Prof.Sawadaの薬剤師ヒヤリ・ハット・ホット
事例247

「初めだけ」を誤解して空打ちをしていなかった患者

ヒヤリした!ハットした!

患者は骨粗鬆症治療薬のフォルテオ皮下注<テリパラチド>の新しいキットを使用開始するときに空打ちを行っていなかった。病院看護師の「初めだけ空打ち」という言葉を患者が誤解してしまったことが原因であった。

<処方1>70歳代の女性。病院の内科。

フォルテオ皮下注キット600µg 1キット1日1回

<効能効果>

●フォルテオ皮下注キット600μg<テリパラチド>
骨折の危険性の高い骨粗鬆症

どうした?どうなった?

初めて来局した患者で、フォルテオ皮下注を5ヵ月前から使用しており、使用方法は分かっていると述べていた。
フォルテオ皮下注は、新しいキットを使い始めるときに1回だけ空打ちを行う必要がある。しかし、患者と話している中で、初回導入時には空打ちしたものの、以降5ヵ月間で新しいキットを使用開始する際には空打ちを行っていなかったことが判明した(通常、1キットは28日分である)。
患者には、28日に1回の新しいペンの交換日には必ず空打ちを行うよう再指導した。しかし、初回導入時に病院で受けた説明(患者は誤って解釈していた)を守って数ヵ月使用してきたと認識していたため、薬局で空打ちの説明を再度行っても、なかなか納得してもらえなかった。

なぜ?

患者は、初回導入時に病院の看護師からフォルテオ皮下注の使用法の指導を受けていた。看護師からは、「空打ちは初めだけ!今日空打ちするので、もうこれからはしなくていい!」と強調されたとのことであった。
患者は、看護師の「初めだけ」という言葉を、「導入時の始めたときだけ」と受け取っていた。看護師は、おそらく「ペン交換日の初めだけ」と伝えたかったが、看護師と患者間で「初めだけ」という言葉の解釈にズレが生じていたと考えられる。

ホットした!

「初めだけ」という表現では、導入時と交換時のどちらにも解釈できてしまうので、「新しいペンの使い始めた初日は毎回」などと明確に伝える。
患者によっては、毎回の使用時に空打ちをしてしまう場合も考えられるので、十分な説明が必要である。
製薬会社(日本イーライリリー)が提供している下記の動画を必ず視聴するように指導する。
https://www.lilly.com/jp/product-lineup/forteo-2
また、注射の使用経験が長い患者でも、使用しているうちに間違った使用方法になってしまうこともあるため、定期的に使用法の確認を行う必要がある。

もう一言

ほかに初回(ペン交換日)だけ空打ちを行うものとして、抗パーキンソン病治療薬のアポカイン皮下注30mg<アポモルヒネ塩酸塩>などがある。

[国試対策問題]

問題:骨粗鬆症治療薬に関する記述のうち、正しいのはどれか。2つ選べ。

1 デノスマブは、RANKL(NF-κB活性化受容体リガンド)に結合するヒト型IgG2モノクローナル抗体で、RANKLによる破骨細胞の形成を抑制する。
2 テリパラチドを間欠投与することで、前駆細胞から骨芽細胞への分化促進や、骨芽細胞のアポトーシス抑制により、骨新生が誘発される。
3 アレンドロン酸は破骨細胞に取り込まれた後、その活性を活性化することにより、骨吸収を減少させる。
4 ラロキシフェンはエストロゲン受容体に結合し、骨においてはエストロゲンの作用を阻害し、骨新生を誘発する。
5 カルシトリオールはビタミンCの生体内活性代謝体であり、腸管からのカルシウム吸収を促進する。

【正答】1、2
3 アレンドロン酸は破骨細胞に取り込まれた後、その活性を抑制することにより、骨吸収を減少させる。
4 ラロキシフェンはエストロゲン受容体に結合し、骨においてはエストロゲンと同様な骨吸収抑制作用を示す。
5 カルシトリオールはビタミンD3の生体内活性代謝体であり、腸管からのカルシウム吸収を促進する。

*本稿では、全国各地において収集したヒヤリ・ハット・ホット事例について、要因を明確化し、詳細に解析した結果を紹介します。事例の素材を提供していただいた全国の薬剤師の皆様に感謝申し上げます。

澤田教授

澤田教授
四半世紀にわたって医療・介護現場へ高感度のアンテナを張り巡らし、薬剤師の活動の中から新しい発見、ヒヤリ・ハット・ホット事例を収集・解析・評価し、薬剤師や医師などの医療者や患者などの医療消費者へ積極的に発信している。最近は、医薬分業(薬の処方と調剤を分離し、それぞれを医師と薬剤師が分担して行うこと)のメリットを全国民に理解してもらうためにはどのような仕組みとコンテンツが必要かや、医療・介護の分野でDXが進む中で薬剤師はどのような役割を果たすべきかなどを、日々考えている。

薬学者。東京大学薬学部卒業。その後、米国国立衛生研究所研究員、東京大学医学部助教授、九州大学大学院薬学研究院教授、東京大学大学院情報学環教授を経て、現在、東京大学大学院薬学系研究科客員教授。更に、NPO法人 医薬品ライフタイムマネジメントセンター理事長・センター長。著書には「ポケット医薬品集2024」(南山堂,2024年)、「処方せんチェック・ヒヤリハット事例解析 第2集」(じほう,2012年)、「ヒヤリハット事例に学ぶ服薬指導のリスクマネジメント」(日経BP社,2011年)、「処方せんチェック虎の巻」(日経BP社,2009年)、「薬学と社会」(じほう,2001年)、「薬を育てる 薬を学ぶ」(東京大学出版会,2007年)など他多数。

記事作成日:2025年12月2日

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