
レスキュラ点眼液からジェネリック医薬品に変更して目が沁みる
これまでレスキュラ点眼液0.12%<イソプロピルウノプロストン>を使用していた患者が、ジェネリック医薬品に変更した。後日、患者は目に沁みて痛いと訴え、レスキュラ点眼液に戻すことになった。薬剤師は、それらの点眼液の違いを詳細に確認し、浸透圧比の違いにより目への刺激感に影響がある可能性を推測した。
<処方1>70歳代の女性。A眼科クリニック。
イソプロピルウノプロストン点眼液0.12%「サワイ」5mL | 1回1滴1日2回 |
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<効能効果>
●レスキュラ点眼液0.12%<イソプロピルウノプロストン>
●イソプロピルウノプロストン点眼液0.12%「サワイ」
緑内障、高眼圧症
患者は以前から先発品のレスキュラ点眼液を使用していた。薬局で新たにレスキュラ点眼液のジェネリック医薬品であるイソプロピルウノプロストン点眼液0.12%「サワイ」を採用したので、患者に伝えたところ、ジェネリック医薬品への変更を希望され、変更となった。
後日、患者が来局された際に、変更した点眼液を使うとレスキュラ点眼液と違って、目に沁みて痛いと訴えられた。
患者の訴えにより、先発品のレスキュラ点眼液へ戻すことになり、その後は問題なく点眼液を使えるようになった。今回の経緯については医師に報告した。
イソプロピルウノプロストン点眼液0.12%「サワイ」の浸透圧比(0.6~0.8)は、レスキュラ点眼液の浸透圧比(0.9~1.1)よりも、1.0からやや離れていることから、目への刺激感がより強くなる可能性があると考えられた。
薬剤師は、患者に先発品からジェネリック医薬品への変更を勧めた際には、それらの違いを把握していなかった。さらに、この程度の浸透圧比の差から点眼時の違和感を感じる患者が存在することを認識していなかった。
先発品からジェネリック医薬品に変更する際、製剤特性が異なることがある。そのため、ジェネリック医薬品を新規採用した際は、製品の相違に関して気になる点を列挙し、メーカーに詳細を確認しておく必要がある。
薬剤師は、製剤特性も含めた先発品とジェネリック医薬品との違いを詳細に把握した上で、事前に患者へきちんと情報を伝えることが重要である。
1.点眼液の製剤特性の違いによる目への影響について
点眼液が目に沁みる等の要因として、浸透圧、pH、添加物が挙げられている(文献1-2)。そこで、本事例で問題となった2製品のそれらについて、表1に示す。
個人差はあるが、一般に、点眼液の浸透圧比が1.0から離れるほど、目への刺激感が強いとされている(文献2)。pHに関しては、涙液のpHが7.0~7.4であることから、より涙液のpHに近い方が刺激は少ないといわれている。添加物に関しては、ベンザルコニウム塩化物はクロルヘキシジングルコン酸塩より薬剤性角膜上皮障害を引き起こしやすいと報告されている(文献3)。ただし、ベンザルコニウム塩化物は、薬剤の眼内移行性に影響を及ぼし、濃度が減ると薬剤の眼内移行性も低下するが(文献4)、臨床上の眼圧下降作用に差は出ない程度ともいわれている。
表1.レスキュラ点眼液とジェネリック医薬品の比較。
レスキュラ点眼液0.12% | イソプロピルウノプロストン点眼液0.12%「サワイ」 | |
---|---|---|
浸透圧比 | 0.9~1.1 | 0.6~0.8 |
pH | 5.0~6.5 | 5.5~7.0 |
添加物 | ポリソルベート80、ベンザルコニウム塩化物、D-マンニトール、濃グリセリン、エデト酸ナトリウム水和物、pH調節剤 | グリセリン、クロルヘキシジングルコン酸塩、トロメタモール、ホウ酸、モノステアリン酸ポリエチレングリコール、pH調節剤 |
2.本事例の考察
レスキュラ点眼液よりイソプロピルウノプロストン点眼液「サワイ」の方が、浸透圧比が1.0から離れており、目への刺激感が強く、本事例のような患者の訴えがある可能性があると考えられる。一方で、イソプロピルウノプロストン点眼液「サワイ」の方がpHは涙液に近く、添加物による角膜上皮障害などのリスクは少ない可能性もあり、個人差も要因として挙げられる。ただし、両剤に共通の重要な基本的注意として、投与中に角膜上皮障害が現れることがあるので、霧視、異物感、眼痛などの自覚症状が持続する場合には、直ちに受診するよう患者に十分指導することとされている。
いずれにしても、ジェネリック医薬品への変更を勧めるにあたり、患者へは十分な説明と注意は必須である。
<引用文献>
1)池田博昭他,病院薬学.24(6):595-600,1998.
2)和田侑子他,薬局.69(13):3552-3565,2018.
3)福田正道他,医学と薬学.56(3):385,2006.
4)生杉謙吾,あたらしい眼科.31(3):377-378,2014.
[国試対策問題]
問題:点眼液Aには、下記の添加剤が含まれている。それぞれの添加剤の代表的な使用目的に関する記述のうち、正しいのはどれか。2つ選べ。
添加剤:ポリソルベート80、ベンザルコニウム塩化物、D-マンニトール、濃グリセリン、エデト酸ナトリウム水和物
1 ポリソルベート80は多価アルコールの一種であり、主に等張化剤として用いられる。
2 ベンザルコニウム塩化物は殺菌作用を持ち、主に防腐剤(保存剤)として用いられる。
3 D-マンニトールは糖アルコールの一種であり、主に等張化剤として用いられる。
4 濃グリセリンは金属イオンのキレート作用を持ち、主に安定化剤として用いられる。
5 エデト酸ナトリウム水和物は界面活性作用を持ち、主に可溶化剤や安定化剤として用いられる。
【正答】2、3
1 ポリソルベート80は界面活性作用を持ち、主に可溶化剤や安定化剤として用いられる。
4 濃グリセリンは多価アルコールの一種であり、主に等張化剤として用いられる。
5 エデト酸ナトリウム水和物は金属イオンのキレート作用を持ち、主に安定化剤として用いられる。
*本稿では、全国各地において収集したヒヤリ・ハット・ホット事例について、要因を明確化し、詳細に解析した結果を紹介します。事例の素材を提供していただいた全国の薬剤師の皆様に感謝申し上げます。

澤田教授
四半世紀にわたって医療・介護現場へ高感度のアンテナを張り巡らし、薬剤師の活動の中から新しい発見、ヒヤリ・ハット・ホット事例を収集・解析・評価し、薬剤師や医師などの医療者や患者などの医療消費者へ積極的に発信している。最近は、医薬分業(薬の処方と調剤を分離し、それぞれを医師と薬剤師が分担して行うこと)のメリットを全国民に理解してもらうためにはどのような仕組みとコンテンツが必要かや、医療・介護の分野でDXが進む中で薬剤師はどのような役割を果たすべきかなどを、日々考えている。
薬学者。東京大学薬学部卒業。その後、米国国立衛生研究所研究員、東京大学医学部助教授、九州大学大学院薬学研究院教授、東京大学大学院情報学環教授を経て、現在、東京大学大学院薬学系研究科客員教授。更に、NPO法人 医薬品ライフタイムマネジメントセンター理事長・センター長。著書には「ポケット医薬品集2024」(南山堂,2024年)、「処方せんチェック・ヒヤリハット事例解析 第2集」(じほう,2012年)、「ヒヤリハット事例に学ぶ服薬指導のリスクマネジメント」(日経BP社,2011年)、「処方せんチェック虎の巻」(日経BP社,2009年)、「薬学と社会」(じほう,2001年)、「薬を育てる 薬を学ぶ」(東京大学出版会,2007年)など他多数。
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