Prof.Sawadaの薬剤師ヒヤリ・ハット・ホット
事例83

ファックス送信した処方箋のみで薬を受け取ろうとした患者

ヒヤリした!ハットした!

ファックスで病院から薬局に処方箋を送信してきていた患者が、後日、処方箋の原本を持たせずに家族に薬を取りに行ってもらった。家族は薬を受け取ることができず、患者は強いクレームを述べた。

<処方>70歳代の男性。病院の内科。処方オーダリング。

ガスター錠20mg 2錠 1日2回 朝夕食後 28日分
バイアスピリン錠100mg 1錠 1日1回 朝食後 28日分

<効能効果>

●ガスターD錠10mg・20mg<ファモチジン口腔内崩壊錠>
胃潰瘍、十二指腸潰瘍、吻合部潰瘍、上部消化管出血(消化性潰瘍、急性ストレス潰瘍、出血性胃炎による)、逆流性食道炎、Zollinger-Ellison症候群

●バイアスピリン錠100mg<アスピリン腸溶錠>
・下記疾患における血栓・塞栓形成の抑制
狭心症(慢性安定狭心症,不安定狭心症)
心筋梗塞
虚血性脳血管障害(一過性脳虚血発作(TIA)、脳梗塞)
・冠動脈バイパス術(CABG)あるいは経皮経管冠動脈形成術(PTCA)施行後における血栓・塞栓形成の抑制
・川崎病(川崎病による心血管後遺症を含む)

どうした?どうなった?

患者は、いつもファックスで病院から薬局に処方箋を送信し、その日のうちに薬局に来局して薬をもらっていた。しかし今回は、出張などがあって忙しいことから、自分で薬局に直接行くことができず、次の日、処方箋の原本を持たせずに家族に薬を取りに行ってもらった。患者家族によると、患者は「ファックスを送ってあるから、名前を言えば薬をもらえるよ」と述べたとのこと。

薬局では、処方箋原本がないと薬を交付できないため、家族に処方箋原本を取りに帰ってもらう必要があり、「ファックスだけではだめなんです。元の処方せんが必要なんです」と伝えた。家族は仕方なく自宅に帰ったが、その後、患者本人から電話があり、「処方箋が見つからないのでどうしようもない。ファックスを送ってあるんだからなんとかならんか?」といわれた。薬局薬剤師は、処方箋の再発行など、紛失した場合のアドバイスをしたが、処方箋をファックスしているのに薬をもらえないことに納得がいかないようであった。
次の日、処方箋が見つかったとのことで、処方箋を持って家族が来局し、無事に薬を交付することができた。

なぜ?

患者やその家族は、ファックスした処方箋で、処方箋が発行されていることや処方内容の確認ができるため、処方箋原本がないと薬がもらえないという認識がなかった。

ホットした!

薬局内に、処方箋の原本がないと薬を交付できないことを記載した文章を提示するとともに、患者にも随時説明するようにした。

もう一言

類似事例:年齢不明の男性。「ファックスで送ったから薬もらえるね?」と、処方箋を持たずに薬がほしいと強引に言ってきた患者がいた。その患者は処方箋原本をたまたま忘れて、取りに帰るのが面倒でごねたようであった。実は、処方箋の原本がなければ調剤して交付できないことを患者は認識していたようである。クリーニングの引換券のように、忘れても身分証明書、会員券などを見せれば薬はもらえると思っている患者がいる。

○処方箋受入れ準備体制の整備のためのファクシミリの利用について(平成元年11月15日、薬企第48号・保険発第107号)より抜粋
調剤は、患者等が持参する処方せんを受け取って内容を確認することにより完結するものであり、ファクシミリで電送された処方内容に基づいて行う薬剤の調製等は、患者等が持参する処方箋の受領、確認により、遡って調剤とみなされるものであること。

澤田教授

澤田教授
四半世紀にわたって医療・介護現場へ高感度のアンテナを張り巡らし、薬剤師の活動の中から新しい発見、ヒヤリ・ハット・ホット事例を収集・解析・評価し、薬剤師や医師などの医療者や患者などの医療消費者へ積極的に発信している。最近は、医薬分業(薬の処方と調剤を分離し、それぞれを医師と薬剤師が分担して行うこと)のメリットを全国民に理解してもらうためにはどのような仕組みとコンテンツが必要かや、医療・介護の分野でDXが進む中で薬剤師はどのような役割を果たすべきかなどを、日々考えている。

薬学者。東京大学薬学部卒業。その後、米国国立衛生研究所研究員、東京大学医学部助教授、九州大学大学院薬学研究院教授、東京大学大学院情報学環教授を経て、現在、東京大学大学院薬学系研究科客員教授。更に、NPO法人 医薬品ライフタイムマネジメントセンター理事長・センター長。著書には「ポケット医薬品集2024」(南山堂,2024年)、「処方せんチェック・ヒヤリハット事例解析 第2集」(じほう,2012年)、「ヒヤリハット事例に学ぶ服薬指導のリスクマネジメント」(日経BP社,2011年)、「処方せんチェック虎の巻」(日経BP社,2009年)、「薬学と社会」(じほう,2001年)、「薬を育てる 薬を学ぶ」(東京大学出版会,2007年)など他多数。

記事作成日:2019年1月11日

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