Prof.Sawadaの薬剤師ヒヤリ・ハット・ホット
事例168

慢性腎不全患者へのワントラム錠処方を疑義照会

ヒヤリした!ハットした!

患者は、坐骨神経痛のため病院の整形外科からトラマールOD錠<トラマドール塩酸塩>が処方されて服用していたが、治療効果が得られないということからワントラム錠<トラマドール塩酸塩>に処方変更となった。しかし、患者は慢性腎不全のため腎クリニックで治療を受けており、ワントラム錠は高度な腎障害患者には禁忌であった。

<処方1>40歳代の男性。病院の整形外科。前回

トラマールOD錠25mg 3錠 1日3回 毎食後 28日分
リリカカプセル25mg 2Cp 1日2回 朝夕食後 28日分

<処方2>今回(疑義照会前)

ワントラム錠100mg 1錠 1日1回 朝食後 28日分
リリカカプセル25mg 2Cp 1日2回 朝夕食後 28日分

<処方3>今回(疑義照会後)

トラマールOD錠25mg 6錠 1日3回 毎食後 28日分
リリカカプセル25mg 2Cp 1日2回 朝夕食後 28日分

<効能効果>

●トラマールOD錠25mg・50mg<トラマドール塩酸塩>
非オピオイド鎮痛剤で治療困難な下記疾患における鎮痛
○疼痛を伴う各種癌
○慢性疼痛

●ワントラム錠100mg<トラマドール塩酸塩>
非オピオイド鎮痛剤で治療困難な下記疾患における鎮痛
○疼痛を伴う各種癌
○慢性疼痛

どうした?どうなった?

患者は、慢性腎不全のため腎クリニックを受診していた。一方、坐骨神経痛で病院の整形外科から<処方1>のトラマールOD錠25mg<トラマドール塩酸塩>が処方されていたが、患者の話によると、坐骨神経痛の治療効果が得られないため、<処方2>のワントラム錠100mgに変更された。

薬剤師は、ワントラム錠が高度の腎障害患者には禁忌であることに気付き、患者に腎機能の程度を尋ねた。しかし、クレアチニン値などの数値が不明であったため、患者が高度な腎障害患者であるかどうかの確認も含めて、医師に疑義照会を行った。

腎機能検査値など具体的な内容は教えてもらえなかったが、今回はワントラム錠を取り止めてトラマールOD錠を増量することになり、次回の診察で治療効果を検討することとなった。

なぜ?

同じトラマドール製剤でも、トラマールOD錠は腎障害患者に慎重投与であるのに対し、ワントラム錠は高度な腎障害患者に禁忌となっている。整形外科の処方医は、患者が腎不全であることは認識していたが、トラマドール製剤にこのような違いがあることを認識していなかった。処方医は、トラマドールを75mg/日から100mg/日に増量するだけなので問題ないと考えていたと思われる。

ホットした!

医師、薬剤師共に、同じ成分(トラマドール)の製剤であっても、薬物動態の相違から、禁忌・慎重投与が異なる場合があることを認識する。

同一成分薬で複数剤形がある場合や同系統薬が複数ある場合、使用上の注意、体内動態、副作用・相互作用の各製剤の特徴や相違点など、まとめておくことが必要である。

もう一言

<トラマドールの体内消失メカニズム>
健康成人男性にトラマドール塩酸塩カプセル25mg、50mg又は100mgを空腹時に単回経口投与したとき、投与後24時間までの尿中排泄率に用量間で差はなく、
・投与量の12~16%が未変化体
・投与量の12~15%がモノ-O-脱メチル体(M1)
・投与量の15~18%がモノ-O-脱メチル体(M1)の抱合体
として排泄されたとことから、腎排泄・肝消失型であることがわかる。

<腎機能障害患者での使用上の注意>
トラマールOD錠は、腎機能障害においては患者の状態を考慮し、投与間隔を延長するなど慎重に投与すること、高い血中濃度が持続し、作用及び副作用が増強するおそれがあるとされている。

一方、ワントラム錠は、高度な腎機能障害のある患者には投与しないこと、高い血中濃度が持続し、作用及び副作用が増強するおそれがあるとされている。

<ワントラム錠が高度な腎機能障害患者に禁忌の理由>
トラマドール塩酸塩徐放製剤であるワントラム錠は1日1回投与の製剤であることから、高度な腎障害又は高度な肝障害のある患者に投与すると高い血中濃度が持続し、作用や副作用が強く出るおそれがある。

トラマドール塩酸塩即放性製剤の場合は投与間隔の調節や低用量からの投与が可能であるが、徐放製剤では調節が難しいので、高度な腎障害又は高度な肝障害のある患者には投与禁忌である。

[参考資料]
ワントラム錠100mg インタビューフォーム
(日本新薬株式会社 2018年9月改訂)

トラマールOD錠25mg/トラマールOD錠50mg 添付文書
(日本新薬株式会社 2020年 6月改訂)

澤田教授

澤田教授
四半世紀にわたって医療・介護現場へ高感度のアンテナを張り巡らし、薬剤師の活動の中から新しい発見、ヒヤリ・ハット・ホット事例を収集・解析・評価し、薬剤師や医師などの医療者や患者などの医療消費者へ積極的に発信している。最近は、医薬分業(薬の処方と調剤を分離し、それぞれを医師と薬剤師が分担して行うこと)のメリットを全国民に理解してもらうためにはどのような仕組みとコンテンツが必要かや、医療・介護の分野でDXが進む中で薬剤師はどのような役割を果たすべきかなどを、日々考えている。

薬学者。東京大学薬学部卒業。その後、米国国立衛生研究所研究員、東京大学医学部助教授、九州大学大学院薬学研究院教授、東京大学大学院情報学環教授を経て、現在、東京大学大学院薬学系研究科客員教授。更に、NPO法人 医薬品ライフタイムマネジメントセンター理事長・センター長。著書には「ポケット医薬品集2024」(南山堂,2024年)、「処方せんチェック・ヒヤリハット事例解析 第2集」(じほう,2012年)、「ヒヤリハット事例に学ぶ服薬指導のリスクマネジメント」(日経BP社,2011年)、「処方せんチェック虎の巻」(日経BP社,2009年)、「薬学と社会」(じほう,2001年)、「薬を育てる 薬を学ぶ」(東京大学出版会,2007年)など他多数。

記事作成日:2022年9月6日

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