Prof.Sawadaの薬剤師ヒヤリ・ハット・ホット
事例68

抗不整脈薬を服用中の患者にアベロックス錠400mgが処方

ヒヤリした!ハットした!

アベロックス錠<モキシフロキサシン塩酸塩>が処方された患者が、抗不整脈薬のアンカロン錠<アミオダロン塩酸塩>を服用中であることが判明した。

<処方>60歳の男性。病院の総合診療科。処方オーダリング。

アベロックス錠400mg 1錠 1日1回 朝食後 3日分

<効能効果>

●アベロックス錠400mg(モキシフロキサシン塩酸塩)
[適応菌種]
モキシフロキサシンに感性のブドウ球菌属、レンサ球菌属、肺炎球菌、モラクセラ(ブランハメラ)・カタラーリス、大腸菌、クレブシエラ属、エンテロバクター属、プロテウス属、インフルエンザ菌、レジオネラ・ニューモフィラ、アクネ菌、肺炎クラミジア(クラミジア・ニューモニエ)、肺炎マイコプラズマ(マイコプラズマ・ニューモニエ)
[適応症]
表在性皮膚感染症、深在性皮膚感染症、外傷・熱傷及び手術創等の二次感染、咽頭・喉頭炎、扁桃炎、急性気管支炎、肺炎、慢性呼吸器病変の二次感染、副鼻腔炎

どうした?どうなった?

当該患者の来局は久しぶりであった。今回は1カ月前から続いている咳が治らないので受診したとのことだった。薬歴の併用薬の記録が古かったため、服薬指導の際に口頭で併用薬を確認したところ、別の病院で処方された「アンカロン錠」を服用中であることが判明した。
アベロックスとアンカロンは併用禁忌であるため、医師に疑義照会した。結果、医師は「アンカロンを服用中であるとは知らなかった。併用禁忌ですよね。相互作用が回避できてよかった。ありがとう」と述べた。
ニューキノロン系抗菌薬で治療したいとのことで、医師が薬剤師に相談して、アベロックス錠からクラビット錠<レボフロキサシン水和物>へと処方変更となった。

<変更後の処方>

クラビット錠500mg 1錠 1日1回 朝食後 3日分

なぜ?

医師は、患者がアミオダロンを服用中であることを知らなかった。また、患者に他に使用している薬があるかどうかの質問をしていなかった。さらに、患者自身から医師への自主的な服用薬の申告もなかった。
医師には、モキシフロキサシンとアミオダロンの併用は禁忌であるとの認識はあった。

ホットした!

(1)モキシフロキサシンが処方された場合には、以下のようなポイントを念頭におき、医師による処方設計、薬剤師による処方鑑査を徹底する。
*先天性QT延長症候群(LQTS)や電解質異常(とくに、低カリウム血症、低マグネシウム血症)、電解質異常を引き起こしうるハイリスク状態(利尿剤の投与や透析など)、徐脈や各種心疾患など、QT延長の危険因子となる患者背景を考慮する。
*QT延長を引き起こす他の薬剤(抗精神病薬、マクロライド系抗生物質、クラスIa・クラスIIIの抗不整脈薬など)との併用は回避する。
(2)医師に、患者に他に使用している薬があるかどうかの質問、あるいはおくすり手帳の確認を行うよう依頼する。
(3)患者に、医師や薬剤師に対して他診療科や他医療施設から処方された服用薬の自主的な申告(おくすり手帳の提示や診察・服薬指導時の回答など)を行うように指導する。

もう一言

◎モキシフロキサシンと抗不整脈薬が禁忌の理由
クラスIA(キニジン、プロカインアミド等)及びクラスIII(アミオダロン、ソタロール等)の抗不整脈薬は、QT延長作用を有することが知られている。これらの薬剤を投与中の患者にモキシフロキサシンを併用することにより、QT延長作用が相加的に増強され、心室性頻拍(Torsades de pointesを含む)QT延長を起こすことがあるため、これらの薬剤とモキシフロキサシンとの併用が禁忌とされた。

◎薬剤性QT延長
薬剤によって、心筋の再分極に関与する遅延整流K+電流が直接抑制され、それにより活動電位の再分極が遅れ、心電図のQT時間が延長する。モキシフロキサシンはK+電流に関わるHERGチャネルを遮断し、K+電流を抑制する。

澤田教授

澤田教授
四半世紀にわたって医療・介護現場へ高感度のアンテナを張り巡らし、薬剤師の活動の中から新しい発見、ヒヤリ・ハット・ホット事例を収集・解析・評価し、薬剤師や医師などの医療者や患者などの医療消費者へ積極的に発信している。最近は、医薬分業(薬の処方と調剤を分離し、それぞれを医師と薬剤師が分担して行うこと)のメリットを全国民に理解してもらうためにはどのような仕組みとコンテンツが必要かや、医療・介護の分野でDXが進む中で薬剤師はどのような役割を果たすべきかなどを、日々考えている。

薬学者。東京大学薬学部卒業。その後、米国国立衛生研究所研究員、東京大学医学部助教授、九州大学大学院薬学研究院教授、東京大学大学院情報学環教授を経て、現在、東京大学大学院薬学系研究科客員教授。更に、NPO法人 医薬品ライフタイムマネジメントセンター理事長・センター長。著書には「ポケット医薬品集2024」(南山堂,2024年)、「処方せんチェック・ヒヤリハット事例解析 第2集」(じほう,2012年)、「ヒヤリハット事例に学ぶ服薬指導のリスクマネジメント」(日経BP社,2011年)、「処方せんチェック虎の巻」(日経BP社,2009年)、「薬学と社会」(じほう,2001年)、「薬を育てる 薬を学ぶ」(東京大学出版会,2007年)など他多数。

記事作成日:2018年5月2日

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