
ネオキシテープを手首に誤用していた患者
過活動膀胱のためネオキシテープ73.5mg<オキシブチニン塩酸塩>を使用中の患者が、右手首にネオキシテープを貼付して来局した。普段は正しく下腹部に貼付しているとのことだが、鎮痛目的で消炎鎮痛テープと誤用していた。薬剤師はネオキシテープが以前交付したモーラステープ20mg<ケトプロフェン>に外包装や支持体の外観が酷似していたからではないかと推測した。
<処方1>70歳代の女性。泌尿器科クリニック。
| ネオキシテープ73.5mg | 1回1枚、1日1回入浴時に貼り替え14枚 |
|---|
※薬歴には3ヵ月前にモーラステープ20mgを交付した記録があった
<効能効果>
●ネオキシテープ73.5mg<オキシブチニン塩酸塩>
過活動膀胱における尿意切迫感、頻尿及び切迫性尿失禁
患者は過活動膀胱による尿失禁があり、ネオキシテープが継続処方されている。今回の投薬時、薬剤師は、患者の右手首にネオキシテープが貼付されていることに気付き、患者に理由を尋ねた。
患者:「右手首が痛いから…」
薬剤師は普段から誤用していたのではないかと驚き、いつもどのように使用しているのかを確認した。
患者:「いつもはきちんと下腹部に貼っている」
薬剤師は、その場で剥離させた。
薬剤師:「その薬は消炎鎮痛テープではないので剥がすようにしてください」
誤用による健康被害、尿閉や皮膚炎、口腔乾燥などは特になかった。患者は当日分のネオキシテープは手首のみに貼付していて、下腹部には貼付していないとのことであったので、当日分をすぐに下腹部に貼付するよう指導した。
患者が手首に貼付した理由は痛み止めとしての使用であった。薬歴を調査すると、3ヵ月前に消炎鎮痛剤のモーラステープ20mg(発売元:祐徳薬品)を交付した記録があった。両者は外包装(銀色のアルミ包装に青色の印字)、支持体(淡褐色~褐色)ともに外観が酷似しているので、このことが誤用の原因なのではないかと推測した。
今回はネオキシテープを貼付していたのが手首だったので、薬剤師が発見できたが、衣服に覆われている部位であったら誤使用に気付けなかった可能性がある。
同時に交付する薬だけでなく、過去に交付した薬とも、包装が酷似していることによる誤用・誤認のおそれがないかなども確認し、事故を未然に防ぐような服薬指導を行う必要がある。
同じ薬を長年使用しているうちに、患者は薬に対する知識が薄れたり、思い違いをしてしまうことはあり得るので、同一処方が継続されていても、定期的に患者の理解度を確認する。
*ネオキシテープの支持体とライナーについて
ネオキシテープとモーラステープでは、支持体やライナーが酷似している。ただし、ネオキシテープには支持体に医薬品名と1日1回貼付の文字が表記されており、患部に貼付された状態でも何の薬か識別できるため、本事例では薬剤師が誤用に気付いた。テープの大きさはネオキシテープ73.5mgは73.0mm×73.0mm、モーラステープ20mgは7cm×10cmであり、支持体の色調のみならず、大きさも似ている。
*ネオキシテープの貼り直しについて
ネオキシテープが途中ではがれ落ちた場合は、直ちに新たなネオキシテープを貼付し、次の貼り替え予定時間には新たなネオキシテープに貼り替える[文献1)]。本事例では、誤用ではあるものの患者の体に貼付していたのは手首の1枚だけで、適正使用部位の下腹部には本日分を貼付していなかったことから、直ちに本日分を下腹部に貼付するように指導した。
【参考文献】
1)ネオキシテープ73.5mg、医薬品添付文書、2020年3月改訂(第1版)、久光製薬株式会社
[国試対策問題]
問題:ムスカリン性アセチルコリン受容体を遮断することで、膀胱平滑筋の収縮を抑制し、尿の排泄を抑制することから、頻尿治療薬として用いられるのはどれか。1つ選べ。
1 オキシブチニン
2 チオトロピウム
3 ベタネコール
4 ネオスチグミン
5 ナフトピジル
【正答】1
2 チオトロピウムは、ムスカリン性アセチルコリン受容体を遮断することにより、気管支平滑筋の収縮を抑制することから、気管支喘息や慢性閉塞性肺疾患などに用いられる。
3 ベタネコールは、ムスカリン性アセチルコリン受容体を刺激することで、消化管や膀胱の運動を亢進することから、腸管麻痺や麻痺性イレウス、低緊張性膀胱による排尿困難などに用いられる。
4 ネオスチグミンは、コリンエステラーゼを可逆的に阻害し、アセチルコリンの分解を抑制することで、コリン作動性神経を刺激することから、術後の腸管麻痺や排尿困難などに用いられる。
5 ナフトピジルは、前立腺部や尿道のアドレナリンα1受容体を遮断することにより、尿道内圧を低下させることから、前立腺肥大症に伴う排尿障害に用いられる。
*本稿では、全国各地において収集したヒヤリ・ハット・ホット事例について、要因を明確化し、詳細に解析した結果を紹介します。事例の素材を提供していただいた全国の薬剤師の皆様に感謝申し上げます。

澤田教授
四半世紀にわたって医療・介護現場へ高感度のアンテナを張り巡らし、薬剤師の活動の中から新しい発見、ヒヤリ・ハット・ホット事例を収集・解析・評価し、薬剤師や医師などの医療者や患者などの医療消費者へ積極的に発信している。最近は、医薬分業(薬の処方と調剤を分離し、それぞれを医師と薬剤師が分担して行うこと)のメリットを全国民に理解してもらうためにはどのような仕組みとコンテンツが必要かや、医療・介護の分野でDXが進む中で薬剤師はどのような役割を果たすべきかなどを、日々考えている。
薬学者。東京大学薬学部卒業。その後、米国国立衛生研究所研究員、東京大学医学部助教授、九州大学大学院薬学研究院教授、東京大学大学院情報学環教授を経て、現在、東京大学大学院薬学系研究科客員教授。更に、NPO法人 医薬品ライフタイムマネジメントセンター理事長・センター長。著書には「ポケット医薬品集2024」(南山堂,2024年)、「処方せんチェック・ヒヤリハット事例解析 第2集」(じほう,2012年)、「ヒヤリハット事例に学ぶ服薬指導のリスクマネジメント」(日経BP社,2011年)、「処方せんチェック虎の巻」(日経BP社,2009年)、「薬学と社会」(じほう,2001年)、「薬を育てる 薬を学ぶ」(東京大学出版会,2007年)など他多数。
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