
アムロジピン中止後もグレープフルーツ禁止と思い込んでいた患者
もともとノルバスクOD錠<アムロジピン>とブロプレス錠<カンデサルタン>を併用していた患者が、アムロジピン中止後もグレープフルーツジュース(GFJ)を避けていた。原因は、患者とのコミュニケーション不足による、患者の思い込みと薬剤師からの説明不足と考えられた。
<処方1>50歳代の男性。内科クリニック。
| ノルバスクOD錠2.5mg | 1錠1日1回朝食後56日分 |
|---|---|
| ブロプレス錠4 | 1錠1日1回朝食後56日分 |
<処方2>
| ブロプレス錠4 | 1錠1日1回朝食後56日分 |
|---|
<効能効果>
●ノルバスク錠2.5mg・5mg・10mg/OD錠2.5mg・5mg・10mg<アムロジピンベシル酸塩>
高血圧症、狭心症
●ブロプレス錠2・4・8・12<カンデサルタンシレキセチル>
高血圧症
腎実質性高血圧症
慢性心不全(軽症~中等症)で、アンジオテンシン変換酵素阻害剤の投与が適切でない場合【12mg錠は除く】
患者は高血圧症で、約1年前から当薬局を利用している。ノルバスクOD錠2.5mgとブロプレス錠4を継続服用していた<処方1>。なお、当薬局の利用以前から両剤を服用していたことを確認している。
血圧が下がりコントロール良好のため、約3ヵ月前からノルバスクOD錠2.5mgが中止となり、ブロプレス錠4のみの処方が続いていた<処方2>。
今回、薬剤師は薬歴でノルバスクOD錠の服用歴を確認したため、念のため今の薬(ブロプレス錠4)はGFJを飲んでも降圧作用に影響はないことを説明した。
薬剤師:「ノルバスクOD錠のときはGFJを飲んでは駄目でしたが、今はブロプレス錠を飲んでいても大丈夫ですよ。GFJは飲めますよ」
患者:「え!血圧の薬はすべてGFJの影響を受けると思い込んでいたよ。だから今でもGFJを飲むのは避けていたよ」
患者は、日常生活における制限が一つなくなったことで、安堵の表情を浮かべていた。
普段の患者は口数が少なく、一方通行の指導になってしまいがちであったが、過去にGFJに関する説明をした際には興味を示して耳を傾けており、自分なりに注意していたと思われる。また、薬剤師から「血圧の薬、ノルバスクはGFJとの相性が良くなくて飲用しないように!」のような説明が行われ、患者はすべての血圧の薬はGFJの飲み合わせの問題があると思い込んでしまった。
ノルバスクOD錠が中止になった際に、薬剤師から、中止薬とGFJとの相互作用が回避できたこと、他の薬剤との相互作用は特に問題ないことなどの説明まではできていなかった。
患者は来局間隔が適切で、服薬コンプラアンスは良好であった。しかしながら、薬剤師とのコミュニケーションは良好といえず、血圧値も聞き出せていない状況であった。これまでのコミュニケーション不足も一因といえる。
日常生活に制限がかかる薬剤の注意点がなくなったときは、その都度、対象薬について伝える必要性がある。今回の場合、以下のような説明が必要であった。
「以前に説明しましたように、GFJとの相性に問題があったノルバスクOD錠は今回から中止になりました。同じ高血圧の薬ですが、ブロプレス錠についてはGFJとの飲み合わせの問題はないので、飲用しても問題はありませんよ」
また、一方通行の指導になりがちな場合においても、相手の反応をうかがいつつ、常に会話のきっかけを模索し、良好なコミュニケーションを保てるように努める。
カルシウム拮抗薬とGFJとの相互作用について
ある一連の薬物(カルシウム拮抗剤、HMG-CoA還元酵素阻害剤、HIV(ヒト免疫不全ウイルス)プロテアーゼ阻害剤、免疫抑制剤、睡眠導入剤、抗ヒスタミン剤・抗アレルギー剤、ステロイドホルモン剤など)とGFJとを同時に摂取した場合、血液中の薬物濃度が上昇することが知られている。
これは主にGFJが、消化管粘膜細胞内のチトクロムP4503A4(上記薬物の解毒代謝を担う主たる酵素)の活性を抑制し、その結果として薬物のバイオアベイラビリティを上昇させるためであると考えられている。このGFJの抑制効果は、数日間持続することがある。さらに各系統の薬物間、各系統内の薬物間でGFJの影響の大きさに差が見られる。
カルシウム拮抗薬間でも、GFJ飲用時におけるAUC、Cmaxの増加率には大きな違いが見られる。ニフェジピンでは、AUCは34~103%の増加率を示し、Cmaxは92%の増加率を示したという報告と、GFJ飲用の影響をほとんど受けないという報告がある。アムロジピンとジルチアゼムの場合には、血液中濃度には大きな変化は見られない。一方、ほかのカルシウム拮抗薬においては、GFJ飲用時には多かれ少なかれAUC、Cmaxのどちらか、あるいは両方の増加を示す報告がある。[文献1)]
アムロジピンとGFJは添付文書で併用注意に設定されており、同時飲用は避けるべきであるといえる。しかしながら、アムロジピン服用中のGFJ飲用については、血中濃度に大きな変化はなく、血圧にも影響がなかったとの報告もある。したがって、アムロジピン服用中の患者がGFJを誤って飲用した場合、その影響は少ないことが推察される。
GFJとの相互作用が考えられる薬物においては、その種類に応じて適正に判断し、服薬指導を行う必要があるといえるだろう。
【引用文献】
1)澤田康文著.薬と食の相互作用(上巻)医薬ジャーナル社,2005.
[国試対策問題]
問題:グレープフルーツジュース(GFJ)とカルシウム拮抗薬との相互作用のメカニズムに関する記述のうち、正しいのはどれか。2つ選べ。
1 主に小腸のCYP3A4活性が不可逆的に阻害される。
2 主に肝臓のCYP3A4活性が競合的に阻害される。
3 核内受容体を介して小腸のCYP3A4発現が誘導される。
4 核内受容体を介して肝臓のCYP3A4発現が抑制される。
5 カルシウム拮抗薬の腎排泄が阻害される。
6 カルシウム拮抗薬の降圧効果が増強する。
【正答】1、6
GFJに含まれるフラノクマリン系化合物が、小腸のCYP3A4と共有結合を形成し、CYP3A4活性を不可逆的に阻害することから、グレープフルーツジュースとカルシウム拮抗薬を併用すると、カルシウム拮抗薬の小腸での代謝が抑制され、バイオアベイラビリティが上昇し、血中濃度が増大して降圧作用が増強すると考えられている。
*本稿では、全国各地において収集したヒヤリ・ハット・ホット事例について、要因を明確化し、詳細に解析した結果を紹介します。事例の素材を提供していただいた全国の薬剤師の皆様に感謝申し上げます。

澤田教授
四半世紀にわたって医療・介護現場へ高感度のアンテナを張り巡らし、薬剤師の活動の中から新しい発見、ヒヤリ・ハット・ホット事例を収集・解析・評価し、薬剤師や医師などの医療者や患者などの医療消費者へ積極的に発信している。最近は、医薬分業(薬の処方と調剤を分離し、それぞれを医師と薬剤師が分担して行うこと)のメリットを全国民に理解してもらうためにはどのような仕組みとコンテンツが必要かや、医療・介護の分野でDXが進む中で薬剤師はどのような役割を果たすべきかなどを、日々考えている。
薬学者。東京大学薬学部卒業。その後、米国国立衛生研究所研究員、東京大学医学部助教授、九州大学大学院薬学研究院教授、東京大学大学院情報学環教授を経て、現在、東京大学大学院薬学系研究科客員教授。更に、NPO法人 医薬品ライフタイムマネジメントセンター理事長・センター長。著書には「ポケット医薬品集2024」(南山堂,2024年)、「処方せんチェック・ヒヤリハット事例解析 第2集」(じほう,2012年)、「ヒヤリハット事例に学ぶ服薬指導のリスクマネジメント」(日経BP社,2011年)、「処方せんチェック虎の巻」(日経BP社,2009年)、「薬学と社会」(じほう,2001年)、「薬を育てる 薬を学ぶ」(東京大学出版会,2007年)など他多数。
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