
施設職員がメネシット配合錠の服用時間を勝手に変えていた
施設入所者において、13時服用指示のメネシット配合錠<レボドパ・カルビドパ水和物配合>を、施設の都合で職員が勝手に14時に服用させていたことが発覚した。施設職員は、処方内容(用法用量など)の変更には医師の許可が必要であることを認識していなかった。
<処方1>80歳代の女性。内科クリニック。
| メネシット配合錠100 |
3.5錠1日5回 起床時・朝食後・昼食後・13時・夕食後 (1錠・0.5錠・1錠・0.5錠・0.5錠) |
|---|---|
| ドプスOD錠200mg | 3錠1日3回毎食後 |
*併用薬:酸化マグネシウム錠330mg、フランドルテープ40mg
<効能効果>
●メネシット配合錠<レボドパ・カルビドパ水和物配合>
パーキンソン病、パーキンソン症候群
患者はグループホームの入所者であり、内科クリニック等からの処方は、入所時から当薬局で調剤を行っている。
パーキンソン病のため、入所当時からメネシット配合錠を服用中であり、服用歴は10年以上になる。入所後に徐々に用量が増加し、服用回数も増え、現在はドプスOD錠<ドロキシドパ>も追加となっている。
一包化薬の袋には服用時点を印字しており、メネシット配合錠の13時の服用分には「13時」と印字していた。今回、施設職員(ヘルパー)より連絡があり、13時の印字を14時に変更して一包化薬を作ってほしいと依頼された。
その理由を確認したところ、これまでも施設の都合(後述)でメネシット配合錠を14時に服用させており、そのことを医師へ伝えていないことが発覚した。いつから服用時間を14時に変更していたのかは不明であるが、14時に変更してから現在に至るまで、患者の状態に特に変化はないとのことである。
服用時間の変更は医師へ確認する必要があることを説明し、すぐに医師へ疑義照会を行った。結果、これまでの状態に問題がないため14時服用に変更してよいこととなった。
患者のメネシット配合錠の飲み方は、「起床時、朝食後、昼食後、13時、夕食後」の1日5回である。13時服用分のメネシット配合錠を14時にずらしていた理由は、グループホームの昼食時間は11時半~12時であり、そうすると昼食後の薬を服用した後すぐに13時の薬を飲むことになってしまうためであった。例えば、昼食が12時であると、食後30分おく(食卓の整理などで要する時間)と、ヘルパーが服薬ケアできるのが12時30分になってしまい、13時の服用では30分後の服用となってしまう。ヘルパーは、これではあまりにも近接していると考え、勝手に14時に変更していた。用法変更は医師の確認が必要であることを、ヘルパーが把握していなかった。なお、施設の看護師にも連絡していなかったと思われる。
また、パーキンソン病にはウェアリングオフ現象などがあるため、服用が頻回になることや、服用時間の重要性がヘルパーに理解されていなかった。薬剤師からの説明が不足していた。グループホームの昼食時間や生活スタイルを考慮せず、処方通りに調剤、配薬していたことも反省すべき点である。
当薬局では、施設入所者に対する処方薬は、施設へ届けてヘルパーに一括で渡している。しかし、施設入所者が確実に服薬するためには、施設職員との良好なコミュニケーションが必須である。施設での配薬手順や入所者の生活スタイルを把握し、施設職員との情報共有を徹底する必要がある。
施設職員に対しては、処方内容(用法用量変更など)の変更は必ず医師の許可を得てから行うものであり、勝手な変更は不可であることを認識してもらう。
また、施設内で服薬関係に関する困り事があれば、まずは必ず看護スタッフに相談するように指導する。看護師からは適宜、薬剤師に連絡してもらう。
介護施設におけるスタッフの自己判断による服薬変更について、類似例を以下に示す。
面倒だからと、別包必須の薬を一緒に与薬されてしまった
<処方1>80歳の女性。病院の内科。
| ネオドパストン配合錠L100 | 6錠 1日3回毎食後 |
|---|---|
| ケタスカプセル10mg | 3Cap 1日3回毎食後 |
| マグミット錠330mg | 4.5錠 1日3回毎食後 |
*ネオドパストンは粉砕、ケタスは脱カプセル、マグミット錠は別包とする。
特別養護老人ホームに入所中の患者で、認知症とパーキンソン病の既往があり、胃ろうチューブより投薬されている。胃ろうによる投薬を開始した約2ヵ月後ごろ、施設から「胃ろうチューブがだんだん茶色になってきた。薬が着色の原因ではないか?」との連絡があった。
マグミット錠<酸化マグネシウム>を別包としていたが、施設では介護士が面倒がって、勝手に処方1の薬剤を服用時点ごとに一緒に溶かして投与していた。マグミット錠とネオドパストン配合錠<レボドパ・カルビドパ水和物>は、同時投与すると配合変化を起こすため*、服用時点は同じであったが、マグミット錠とネオドパストン配合錠を別包としていた。今回のチューブの変色は配合変化が原因の可能性がある。
薬剤師は、別包になっているものをわざわざ混合して投与することなどないと思っていた。そのため、薬剤師は介護士に対して、別包になっている理由を十分に説明していなかった。
投与方法については、薬剤師から投薬者に十分に説明する必要がある。服用時点が同じでも、特段の理由で別包にしている場合には、その理由を十分に説明し、説明書を渡すなどのケアが必要である。薬袋・分包紙にも「この薬をほかの薬と混ぜないでください」のような注意文を印字する。
*ネオドパストンのインタビューフォームには、レボドパの配合変化として「酸化マグネシウムなどとの配合は湿潤や着色のため不適」であるとの参考情報が記載されている。
[国試対策問題]
問題:レボドパと酸化マグネシウムの配合変化に関する記述のうち、正しいのはどれか。2つ選べ。
1 レボドパの配合により、酸化マグネシウムの分解が生じる。
2 レボドパの配合により、酸化マグネシウムの効果が減弱する。
3 レボドパと酸化マグネシウムの配合により着色が生じる。
4 酸化マグネシウムの配合により、レボドパの分解が生じる。
5 特に配合変化の問題は生じない。
【正答】3、4
レボドパは、30℃、RH92%で、スルピリン、ミグレニン、安息香酸ナトリウムカフェイン、ジアスターゼ、パンクレアチン、酸化マグネシウム、アスコルビン酸含有製剤などとの配合は湿潤や着色のため不適であり、アルカリや還元剤によって分解されるので、消化器用剤、ビタミン剤などとの配合には注意する。その他着色などの変化が起こりやすい医薬品が多いので配合には注意を要する。
*本稿では、全国各地において収集したヒヤリ・ハット・ホット事例について、要因を明確化し、詳細に解析した結果を紹介します。事例の素材を提供していただいた全国の薬剤師の皆様に感謝申し上げます。

澤田教授
四半世紀にわたって医療・介護現場へ高感度のアンテナを張り巡らし、薬剤師の活動の中から新しい発見、ヒヤリ・ハット・ホット事例を収集・解析・評価し、薬剤師や医師などの医療者や患者などの医療消費者へ積極的に発信している。最近は、医薬分業(薬の処方と調剤を分離し、それぞれを医師と薬剤師が分担して行うこと)のメリットを全国民に理解してもらうためにはどのような仕組みとコンテンツが必要かや、医療・介護の分野でDXが進む中で薬剤師はどのような役割を果たすべきかなどを、日々考えている。
薬学者。東京大学薬学部卒業。その後、米国国立衛生研究所研究員、東京大学医学部助教授、九州大学大学院薬学研究院教授、東京大学大学院情報学環教授を経て、現在、東京大学大学院薬学系研究科客員教授。更に、NPO法人 医薬品ライフタイムマネジメントセンター理事長・センター長。著書には「ポケット医薬品集2024」(南山堂,2024年)、「処方せんチェック・ヒヤリハット事例解析 第2集」(じほう,2012年)、「ヒヤリハット事例に学ぶ服薬指導のリスクマネジメント」(日経BP社,2011年)、「処方せんチェック虎の巻」(日経BP社,2009年)、「薬学と社会」(じほう,2001年)、「薬を育てる 薬を学ぶ」(東京大学出版会,2007年)など他多数。
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