Prof.Sawadaの薬剤師ヒヤリ・ハット・ホット
事例189

プレドニゾロン錠の漸減時に説明書を自作し、患者に説明

ヒヤリした!ハットした!

特別養護老人ホームに入居中の服用している錠剤の数を良く認識していた患者で、プレドニン錠5mg<プレドニゾロン>からプレドニゾロン錠1mgに変更して半錠ずつ漸減する際に、混乱する可能性があった。薬剤師がイラストを用いた漸減説明書を作成して患者に提示したところ、納得してもらえた。

<処方1>80歳の女性。特別養護老人ホーム。7月。

プレドニン錠5mg 1錠 1日1回 朝食後14日分
チラーヂンS錠50µg 1錠 1日1回 朝食後14日分
バイアスピリン錠100mg 1錠 1日1回 朝食後14日分
ミヤBM錠 6錠 1日3回 毎食後14日分

*その他、定期通院している病院の神経内科よりリバスタッチパッチ、クロチアゼム、ジアゼパム、アリピプラゾール等が処方され、服用中である。

<効能効果>

●プレドニン錠5mg<プレドニゾロン>
下記の各種疾患(医療用添付文書参照)
〇内科・小児科領域
〇外科領域
〇整形外科領域
〇産婦人科領域
〇泌尿器科領域
〇皮膚科領域
〇眼科領域
〇耳鼻咽喉科領域

どうした?どうなった?

患者は、特別養護老人ホームに入居する前からうつ病、甲状腺機能低下症、喘息の既往があり、さらに入居した後、軽度の認知症(確定診断された記録はないが、物忘れは多い)および軽度の認知症周辺症状(暴言・興奮・不穏)の治療のため、定期通院している病院の神経内科より認知症用薬などが投与されている。しかし、本人に認知症の可能性については知らされていない。

以前より、自身の服用薬は納得して服用したいと言っており、ほぼ毎日のように「薬情が欲しい」と看護・介護スタッフに訴えるほど薬に関心があり、自身の各服用時点での服用数も正確に把握している様であった(当該施設では、入居者本人には薬情を配布しておらず、介護スタッフが管理している)。これらの入居者情報について、施設担当の薬剤師は看護・介護スタッフから聴取していた。

10年ほど前に関節リウマチと診断されて以来、プレドニン錠5mgを服用しているが、詳しい経緯は分からず、また、現在は関節リウマチ特有の痛みの訴えはなく、関節の目立った腫脹も見当たらなかった。そこで、施設担当の薬剤師は、看護・介護スタッフと相談した結果、使用薬剤の整理の一環としてプレドニゾロンを減量・中止することを医師に提案し、1ヵ月に0.5mgずつ減量していくことになった。

処方変更後、調剤した薬局(施設担当の薬剤師と同じ薬局)から、プレドニゾロンはほかの朝食後薬と一緒に一包化されて配達されてきた。施設担当の薬剤師は、第一段階の減量時点での『プレドニン錠5mgを1錠からプレドニゾロン錠1mg(旭化成)を4.5錠』への変更では、錠数だけ見れば3.5錠多くなるため、服用数を把握している当該入居者が不安に思うであろうと予測した。
そこで、説明書を作成し、それを持って説明したところ、入居者は納得してくれた。また、看護・介護スタッフにもその説明書を配布し、入居者が納得してくれたことを伝えた。

なぜ?

特別養護老人ホームで生活していて、一般的には認知機能が低下していると思われる高齢者においても、服用薬剤を一包化すれば、看護・介護スタッフの服薬ケアのもとで特に問題なく服薬できると思われた。
しかし、認知機能が低下している高齢者であっても、ある程度の病識や薬識を持っている場合には、服薬アドヒアランスを維持するために、入居者(患者)本人へ懇切丁寧に説明し、理解と納得を得る必要があった。

ホットした!

認知機能が低下していても、入居者それぞれに服薬に関するこだわりを持っている場合があるので、入居者(患者)の日常の言動をよく観察し、それぞれに対応した安心・安全な薬物療法の実践の手助けをする必要がある。
そのためには、薬局薬剤師は、介護施設の看護・介護スタッフからの患者基本情報(服薬に関する状況など)収集を徹底し、さらに薬剤師自ら可能な限り患者と接触して薬学的立場から服薬関連情報を把握することが必要である。

もう一言

軽度認知障害
物忘れが主たる症状だが、日常生活への影響はほとんどなく、認知症とは診断できない状態。
軽度認知障害は正常と認知症の中間ともいえる状態です。その定義は、下記のとおりです。
1.年齢や教育レベルの影響のみでは説明できない記憶障害が存在する。
2.本人または家族による物忘れの訴えがある。
3.全般的な認知機能は正常範囲である。
4.日常生活動作は自立している。
5.認知症ではない。
すなわち、記憶力に障害があって物忘れの自覚があるが、記憶力の低下以外に明らかな認知機能の障害が見られず、日常生活への影響はないかあっても軽度のものである場合です。しかし、軽度認知障害の人は年間で10~15%が認知症に移行するとされており、認知症の前段階と考えられています。

[参考文献]
e-ヘルスネット[情報提供]
(厚生労働省 生活習慣病予防のための健康情報サイト)

*本稿では、全国各地において収集したヒヤリ・ハット・ホット事例について、要因を明確化し、詳細に解析した結果を紹介します。事例の素材を提供していただいた全国の薬剤師の皆様に感謝申し上げます。

澤田教授

澤田教授
四半世紀にわたって医療・介護現場へ高感度のアンテナを張り巡らし、薬剤師の活動の中から新しい発見、ヒヤリ・ハット・ホット事例を収集・解析・評価し、薬剤師や医師などの医療者や患者などの医療消費者へ積極的に発信している。最近は、医薬分業(薬の処方と調剤を分離し、それぞれを医師と薬剤師が分担して行うこと)のメリットを全国民に理解してもらうためにはどのような仕組みとコンテンツが必要かや、医療・介護の分野でDXが進む中で薬剤師はどのような役割を果たすべきかなどを、日々考えている。

薬学者。東京大学薬学部卒業。その後、米国国立衛生研究所研究員、東京大学医学部助教授、九州大学大学院薬学研究院教授、東京大学大学院情報学環教授を経て、現在、東京大学大学院薬学系研究科客員教授。更に、NPO法人 医薬品ライフタイムマネジメントセンター理事長・センター長。著書には「ポケット医薬品集2024」(南山堂,2024年)、「処方せんチェック・ヒヤリハット事例解析 第2集」(じほう,2012年)、「ヒヤリハット事例に学ぶ服薬指導のリスクマネジメント」(日経BP社,2011年)、「処方せんチェック虎の巻」(日経BP社,2009年)、「薬学と社会」(じほう,2001年)、「薬を育てる 薬を学ぶ」(東京大学出版会,2007年)など他多数。

記事作成日:2023年7月20日

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