併用する場合:Yahr重症度ステージI~IV、
レボドパ含有製剤を併用しない場合:Yahr重症度ステージI~III)

どうした?どうなった?

患者は腰痛のため、A総合病院の整形外科からトラムセット配合錠が処方され、薬は患者の家族(息子)が取りに来た。投薬時、お薬手帳を確認したところ、他県のB大学病院でエフピーOD錠を服用中であることが判明した。セレギリンとトラマドールは併用禁忌であるため、疑義照会しようとして、問い合わせに時間がかかることを家族に説明したところ、息子は次のように答えた。
息子:「自分は医療関係の仕事をしている(詳細は不明)。B大学病院の主治医に先ほどトラムセットが処方されたことを伝え、併用可と返事を得ているから、そのままで良い。」
A総合病院の整形外科での診察後、薬局に来るまでにB大学病院の医師に電話で相談したとのことであった。

そこで、(1)トラムセットを併用することで中枢、呼吸器、血管に重篤な副作用がでる可能性があること、(2)大学病院の主治医に禁忌であることをもう一度伝えて確認させてほしいことなどを伝えたが、患者の息子は聞き入れなかった。
そこで、薬剤師は重ねて、次のように述べた。
薬剤師:「もし禁忌であるトラムセットを飲んで大きな副作用がでたら、入院になる可能性もあり、辛い思いをするのはお父様ですよね。」
ここで、やっと説得することができ、A総合病院整形外科の医師へ疑義照会し、患者がエフピーを服用中でトラムセットが禁忌であることを伝えたところ、トラムセットはカロナール1500mgとノイロトロピン錠4単位4錠に変更された。
投薬時に、薬剤師から息子に次のように伝えた。
薬剤師:「お薬手帳があったのでチェックできて助かりました。」
しかし、息子からは特に反応はなかった。

なぜ?

患者の息子は医療関係者のようで、B大学病院の主治医と直接電話で連絡が取れる立場にいて、B大学病院の主治医に絶対的な信頼を置いていたため、薬局薬剤師の言葉は聞き入れることができなかったようである。
B大学病院の主治医は、患者の息子から相談された時点で、エフピーとトラムセットが禁忌であることを認識していなかった可能性がある。
トラムセットを処方した整形外科医も、お薬手帳や患者インタビューなどからの併用薬の確認と、両剤の相互作用を失念していた可能性がある。

ホットした!

薬剤師は、医師や患者が正当な理由なく「大丈夫」と言っても、納得できない限りは、安易に薬剤を交付しない。
今回の事例でもそうだが、お薬手帳の果たす役割は大きい。お薬手帳は必ず持参し、医師などに提示するように、その重要性を患者に伝えていく。

もう一言

患者や家族などが医療関係者の場合は注意する必要がある。医療関係者とは、医師、薬剤師、看護師、検査技師、介護関係者、製薬会社関係者(MRや研究者など)である。処方内容に疑問があれば、患者や家族などがどのような立場であっても、処方を発行した医師に疑義照会を行う必要がある。以下に類似事例を示す。

製薬企業に勤務する患者がリウマトレックスを過量服用

患者はリウマトレックスカプセル<メトトレキサート>を休薬期間を置かないで連日服用し、8日間で飲み切ってしまった。

<処方2>30歳代の男性。関節リウマチ。処方オーダリング。

(1)リウマトレックスカプセル2mg 3Cap(2-1) 1日2回 月曜日の朝夕食後 4日分
(2)リウマトレックスカプセル2mg 1Cap 1日1回 火曜日の朝食後 4日分

どうした?どうなった?

薬剤師がリウマトレックスの服用方法を説明しようとしたところ、患者は「私は、製薬会社に勤務しているので薬の飲み方はわかっている。服薬指導は必要ない。」と述べ、薬だけ受け取って帰っていった。ところが1ヵ月後、医師からリウマトレックスを毎日服用していたようだとの連絡があった。すなわち、1日3カプセルを4日間連続で服用し、その後1日1カプセルを4日間連続で服用していた。幸いにも、骨髄抑制などの有害事象は起きていなかった。服用終了後3週間経過しており、今後有害事象が発現することは考えにくいため、医師は前回と同じ処方を行った。再来局時に患者は、「リウマトレックスのように特殊な飲み方する薬があるのですね。全く知らなかった。」と言った。

澤田康文『ヒヤリハット事例に学ぶ服薬指導のリスクマネジメント2』(日経BP、2008年)

澤田教授

澤田教授
四半世紀にわたって医療・介護現場へ高感度のアンテナを張り巡らし、薬剤師の活動の中から新しい発見、ヒヤリ・ハット・ホット事例を収集・解析・評価し、薬剤師や医師などの医療者や患者などの医療消費者へ積極的に発信している。最近は、医薬分業(薬の処方と調剤を分離し、それぞれを医師と薬剤師が分担して行うこと)のメリットを全国民に理解してもらうためにはどのような仕組みとコンテンツが必要かや、医療・介護の分野でDXが進む中で薬剤師はどのような役割を果たすべきかなどを、日々考えている。

薬学者。東京大学薬学部卒業。その後、米国国立衛生研究所研究員、東京大学医学部助教授、九州大学大学院薬学研究院教授、東京大学大学院情報学環教授を経て、現在、東京大学大学院薬学系研究科客員教授。更に、NPO法人 医薬品ライフタイムマネジメントセンター理事長・センター長。著書には「ポケット医薬品集2024」(南山堂,2024年)、「処方せんチェック・ヒヤリハット事例解析 第2集」(じほう,2012年)、「ヒヤリハット事例に学ぶ服薬指導のリスクマネジメント」(日経BP社,2011年)、「処方せんチェック虎の巻」(日経BP社,2009年)、「薬学と社会」(じほう,2001年)、「薬を育てる 薬を学ぶ」(東京大学出版会,2007年)など他多数。

記事作成日:2021年4月20日

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