
点眼液を指に?適応外使用で混乱!
タリビッド点眼液<オフロキサシン>の使用部位が「両親指」となっていた。「両眼」の間違いではないかと思ったが、グリーンネイル治療のため指に使う適応外使用だったことが判明した。
<処方1>50歳代の女性。皮膚科クリニック。
| ビラノア錠20mg | 1錠1日1回寝る前7日分 |
|---|---|
| メサデルムクリーム0.1% | 5g1日2回耳 |
| ウレパールクリーム10% | 20g1日2回手足 |
| タリビッド点眼液0.3% | 5mL1日4回両親指 |
<効能効果>
●タリビッド点眼液0.3%<オフロキサシン>
〈適応症〉眼瞼炎、涙嚢炎、麦粒腫、結膜炎、瞼板腺炎、角膜炎(角膜潰瘍を含む)、眼科周術期の無菌化療法
患者は久しぶりの来局であり、耳の痒みで皮膚科を受診し、痒み止めの外用薬と内服薬が処方されていた。そのほかにタリビッド点眼液も処方されていたが、処方箋には使用方法と部位が『1日4回両親指』と記載されていた<処方1>。
薬剤師は、「1日4回両眼」の間違いだろうと考え、疑義照会する前に、念のため患者に確認した。
患者:「グリーンネイルのため、目薬を指に使うように言われました」
医師から処方箋記載どおりの指示があったことが分かり、患者の爪を確認すると、確かに親指の爪は緑色から薄黒色に変色していた。
薬剤師は「グリーンネイル」について知らなかったため調べたところ、緑膿菌のために爪が緑色になっている状態であることが分かった。また、タリビッド点眼液の添付文書には、適応菌種に緑膿菌が記載されていることを確認した。
薬剤師は、医師の処方意図はタリビッド点眼液を指の緑膿菌に対して使用することだと判断し、『1日4回両親指』と服薬指導を行った(医師に処方意図を直接確認はしていない)。
点眼液は眼に使用するものだという先入観が強く、「1日4回両親指」を「1日4回両眼」の間違いだろうと思ってしまった。処方箋発行元のクリニックは電子カルテを導入したばかりであり、処方箋の入力ミスが続いていたため、入力ミスだろうと思い込んでしまった。
通常とは異なる処方(例えば、今回のように点眼液を指に使用する場合)では、処方ミス(入力ミス)を疑うのが第一である。ただし、疑義照会の前に、患者が医師からどのように聞いているのか確認するとともに、ほかの薬剤師にも相談し、処方ミス以外の可能性も探っておく。
患者から得られた情報などから適応外使用(適応外の効能効果、用法用量)の可能性が想定されたら、薬学的に納得できない場合はもちろんであるが、初回処方時には医師に疑義照会して適応外使用であることを確認する。
適応外使用に関しては、薬歴へ記載するとともに、薬局内で情報を共有しておく。また、普段から適応外使用について情報を得るとともに、文献などのエビデンスを調べて知識の幅をひろげておく。
1.グリーンネイル(GreenNail)について[文献1)2)]
グリーンネイル(緑色爪)は、緑膿菌に感染し、緑膿菌の出す色素によって爪が緑色になった状態である。健康な爪に緑膿菌がつくことはないが、爪白癬や爪カンジダ症などにかかっている状態や、爪がはがれたり、周囲の皮膚にささくれができていたりすると緑膿菌に感染し易い。人工爪や付け爪をしている場合に、本来の爪との間に隙間ができ、緑膿菌が増殖しやすい環境となることもある。治療は抗菌薬外用剤を使用したり、爪削りを行う。
2.グリーンネイルの治療に点眼剤を用いた症例
オフロキサシン点眼液ではないが、抗菌薬点眼剤をグリーンネイルに用いた症例報告があるので、以下に示す。
【症例】[文献3)]
35歳の男性。左手親指の爪が濃緑色に変色(1年以上)するとともに、爪甲剥離あり。ほかの皮膚科クリニックでイトラコナゾール(200mg/日)、レボフロキサシン(200mg/日)による治療を受けていたが、数週間継続しても改善は見られなかった。薬剤感受性試験の結果をもとに、トブラマイシン(アミノグリコシド系)の点眼液が処方された。以前に経口抗菌薬で改善が見られなかったことや、患者が経口治療に消極的であったことに加え、注射剤、噴霧液、眼軟膏などに比べて、点眼液であれば爪の湿ったわずかなすき間に浸透するであろうと考えて処方された。トブラマイシン点眼液3mg/mL(Tobrex®)を1日2回、爪に使用するよう指示し、3週間後、爪の変色はほとんど消失した(爪甲剥離症は継続)。点眼液は使用が簡便であり、低用量で効果があり、副作用も見られなかった。
【参考文献】
1)石井則久,目で診る感染症アトラスPart8:手爪グリーンネイル,VisualDermatology,16(臨時増刊):47(2017)
2)岩澤うつぎ,見てわかる皮膚の色でわかること図鑑PART7:緑・青色の皮膚を見たらこう考える・こう動く緑色爪(Greennail),月刊ナーシング,38(5):102-103(2018)
3)BaeYetal.,GreenNailSyndromeTreatedwiththeApplicationofTobramycinEyeDrop,AnnDermatol,26(4):514-516(2014)
[国試対策問題]
問題:処方箋に記載された医薬品の用法・用量が、添付文書に記載された内容と異なる可能性があると薬剤師が判断した。この場合の薬剤師の対応として、最も適切なのはどれか。1つ選べ。
1 添付文書と異なるため調剤を行わない。
2 医師の処方であるため確認せず調剤する。
3 医師の処方意図を確認する。
4 添付文書の記載内容に従って薬剤師が用法を修正する。
5 患者に使用を中止するよう指導する。
【正答】3
医薬品の用法・用量が添付文書と異なる場合でも、医学的判断により適応外使用(off-labeluse)として処方されることがある。そのため薬剤師は、処方内容を薬学的に確認する、必要に応じて疑義照会により医師の処方意図を確認することが求められる。薬剤師が独自に用法を変更したり、確認せず調剤したりすることは適切ではない。
*本稿では、全国各地において収集したヒヤリ・ハット・ホット事例について、要因を明確化し、詳細に解析した結果を紹介します。事例の素材を提供していただいた全国の薬剤師の皆様に感謝申し上げます。

澤田教授
四半世紀にわたって医療・介護現場へ高感度のアンテナを張り巡らし、薬剤師の活動の中から新しい発見、ヒヤリ・ハット・ホット事例を収集・解析・評価し、薬剤師や医師などの医療者や患者などの医療消費者へ積極的に発信している。最近は、医薬分業(薬の処方と調剤を分離し、それぞれを医師と薬剤師が分担して行うこと)のメリットを全国民に理解してもらうためにはどのような仕組みとコンテンツが必要かや、医療・介護の分野でDXが進む中で薬剤師はどのような役割を果たすべきかなどを、日々考えている。
薬学者。東京大学薬学部卒業。その後、米国国立衛生研究所研究員、東京大学医学部助教授、九州大学大学院薬学研究院教授、東京大学大学院情報学環教授を経て、現在、東京大学大学院薬学系研究科客員教授。更に、NPO法人 医薬品ライフタイムマネジメントセンター理事長・センター長。著書には「ポケット医薬品集2024」(南山堂,2024年)、「処方せんチェック・ヒヤリハット事例解析 第2集」(じほう,2012年)、「ヒヤリハット事例に学ぶ服薬指導のリスクマネジメント」(日経BP社,2011年)、「処方せんチェック虎の巻」(日経BP社,2009年)、「薬学と社会」(じほう,2001年)、「薬を育てる 薬を学ぶ」(東京大学出版会,2007年)など他多数。
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