
花粉症シーズン前、専門医からのスギ花粉舌錠の処方でヒヤリ
シダキュアスギ花粉舌下錠<スギ花粉エキス原末>によるスギ花粉症の減感作療法を開始して2週目の患者に、本来は最初の1週間のみ使用する2,000JAUが35日分で処方された。処方医は専門医であり、うっかり誤選択したものと思われる。本剤の薬名は長く、カタカナ、漢字、数字、アルファベットから構成されており、数字の部分(2と5)が埋もれており見損なったと考えられる。
<処方1>50歳代の男性。耳鼻科クリニック。疑義照会前。
| シダキュアスギ花粉舌下錠2,000JAU | 1錠1日1回朝舌下35日分 |
|---|
<処方2>疑義照会後。
| シダキュアスギ花粉舌下錠5,000JAU | 1錠1日1回朝舌下35日分 |
|---|
<効能効果>
●シダキュアスギ花粉舌下錠2,000JAU・5,000JAU<スギ花粉エキス原末>
スギ花粉症(減感作療法)
患者は、長年にわたってスギ花粉症に悩まされていた。次のシーズンが始まる前の秋からシダキュアスギ花粉舌下錠による減感作療法を開始することとなった。
今回、シダキュアスギ花粉舌下錠2,000JAUを35日分と記載された処方箋を応需した<処方1>。薬剤師は処方に疑問を持ち、この薬の使用は本日が初めてか患者に確認したところ、すでに院内処方で同薬を1週間使用したとの回答で、今回は2週目以降の処方であることが分かった。
シダキュアスギ花粉舌下錠は、投与開始後1週間は、シダキュアスギ花粉舌下錠2,000JAUを1日1回1錠、投与2週目以降は、シダキュアスギ花粉舌下錠5,000JAUを1日1回1錠、使用する薬剤である。<処方1>では、本来は最初の1週間のみ使用する薬が35日分処方されており、処方の誤りが疑われた。
医師に疑義照会したところ、シダキュアスギ花粉舌下錠5,000JAUを1日1回1錠、使用する処方に変更となった<処方2>。
その後、患者は順調に使用を継続し、2月中旬に来局した際には、「例年だと2月にはもう花粉症の症状が出て辛いが、今年は症状が全然出ていなくて助かっています」という話であった。
この医師は減感作療法の専門家であり、なぜ誤処方したのかは不明であるが、処方作成時にうっかり誤選択したものと思われる。本剤は薬名(カタカナ、漢字、数字、アルファベットからなっている)が長く、数字(2と5)の部分が全体に埋もれており、見損なってしまったと考えられる。
薬剤師が処方に疑問を持ったことで、疑義照会が行われ、患者には正しい薬が交付できた。
スギ花粉症やインフルエンザなど、ある特定の季節だけ使用回数が増加する薬剤に関しては、その(流行)時期が過ぎ去るとつい知識が薄れてしまいがちだが、薬の専門家としては常に知識を維持しておきたい。さらに、専門医であってもうっかりミスが起こる可能性があることを十分に認識する必要がある。
*スギ花粉症の舌下免疫療法について1)
アレルゲン免疫療法とは、原因となるアレルゲンを投与し症状を緩和させる治療法であり、治癒あるいは長期寛解が期待される。皮下免疫療法に加え、近年では舌下免疫療法が臨床応用されている。
スギ花粉症に対する舌下免疫療法製剤として、2014年にスギ花粉舌下液が発売された。その後、室温保存が可能なスギ花粉舌下錠が開発され、2018年に発売された。なお、スギ花粉舌下液は2021年に販売終了となっている。
<引用文献>
1)シダキュアスギ花粉舌下錠、医薬品インタビューフォーム、鳥居薬品株式会社、2023年5月改定(第8版)
[国試対策問題]
問題:アレルギー性鼻炎に関する記述のうち、正しいのはどれか。1つ選べ。
1 感作T細胞が関与するIV型アレルギー疾患である。
2 季節性アレルギー性鼻炎の原因としてハウスダストやダニがある。
3 日本での花粉症の原因としてはヒノキ花粉が最も多い。
4 アレルゲン免疫療法は即効性がある。
5 アレルゲン免疫療法には皮下免疫療法と舌下免疫療法がある。
【正答】5
1 IgE抗体が関与するI型アレルギー疾患である。
2 通年性アレルギー性鼻炎の原因である。季節性アレルギー性鼻炎の原因としては花粉が多い。
3 スギ花粉が最も多い。
4 アレルゲン免疫療法(減感作療法)は、3~5年の期間を要する。
*本稿では、全国各地において収集したヒヤリ・ハット・ホット事例について、要因を明確化し、詳細に解析した結果を紹介します。事例の素材を提供していただいた全国の薬剤師の皆様に感謝申し上げます。

澤田教授
四半世紀にわたって医療・介護現場へ高感度のアンテナを張り巡らし、薬剤師の活動の中から新しい発見、ヒヤリ・ハット・ホット事例を収集・解析・評価し、薬剤師や医師などの医療者や患者などの医療消費者へ積極的に発信している。最近は、医薬分業(薬の処方と調剤を分離し、それぞれを医師と薬剤師が分担して行うこと)のメリットを全国民に理解してもらうためにはどのような仕組みとコンテンツが必要かや、医療・介護の分野でDXが進む中で薬剤師はどのような役割を果たすべきかなどを、日々考えている。
薬学者。東京大学薬学部卒業。その後、米国国立衛生研究所研究員、東京大学医学部助教授、九州大学大学院薬学研究院教授、東京大学大学院情報学環教授を経て、現在、東京大学大学院薬学系研究科客員教授。更に、NPO法人 医薬品ライフタイムマネジメントセンター理事長・センター長。著書には「ポケット医薬品集2024」(南山堂,2024年)、「処方せんチェック・ヒヤリハット事例解析 第2集」(じほう,2012年)、「ヒヤリハット事例に学ぶ服薬指導のリスクマネジメント」(日経BP社,2011年)、「処方せんチェック虎の巻」(日経BP社,2009年)、「薬学と社会」(じほう,2001年)、「薬を育てる 薬を学ぶ」(東京大学出版会,2007年)など他多数。
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