
アラミスト点鼻液が効かない理由は?
アラミスト点鼻液<フルチカゾンフランカルボン酸エステル>が処方された患者において、丁寧な服薬指導を行い、自宅への電話モニタリングも1回実施していたことから、薬剤師は患者が正しく使用できているものと思っていたが、「点鼻液が効かない」と電話があったため、訪問して確認すると、レバーを強く押さなかったために点鼻液が噴霧されていなかった。
<処方1>80歳代の女性。総合病院の耳鼻咽喉科。
| カルボシステイン錠500mg | 1錠1日3回毎食後28日分 |
|---|---|
| エンペラシン配合錠 | 1錠1日1回就寝前28日分 |
| アラミスト点鼻液27.5μg56噴霧用 | 2キット1日1回両鼻腔に各2噴霧 |
<効能効果>
●アラミスト点鼻液27.5μg56噴霧用・120噴霧用<フルチカゾンフランカルボン酸エステル>
アレルギー性鼻炎
在宅訪問を行っている患者である。鼻炎のため臨時で受診した総合病院の耳鼻科からアラミスト点鼻液が処方された。薬局カウンターでの服薬指導時に、点鼻手技の指導を行い、実際に試してもらって正しい操作ができていることを確認した。また、メーカーのチェックシートも手渡し、使用方法を説明したことから、薬剤師は患者が十分に理解したと考えていた。
1週間後、薬剤師は患者の自宅に電話をして、きちんと点鼻ができていることを確認した。
さらに1週間後(交付から2週間後)、患者の夫から電話があった。
患者夫:「妻がアラミスト点鼻液がさっぱり効かず、夜も眠れていない。市販の点鼻薬を使いたいが、どうだろうか?」
患者は最近、鼻の奥に親指大の腫瘍が発見され、また心房細動の既往があることから、受診して相談するよう促した。
翌日が薬局の在宅訪問日であったため、受診の結果を尋ねたところ、往診医の在宅訪問と時間が被ることから受診をしておらず、ひどい鼻声であった。そこで、実際に点鼻の手技をしてもらったところ、レバーを強く押さなかったために薬液が噴霧されず、効果が得られていなかったことが判明した。薬剤師は、再度、手技について指導を行った。
数日後、再度、電話モニタリングを行い、正しく点鼻できていること、薬の効果を感じていること、点鼻で楽になって夜も眠れるようになったことを確認した。
薬剤師は、点鼻液の交付時に、丁寧な服薬指導を行い、自宅への電話モニタリングも1回実施していたことから、患者が正しく使用できているものと思っていた。しかし、患者には脳腫瘍も見つかり、判断能力やQOLの低下も見られていたことから、薬剤師が思ったよりもその後の確認が必要だった可能性がある。電話モニタリングを1度行ったことで安心していたが、その後も、患者からの聞き取りや、観察が必要であったと考えられる。
また、「正しく点鼻できているか。」と聞くだけでなく、薬の効果を感じているか、困っていないか等についても、尋ねるべきであった。
点鼻液など、患者にとって初めてのデバイスを使用する場合、通常の服薬指導に加え、指導箋を渡しての説明、模擬操作用デバイスを用いての手技の指導や確認が必要となる。患者がその場で使用できていることはもちろんであるが、その後、自宅に戻ってからも継続的に正しく使用できているかについての確認も重要となる。今回のように、判断力の低下が考えられる場合は、服薬支援可能な家族にも使用方法等を伝えておくことが望ましいと考えられる。
確認の頻度や方法は、デバイスの種類、患者の年齢、疾患や合併症、既往歴、支援可能な家族の同居の有無等により異なるが、以上のような背景因子を踏まえたうえで、必要であれば電話モニタリングを複数回行う、医師にフィードバックを行うなど、患者の服薬状況を継続的に把握する。デバイスの選択肢がある場合には、患者の使用しやすいデバイスであるかについても検討すべきであろう。
「正しく服用できているか」との問いに、患者は「はい」と答えてしまいがちである。そのため、話をしやすい雰囲気をこころがけたうえで、薬物治療の効果についての具体的な質問や、生活する上での困りごとがないか等を尋ねるとよいであろう。
患者の服薬状況の継続的な把握の重要性
薬機法によると、『調剤時に限らず、継続的に患者の薬剤等の使用状況の把握及び服薬指導を行うこと』が薬剤師に対して義務付けられている。調剤時の服薬指導を丁寧にすることはもちろんであるが、患者によっては、一度の説明ですべてを理解しているとは限らない。本事例のように、吸入薬や点鼻液が処方された場合に、その場ではできていても、しばらくたって正しく使用できていないことが分かることもある。また、飲み忘れのほか、自己判断での用量調整や服薬中止、過量服用、副作用との認識がないままの継続服用なども考えられる。
定期的に来局する患者であれば、来局時に、治療効果や副作用発現のほか、心配なことや困ったことがないか等を確認する。しかし、来局間隔が長い場合など、フォローが必要だと感じたら、服薬指導時に患者にそのことを伝え、その後、電話モニタリングや自宅訪問を実施する。患者の服薬状況を、「継続的に」把握するためには、1回で終わらせず、必要に応じて続けることが重要である。どのような患者に、どの程度のフォローが必要であるかについては、担当薬剤師が、患者や患者の背景(年齢、疾病、認知能力、家族や支援者の有無、生活習慣等)を理解して、患者に寄り添った服薬指導を行う中で、ある程度見えてくるであろう。
[国試対策問題]
問題:アレルギー性鼻炎の治療のため副腎皮質ステロイド点鼻薬を使用している患者から、「薬を使用しているが症状が改善しない」と相談を受けた。薬剤師がまず行う対応として最も適切なのはどれか。1つ選べ。
1 効果発現まで時間がかかるため、継続使用のみ患者に指導する。
2 点鼻薬の噴霧手技が適切であるか患者に確認する。
3 抗ヒスタミン薬の追加を医師に提案する。
4 他の点鼻薬への変更を医師に提案する。
5 点鼻回数を増やすよう患者に指導する。
【正答】2
2 点鼻薬や吸入薬などのデバイス製剤では、誤った手技が薬効不十分の原因となることが多い。薬剤変更や追加を検討する前に、使用方法(手技)やアドヒアランスを確認する必要がある。
1 ステロイド点鼻薬は数日~1週間程度で効果が現れる場合が多い。効果が得られていない場合には、使用手技やアドヒアランスを確認する必要があり、単に継続のみを指導するのは適切ではない。
3、4 症状がコントロール不良の場合の選択肢として薬剤追加・変更が検討されることもあるが、薬剤が正しく使用されていない場合は薬効評価ができない。したがって、薬剤変更・追加の前に、使用方法やアドヒアランスを確認する必要がある。
5 医師の処方した用法・用量を変更するような指導を薬剤師が行うことは適切ではない。処方変更が必要な場合は、医師へ確認する必要がある。
*本稿では、全国各地において収集したヒヤリ・ハット・ホット事例について、要因を明確化し、詳細に解析した結果を紹介します。事例の素材を提供していただいた全国の薬剤師の皆様に感謝申し上げます。

澤田教授
四半世紀にわたって医療・介護現場へ高感度のアンテナを張り巡らし、薬剤師の活動の中から新しい発見、ヒヤリ・ハット・ホット事例を収集・解析・評価し、薬剤師や医師などの医療者や患者などの医療消費者へ積極的に発信している。最近は、医薬分業(薬の処方と調剤を分離し、それぞれを医師と薬剤師が分担して行うこと)のメリットを全国民に理解してもらうためにはどのような仕組みとコンテンツが必要かや、医療・介護の分野でDXが進む中で薬剤師はどのような役割を果たすべきかなどを、日々考えている。
薬学者。東京大学薬学部卒業。その後、米国国立衛生研究所研究員、東京大学医学部助教授、九州大学大学院薬学研究院教授、東京大学大学院情報学環教授を経て、現在、東京大学大学院薬学系研究科客員教授。更に、NPO法人 医薬品ライフタイムマネジメントセンター理事長・センター長。著書には「ポケット医薬品集2024」(南山堂,2024年)、「処方せんチェック・ヒヤリハット事例解析 第2集」(じほう,2012年)、「ヒヤリハット事例に学ぶ服薬指導のリスクマネジメント」(日経BP社,2011年)、「処方せんチェック虎の巻」(日経BP社,2009年)、「薬学と社会」(じほう,2001年)、「薬を育てる 薬を学ぶ」(東京大学出版会,2007年)など他多数。
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