Prof.Sawadaの薬剤師ヒヤリ・ハット・ホット
事例193

仕事の都合で、朝食の1時間後にバラクルード錠を服用

ヒヤリした!ハットした!

患者には、バラクルード錠<エンテカビル>が処方されていた。空腹時(食後2時間以降かつ次の食事の2時間以上前)に服用すべきところ、仕事の都合上、朝食後1時間に服用していた。薬剤師は、患者の食事などの生活パターンを聴取しておらず、具体的な服薬時間を指導していなかった。

<処方1>70歳台の女性。病院の消化器科。

バラクルード錠0.5mg 1錠 1日1回 朝食後2時間 84日分
ほかに内服薬5剤。

*B型肝炎ウイルスは検出限界未満で安定した状態である。

<効能効果>

●バラクルード錠0.5mg<エンテカビル>
B型肝炎ウイルスの増殖を伴い肝機能の異常が確認されたB型慢性肝疾患におけるB型肝炎ウイルスの増殖抑制

どうした?どうなった?

患者は、B型慢性肝炎でバラクルード錠0.5mgを継続服用していた。過去には、添付文書どおり「空腹時(食後2時間以降かつ次の食事の2時間以上前)に服用」と指導していた。
投薬時に、薬剤師は上記を遵守しているかどうか服用状況を確認していたが、患者はこれまで「問題なく飲めている」、「気になることはない」と答えていた。
今回、薬剤師は投薬時にあらためて確認した。

薬剤師:「朝食の2時間後に服用するのは大変だと思いますが、何時ごろ服用していますか?飲み忘れはないですか?」
患者:「仕事の都合により、朝食後1時間で服用しているんです。工場の生産ラインで流れ作業の仕事をしていて、薬を飲むために途中で抜けるのが難しいんです」
薬剤師:「そうですか。患者さんの食事などの生活のパターンを教えていただけますか?」
患者:「朝食は午前7時30分 ごろ食べ終わり、午前9時から仕事になります。午前10時30分に10分間のトイレ休憩、午後12時から昼休み(昼食の時間)です。薬は自宅をでる直前の午前8時30分に飲んでいます」
薬剤師:「では、夕食などは何時ごろに摂っていますか?」
患者:「夕食は午後8時ごろで就寝は午後11時ごろですね。その間、間食はしません」
薬剤師:「であれば、薬の服用は食後3時間ほど空いている就寝前が良いかと思います。」
患者:「薬を飲む時間が就寝前ならばとても助かります。」

医師に疑義照会を行い、バラクルード錠の服用時点は、「朝食後2時間」から「就寝前」に変更された。

なぜ?

患者は、バラクルード錠が最初に処方されて数日間は、仕事を一時的にほかの人と交代してもらい午前9時30分に服薬できていたが、毎日交代を依頼するのは申し訳なく感じた。そこで、朝食後から2時間以上空けて服薬することは認識していたが、出勤直前の食後1時間で服用するようになった。また、患者はバラクルード錠を空腹時に服用しなければならない理由を把握していなかった。

薬剤師は、医師の「朝食後2時間」という指示に対して何の疑問も持たず、患者に服用時点を説明しただけで、食後服用だと空腹時服用よりバラクルード錠の効果が減弱することの説明を怠っていた。また、患者が、朝食の2時間後に問題なく薬を服用することが可能かどうかを、具体的に確認できていなかった。
医師もバラクルードを処方する際に、患者の生活習慣を考慮することなく、服用時点を決めた可能性がある。

ホットした!

特に服用方法が特殊な薬剤に関しては、薬剤師はその理由をきちんと患者に理解してもらった上で、個々の患者の生活習慣に合うように、具体的な指導を行うことが大切である。
即ち、「空腹時(食後2時間以降かつ次の食事の2時間以上前)に服用する」のような抽象的な指導ではなく、「朝食後(午前8時)から2時間空いた午前10時以降に服用し、その後2時間空けて午後12時以降に昼食を摂る」のように、患者の食事パターンに合わせた具体的な指導を行う。

もう一言

エンテカビルの体内動態に及ぼす食事の影響
エンテカビルを食事とともに投与すると、吸収率が低下する。
エンテカビル0.5mgを標準高脂肪食(945kcal、脂肪54.6g)又は軽食(379kcal、脂肪8.2g)とともに経口投与したとき、吸収(tmax)はわずかに遅延し(食事とともに投与:1~1.5時間、絶食時:0.75時間)、Cmaxは44~46%、AUCは18~20%低下した。

[参考文献]
バラクルード錠0.5mgの医薬品インタビューフォーム
(ブリストル・マイヤーズ スクイブ株式会社 2019年5月(第9版))

※以下サイトより検索の上、参考文献として使用
添付文書等情報検索 | 独立行政法人 医薬品医療機器総合機構 (pmda.go.jp)

*本稿では、全国各地において収集したヒヤリ・ハット・ホット事例について、要因を明確化し、詳細に解析した結果を紹介します。事例の素材を提供していただいた全国の薬剤師の皆様に感謝申し上げます。

澤田教授

澤田教授
四半世紀にわたって医療・介護現場へ高感度のアンテナを張り巡らし、薬剤師の活動の中から新しい発見、ヒヤリ・ハット・ホット事例を収集・解析・評価し、薬剤師や医師などの医療者や患者などの医療消費者へ積極的に発信している。最近は、医薬分業(薬の処方と調剤を分離し、それぞれを医師と薬剤師が分担して行うこと)のメリットを全国民に理解してもらうためにはどのような仕組みとコンテンツが必要かや、医療・介護の分野でDXが進む中で薬剤師はどのような役割を果たすべきかなどを、日々考えている。

薬学者。東京大学薬学部卒業。その後、米国国立衛生研究所研究員、東京大学医学部助教授、九州大学大学院薬学研究院教授、東京大学大学院情報学環教授を経て、現在、東京大学大学院薬学系研究科客員教授。更に、NPO法人 医薬品ライフタイムマネジメントセンター理事長・センター長。著書には「ポケット医薬品集2024」(南山堂,2024年)、「処方せんチェック・ヒヤリハット事例解析 第2集」(じほう,2012年)、「ヒヤリハット事例に学ぶ服薬指導のリスクマネジメント」(日経BP社,2011年)、「処方せんチェック虎の巻」(日経BP社,2009年)、「薬学と社会」(じほう,2001年)、「薬を育てる 薬を学ぶ」(東京大学出版会,2007年)など他多数。

記事作成日:2023年9月14日

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