Prof.Sawadaの薬剤師ヒヤリ・ハット・ホット
事例05

シナール配合錠は分割不可であることを知らなかった

ヒヤリした!ハットした!

粉薬が飲めない患者にシナール配合顆粒が処方されたため、薬剤師は錠剤への変更を依頼しようと考えた。しかし、錠剤は分割不可であり、用法用量の変更も依頼することとなった。

<処方1>8歳の男児。病院の内科。処方オーダリング。

シナール配合顆粒
1g(製剤量) 1日 3回 毎食後 14日分

<効能効果>

  • 本剤に含まれるビタミン類(アスコルビン酸、パントテン酸)の需要が増大し、食事からの摂取が不十分な際の補給(消耗性疾患、妊産婦、授乳婦等)、炎症後の色素沈着。なお、効果がないのに月余にわたって漫然と使用すべきでない。

<処方2>8歳の男児。病院の内科。処方オーダリング。

シナール配合錠
2錠 1日2回 朝夕食後 14日分

どうした?どうなった?

薬歴に「粉薬が飲めない」と記載してあったので患者の家族に確認したところ、錠剤にしてほしいと希望された。

そこで、錠剤への変更と用法の変更(3分割は難しいので)に関して、薬剤師は医師に疑義照会しようとした。しかし、シナール配合錠を分割した経験がなかったため、分割の可否を調べることにした。

添付文書に「配合時の粉砕は避けること」との記載はあったが、分割の可否に関する直接的な記載はなかった。そこで、インタビューフォームを確認したところ、「アスコルビン酸は酸性、パントテン酸カルシウムはアルカリ性のため、両剤の用時配合使用は禁忌とされている。シナール配合錠は安定性を確保し、賦形剤を減量するためパントテン酸カルシウムを上下層に、アスコルビン酸を中間層に配した3層錠である。なお、外観からは3層錠には見えない。シナール配合顆粒はアスコルビン酸を含む顆粒とパントテン酸カルシウムを含む顆粒を別々に造粒(分離被覆)し混合した製剤である。いずれも両ビタミンの直接接触を避ける工夫がされている。」と記載されていた。

以上のことを踏まえて疑義照会し、顆粒剤から錠剤への変更と、錠剤は分割不可であるため用法用量の変更を医師に依頼した。変更後の処方は以下に示すとおりである。

なぜ?

医師は、患者が粉薬を服用することが困難であることを認識していなかった。薬剤師は、当初、シナール配合錠の分割は問題なく、特に注意も払わず、簡単に調剤できる薬剤として認識していた。シナール配合顆粒およびシナール配合錠の製剤の特性を全く理解していなかった。

ホットした!

医師は、小児への処方においては、本人又は家族に、服用できない剤形について聴取する必要がある。薬剤師は、薬学的知識として、薬剤の物性を正確に把握することの重要性を再認識したため、今後、製剤特性に関する情報を調査し、薬局内で情報共有することとした。

澤田教授

澤田教授
四半世紀にわたって医療・介護現場へ高感度のアンテナを張り巡らし、薬剤師の活動の中から新しい発見、ヒヤリ・ハット・ホット事例を収集・解析・評価し、薬剤師や医師などの医療者や患者などの医療消費者へ積極的に発信している。最近は、医薬分業(薬の処方と調剤を分離し、それぞれを医師と薬剤師が分担して行うこと)のメリットを全国民に理解してもらうためにはどのような仕組みとコンテンツが必要かや、医療・介護の分野でDXが進む中で薬剤師はどのような役割を果たすべきかなどを、日々考えている。

薬学者。東京大学薬学部卒業。その後、米国国立衛生研究所研究員、東京大学医学部助教授、九州大学大学院薬学研究院教授、東京大学大学院情報学環教授を経て、現在、東京大学大学院薬学系研究科客員教授。更に、NPO法人 医薬品ライフタイムマネジメントセンター理事長・センター長。著書には「ポケット医薬品集2024」(南山堂,2024年)、「処方せんチェック・ヒヤリハット事例解析 第2集」(じほう,2012年)、「ヒヤリハット事例に学ぶ服薬指導のリスクマネジメント」(日経BP社,2011年)、「処方せんチェック虎の巻」(日経BP社,2009年)、「薬学と社会」(じほう,2001年)、「薬を育てる 薬を学ぶ」(東京大学出版会,2007年)など他多数。

記事作成日:2015年11月16日

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