ボノサップ400と800の使い分け理由を把握せず投薬
ボノサップパック800を処方された患者から、ボノサップパック400と800の使い分けの理由を尋ねられたが、薬剤師は即答できなかった。
<処方>60歳代の男性。病院の消化器科。処方オーダリング。
ボノサップパック800 | 1シート 1日2回 朝夕食後7日分 |
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<効能効果>
●ボノサップパック400・800(タケキャブ錠20mg、アモキシシリンカプセル250mg「武田テバ」、クラリス錠200)
[適応菌種]アモキシシリン、クラリスロマイシンに感性のヘリコバクター・ピロリ
[適応症]胃潰瘍・十二指腸潰瘍・胃MALTリンパ腫・特発性血小板減少性紫斑病・早期胃癌に対する内視鏡的治療後胃におけるヘリコバクター・ピロリ感染症、ヘリコバクター・ピロリ感染胃炎
今回、患者にはピロリ菌の1次除菌治療のため、ボノサップパック800が処方された。投薬時、患者が薬剤師に「インターネットで調べたら、ボノサップには400と800があるようだが、どのように使い分けるのか?自分には800がでているので、ピロリ菌が沢山居るということか?」と質問した。
薬剤師は、この質問にその場で的確に答えることができず、後ほど調べて連絡することになった。
投薬後に調べたところ、喫煙者へは、医師の判断によりクラリスロマイシンを800mg/日で処方することが検討されると分かり(EBMに基づく胃潰瘍診療ガイドラインQ&Aより)、改めて患者に連絡をした。当該患者は喫煙者であり、その説明で納得したようであった。
薬剤師は、ボノサップの規格単位による使い分けの理由を把握していなかった。
ボノサップのように、400(クラリスロマイシンが400mg/日)と800(クラリスロマイシンが800mg/日)で効果(=除菌率)に差はないが、規格が複数ある場合には、どのように使い分けするのかを知識として習得しておく必要がある。
ボノサップが処方された場合には、喫煙状況を確認し、処方された規格単位が適切であるか確認する。
「日本人46名における除菌療法において、喫煙群の除菌失敗率は36.4%に対し、非喫煙群の除菌失敗率は8.3%と喫煙群の除菌失敗率の方が有意に高かった」(総合健診,30(1);123,2003)という報告もあるが、「276名における除菌成功率は喫煙群で78.6%、非喫煙群で83.2%と差がない」との報告もある(滋賀医学,27:57-61,2005)。なお、PPIとしてボノプラザン(タケキャブ)を用いた検討では、「喫煙群50名での除菌成功率は90.0%、非喫煙群169名での除菌成功率は89.9%と差がなかった」ことが報告されている(HelicobacterResearch,20(3):279-285,2016)。
澤田教授
四半世紀にわたって医療・介護現場へ高感度のアンテナを張り巡らし、薬剤師の活動の中から新しい発見、ヒヤリ・ハット・ホット事例を収集・解析・評価し、薬剤師や医師などの医療者や患者などの医療消費者へ積極的に発信している。最近は、医薬分業(薬の処方と調剤を分離し、それぞれを医師と薬剤師が分担して行うこと)のメリットを全国民に理解してもらうためにはどのような仕組みとコンテンツが必要かや、医療・介護の分野でDXが進む中で薬剤師はどのような役割を果たすべきかなどを、日々考えている。
薬学者。東京大学薬学部卒業。その後、米国国立衛生研究所研究員、東京大学医学部助教授、九州大学大学院薬学研究院教授、東京大学大学院情報学環教授を経て、現在、東京大学大学院薬学系研究科客員教授。更に、NPO法人 医薬品ライフタイムマネジメントセンター理事長・センター長。著書には「ポケット医薬品集2024」(南山堂,2024年)、「処方せんチェック・ヒヤリハット事例解析 第2集」(じほう,2012年)、「ヒヤリハット事例に学ぶ服薬指導のリスクマネジメント」(日経BP社,2011年)、「処方せんチェック虎の巻」(日経BP社,2009年)、「薬学と社会」(じほう,2001年)、「薬を育てる 薬を学ぶ」(東京大学出版会,2007年)など他多数。
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