
ドパコール配合錠の増量:過去の副作用に不安を感じた患者妻
過去にドパコール配合錠<レボドパ・カルビドパ水和物>を3錠/日から4錠/日へ増量した際に副作用と思われる症状(意識消失)が出現していた患者である。その2年後に、再度、手の震えのためドパコール配合錠の増量(6錠/日)の指示が出たが、患者の妻は、過去の副作用の経験から増量に対して不安な気持ちになってしまった。薬剤師は医師に疑義照会し、3錠/日に変更となった。なお、患者の妻によると、手の震えは医師の往診時にたまたま起こっていただけで、時間が経つと治まっているとのことであり、必ずしも増量の必要はないと考えられた。
<処方1>80歳代の男性。内科クリニック。
| ロピニロール徐放錠8mg | 1錠1日1回朝食後14日分 |
|---|---|
| ドパコール配合錠L100 | 6錠1日3回毎食後14日分 |
| エンタカポン錠100mg | 3錠1日3回毎食後14日分 |
| 他7剤 |
*前回までドパコール配合錠L100は3錠/日だった。
<効能効果>
●ドパコール配合錠L50・L100・L250<レボドパ・カルビドパ水和物>
パーキンソン病、パーキンソン症候群
4年前よりパーキンソン病の治療をしている患者である。1年後の春、手の震えのためドパコール配合錠が3錠/日から4錠/日に増量となった。それから1年2ヵ月が過ぎたころ、「意識消失」(昼寝から起きてこなかったとのことであるが、詳細は不明)が見られたため、脳卒中疑いで地域の基幹病院に入院となった。数日後に退院となったが、入院先の病院の担当医に「意識消失」はドパコール配合錠の増量のためと診断されていた(ロピニロール徐放錠も処方されているにもかかわらず、レボドパの過量投与と診断した根拠は不明である)。
その後は3錠/日での処方が続いていたが、2年が経過したころ、震えが顕著なため、在宅医によりドパコール配合錠が6錠/日に増量となった。
患者の介護は妻が行っている。元々は、パーキンソン病治療を専門とする高名な医師(現在は別の医師)による処方であったこともあり、妻は常々処方内容は変更してほしくないと話しており、往診時にドパコール配合錠が6錠/日という倍の量になると聞いてとても不安に感じていた。
薬剤師は、かつて4錠/日に増量後に入院したことを記憶していたため、在宅医に対して2年前にドパコール配合錠増量による「意識消失」と診断されたことについて説明を行い、増量は中止になり3錠/日に戻った。
手の震えについて妻は以下の様に話してくれた。
患者妻:「往診時にたまたま震えが出ていただけで、時間が経つと治まっています。いつもと変わりません。」
ドパコール配合錠の用法・用量について、添付文書には以下が記載されている。
|
<レボドパ既服用患者>: ●症状により適宜増減して最適量を定め維持量(標準:レボドパ量として1回200~250mg、1日3回)とする。レボドパ量として1日1500mgを超えないこと。 |
本事例においては、ドパコール配合錠の投与量の増減は適正用量範囲内で行われていた。しかし不幸にもドパコール配合錠の増量によると思われる副作用(基幹病院の診断による)が出現してしまった。
副作用と思われる症状が見られたのも2年前ということもあり、主治医がその情報を見逃していた可能性もある。
レボドパを含む抗パーキンソン薬は精神神経症状の副作用が多い薬剤であるので、投与量の変更時には副作用歴を含む患者の基本情報を確認するようにする。
また、主治医が変更となった場合、情報の引き継ぎがうまく行われない可能性もあるので、薬剤師がそのフォローに回れるよう、薬歴や患者に関する情報を収集し、いつでも閲覧できるようにまとめておくことが必要である。
レボドパでは、「意識消失(障害)」に関連する重大な副作用として突発的睡眠がある。
突発的睡眠はドパミン作動薬に共通する副作用であるとされ、ドパミン含有製剤の添付文書では「重要な基本的注意」として突発的睡眠の注意喚起がなされている。医薬品医療機器総合機構の有害事象自発報告データベース(JADER)を用いた医薬品による交通事故の実態についての調査報告(文献1)によると、交通事故が有害事象である342件において被疑薬とされた医薬品は176薬品であり、プラミペキソール塩酸塩水和物が47件と最も多かった(このうち突発的睡眠36件、傾眠4件が併発有害事象)。レボドパ・カルビドパ水和物も7件報告があり、うち6件は突発的睡眠が併発有害事象であった。
<文献>
1)安藤剛ら、日本交通科学学会誌、16(1):46-51,2016.
[国試対策問題]
問題:80歳代男性。パーキンソン病に対しレボドパ・カルビドパ水和物配合錠(ドパコール配合錠)を服用中である。過去に同薬の増量後、家族から「昼寝をしたまま長時間起きてこなかった」と言われ、医療機関を受診した既往がある。
レボドパを含む抗パーキンソン病薬において、上記エピソードと最も関連が深い重大な副作用はどれか。1つ選べ。
1 起立性低血圧
2 突発的睡眠
3 悪性症候群
4 ジスキネジア
5 幻覚
【正答】2
1 抗パーキンソン病薬で見られる副作用ではある。しかし本症例は「体位変換後の失神」ではなく、「昼寝から起きない」という経過であり、典型像とは一致しない。
2 ドパミン作動薬およびレボドパ含有製剤で見られる重大な副作用。前兆なく突然眠り込むことがあり、交通事故との関連も報告されている。「長時間起きない」というエピソードと最も整合する。
3 発熱、筋強剛、CK上昇などを伴う重篤な副作用。本症例ではそのような症状の記載はない。
4 ジスキネジアレボドパ長期使用で見られる不随意運動。意識消失様症状とは無関係。
5 精神症状として重要だが、「起きない」という症状は説明できない。
*本稿では、全国各地において収集したヒヤリ・ハット・ホット事例について、要因を明確化し、詳細に解析した結果を紹介します。事例の素材を提供していただいた全国の薬剤師の皆様に感謝申し上げます。

澤田教授
四半世紀にわたって医療・介護現場へ高感度のアンテナを張り巡らし、薬剤師の活動の中から新しい発見、ヒヤリ・ハット・ホット事例を収集・解析・評価し、薬剤師や医師などの医療者や患者などの医療消費者へ積極的に発信している。最近は、医薬分業(薬の処方と調剤を分離し、それぞれを医師と薬剤師が分担して行うこと)のメリットを全国民に理解してもらうためにはどのような仕組みとコンテンツが必要かや、医療・介護の分野でDXが進む中で薬剤師はどのような役割を果たすべきかなどを、日々考えている。
薬学者。東京大学薬学部卒業。その後、米国国立衛生研究所研究員、東京大学医学部助教授、九州大学大学院薬学研究院教授、東京大学大学院情報学環教授を経て、現在、東京大学大学院薬学系研究科客員教授。更に、NPO法人 医薬品ライフタイムマネジメントセンター理事長・センター長。著書には「ポケット医薬品集2024」(南山堂,2024年)、「処方せんチェック・ヒヤリハット事例解析 第2集」(じほう,2012年)、「ヒヤリハット事例に学ぶ服薬指導のリスクマネジメント」(日経BP社,2011年)、「処方せんチェック虎の巻」(日経BP社,2009年)、「薬学と社会」(じほう,2001年)、「薬を育てる 薬を学ぶ」(東京大学出版会,2007年)など他多数。
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