
食後の胸焼けにニトロペン舌下錠を長期使用していた患者
来局のたびにニトロペン舌下錠<ニトログリセリン>を20回分の追加処方を訴える患者に使用状況などを尋ねたところ、“食後の胸やけ”にも使用していたことが判明した。長期にわたってその誤使用を発見できていなかった。
<処方1>50歳代の女性。病院の循環器科。
| バイアスピリン錠100mg | 1錠 1日1回朝食後60日分 |
|---|---|
| ラシックス錠40mg | 1錠 1日1回朝食後60日分 |
| メインテート錠5mg | 1錠 1日1回朝食後60日分 |
| タケプロンOD錠15 | 1錠 1日1回夕食後60日分 |
| 他6剤 | |
| ニトロペン舌下錠0.3mg | 1錠 頓用・胸痛時20回分 |
<効能効果>
●ニトロペン舌下錠0.3mg<ニトログリセリン>
狭心症、心筋梗塞、心臓喘息、アカラジアの一時的緩解
患者は以前からニトロペン舌下錠を使用していた。調剤した薬剤師が薬歴を確認すると、6ヵ月前より患者からニトロペン舌下錠が欲しいと4回連続で申し出があり、疑義照会にて20回分ずつ追加処方されていた。今回も申し出があったため、処方医に疑義照会し、20回分が追加となった。
投薬した薬剤師はニトロペン舌下錠の使用頻度が高いと感じ、患者に残薬や使用状況などを確認した。
患者:「週に2~3回使うことがあるよ。一番使うときは食後で、特に“食べ過ぎた後(食後の胸焼けのため)”なんだよ。若い息子家族と同居しているので、食事に脂っこいものが出ることが多いのですが、文句が言えないんだよね」
薬剤師は、来局のたびに処方追加の疑義照会を行っていたが、単純な処方オーダリングもれとの認識しか持たずに機械的に処理し、患者の体調や薬の使用状況などの確認を怠っていたため、誤使用を発見できなかった。
患者は、狭心症発作(胸の奥が痛い、胸がしめつけられる・押さえつけられる、胸が焼けつくような感じなど)の症状である「胸が焼けつくような感じ」が食後の胸焼けと似ていたことから、後者の症状でも有効であろうと判断して勝手に使用していた。
頓用の薬剤が処方されている患者に対して、症状や使用状況(頻度、服用間隔など)の定期的な確認を徹底することとした。また、頓用薬に限らず、「どのような疾患なのか?」、「なぜ薬が処方されたのか?」、「服用する薬がどのような作用で効果を発揮するのか?」などを分かりやすく説明し、患者の病識や薬識を高めて誤用や服薬意欲の低下を防いでいくことをスタッフ間で申し合わせた。
以下に服薬指導例を示す。
「この薬は、心臓の血管を拡張させ、心臓に血液や酸素を供給するとともに、全身の静脈血管の抵抗を減らして心臓の負担を軽減させる作用があります。通常、狭心症などの発作をやわらげるために用いられます。狭心症発作の症状には、胸の奥が痛い、胸がしめつけられる・押さえつけられる、胸が焼けつくような感じなどがあります。しかし、食後の胸焼けとはまったく性質の違うものですから、その様な場合には決して服用しないようにしてください」
ニトログリセリンは、1847年にイタリアのSobreroにより合成され、1879年にイギリスのMurrellが狭心症治療薬としての有用性を見出し、その後にアメリカのDavisとHeringによって舌下錠として製剤化された。本邦では1953年に日本化薬がニトログリセリン舌下錠として発売した。ニトログリセリンは強い揮散性を有するが、それが少なく室温でも安定な製剤として、ニトロペン舌下錠が開発された。現在、狭心症の発作時に欠かすことのできない薬剤として汎用されている。
ニトロペン舌下錠0.3mgの医薬品インタビューフォームより
[国試対策問題]
問題:50歳代の女性。狭心症のため、ニトログリセリン舌下錠が頓用で処方されている。薬剤師が服薬状況を確認したところ、患者は「脂っこい食事の後に胸が焼ける感じがするときにも使っている」と話した。薬剤師が患者から追加で聴取する情報のうち、狭心症発作を最も疑う所見はどれか。1つ選べ。
1 症状は食後にしか出現せず、制酸薬を服用すると軽快する。
2 横になると増悪し、胃酸の逆流を感じる。
3 前かがみ姿勢で軽快し、食べ過ぎで増悪する。
4 食後30分以内に胸骨後部の灼熱感が出現する。
5 前胸部圧迫感が階段昇降時に出現し、安静にすると軽快する。
【正答】5
1 食後に出現し、制酸薬で改善する症状からは、狭心症よりも胃食道逆流症(GERD)などの消化器疾患が疑われる。
2 臥位増悪と呑酸(酸逆流感)はGERDに典型的な所見である。
3 姿勢変化や食べ過ぎとの関連は消化器由来症状を示唆し、狭心症の典型像ではない。
4 食後早期の胸骨後部灼熱感は胸やけからは、逆流性食道炎が疑われる。
5 階段昇降時などの労作時に誘発され、安静で軽快する前胸部圧迫感は、典型的な労作性狭心症の特徴である。
*本稿では、全国各地において収集したヒヤリ・ハット・ホット事例について、要因を明確化し、詳細に解析した結果を紹介します。事例の素材を提供していただいた全国の薬剤師の皆様に感謝申し上げます。

澤田教授
四半世紀にわたって医療・介護現場へ高感度のアンテナを張り巡らし、薬剤師の活動の中から新しい発見、ヒヤリ・ハット・ホット事例を収集・解析・評価し、薬剤師や医師などの医療者や患者などの医療消費者へ積極的に発信している。最近は、医薬分業(薬の処方と調剤を分離し、それぞれを医師と薬剤師が分担して行うこと)のメリットを全国民に理解してもらうためにはどのような仕組みとコンテンツが必要かや、医療・介護の分野でDXが進む中で薬剤師はどのような役割を果たすべきかなどを、日々考えている。
薬学者。東京大学薬学部卒業。その後、米国国立衛生研究所研究員、東京大学医学部助教授、九州大学大学院薬学研究院教授、東京大学大学院情報学環教授を経て、現在、東京大学大学院薬学系研究科客員教授。更に、NPO法人 医薬品ライフタイムマネジメントセンター理事長・センター長。著書には「ポケット医薬品集2024」(南山堂,2024年)、「処方せんチェック・ヒヤリハット事例解析 第2集」(じほう,2012年)、「ヒヤリハット事例に学ぶ服薬指導のリスクマネジメント」(日経BP社,2011年)、「処方せんチェック虎の巻」(日経BP社,2009年)、「薬学と社会」(じほう,2001年)、「薬を育てる 薬を学ぶ」(東京大学出版会,2007年)など他多数。
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