Prof.Sawadaの薬剤師ヒヤリ・ハット・ホット
事例240

【般】ピレノキシン点眼用0.005%15mLの記載で混乱

ヒヤリした!ハットした!

これまでピレノキシン懸濁性点眼液0.005%「参天」<ピレノキシン、5mL/本>を使用していた患者に、今回は一般名処方で【般】ピレノキシン点眼用0.005%が処方された。カタリン点眼用0.005%<ピレノキシン、点眼液用錠剤1錠・溶解液15mL>またはカタリンK点眼用0.005%<ピレノキシン、点眼液用顆粒87mg・溶解液15mL>に処方変更なのか、これまで通りでよいのか、迷ってしまった。疑義照会したところ、医師はピレノキシン懸濁性点眼液0.005%「参天」を一般名で処方したつもりであったことが分かった。

<処方1>80歳代の男性。総合病院の眼科。

ピレノキシン懸濁性点眼液0.005%「参天」5mL 10瓶両眼1日4回1回1滴

<処方2>

【般】ピレノキシン点眼用0.005%15mL 10瓶両眼1日4回1回1滴

<効能効果>

●カタリン点眼用0.005%・カタリンK点眼用0.005%・ピレノキシン懸濁性点眼液0.005%「参天」
初期老人性白内障

どうした?どうなった?

患者は白内障治療のため、これまではピレノキシン懸濁性点眼液が10本ずつ継続処方されていた<処方1>。今回、病院の方針に従い、一般名で処方された(<処方2>)。
レセコン入力した薬局の事務スタッフは、「15mL」×10瓶(150mL)で処方されていることに気付いたが、当薬局ではカタリン点眼用、カタリンK点眼用のいずれも在庫していなかったため、これまで通りのピレノキシン懸濁性点眼液(5mL/本)を30本(150mL)と入力し、そのままピレノキシン懸濁性点眼液0.005%「参天」の30本が調剤された。
鑑査・投薬を担当した薬剤師は、<処方2>の一般名処方の15mLという記載から、用時溶解するカタリン点眼用やカタリンK点眼用が対象となると判断したが、今回初めて一般名処方されていることから、医師がこれまで通りにピレノキシン懸濁性点眼液10本を処方するつもりで間違えたのだろうと推測した。医師に疑義照会したところ、医師はピレノキシン懸濁性点眼液0.005%の10本を一般名で処方したつもりであったことが分かった。

なぜ?

ピレノキシン製剤には、用時溶解するピレノキシン点眼用0.005%(カタリン・カタリンK、溶解液15mL)と溶解操作が不要な懸濁性点眼液であるピレノキシン点眼液0.005%(ピレノキシン懸濁性点眼液、5mL/本)がある。医師は一般名処方での表記の違いを知らなかったか、マスタから選ぶときに15mLという記載を見落とし、別物を選択していることに気付かなかった可能性がある。
薬局の事務スタッフは、処方箋の「15mL」との記載に気付いていたにもかかわらず、自己判断でピレノキシン懸濁性点眼液(5mL/本)に代替できると思い込んでしまった。当該事務スタッフは経験が浅く、カタリン・カタリンKという薬剤の存在を知らなかった(当薬局では、ここ数年処方がなく、在庫していなかった)。
調剤者も、普段は処方されることのない数量の点眼液が30本という処方に疑問を持たず、在庫もあったので、そのまま調剤した。

ホットした!

病院の方針で一般名処方が推奨されることも多いが、医師が意図した薬剤とは異なる薬剤の一般名が選択される場合がある。特に、薬剤名処方から一般名処方に変更された場合には、薬歴をよく確認することが大切である。
「いつもとちょっと違う」と感じることがあれば、そのまま見過ごさずに確認し、疑義照会などを徹底する。

もう一言

用時溶解する必要があるピレノキシン点眼用は、1958年に「カタリン」が、1986年に錠剤から顆粒に変更された「カタリンK」が承認された。以前は後発医薬品が存在していたが、現在は後発医薬品が販売中止となり、一般名処方加算の対象外である。
溶解操作が不要であるピレノキシン点眼液は、もともと「カタリン」のジェネリック医薬品として「カリーユニ」の名称で発売された。その後、医療用後発医薬品の販売名の一般的名称への変更が行われ、現在はピレノキシン懸濁性点眼液0.005%「参天」に変更されている。

[国試対策問題]

問題:初めて来局した患者から一般名処方の保険処方箋を受け取った。患者に確認したところ、処方された医薬品は初めて服用するとのことであった。調剤する医薬品を決定する上で、最も適切な対応はどれか。1つ選べ。

1 処方医に販売名を照会し、処方医の希望する医薬品を選択する
2 初めて服用するため、薬剤師の判断で先発医薬品を選択する
3 医療費削減のため、薬剤師の判断で後発医薬品を選択する
4 薬局の在庫を確認し、在庫に余裕のある医薬品を選択する
5 患者に先発医薬品または後発医薬品の使用に関する意向を確認する

【正答】5
5 一般名処方では、患者の意向で先発医薬品または後発医薬品を選択できるため、その意向を確認した上で、患者の意向に沿った調剤を行う

*本稿では、全国各地において収集したヒヤリ・ハット・ホット事例について、要因を明確化し、詳細に解析した結果を紹介します。事例の素材を提供していただいた全国の薬剤師の皆様に感謝申し上げます。

澤田教授

澤田教授
四半世紀にわたって医療・介護現場へ高感度のアンテナを張り巡らし、薬剤師の活動の中から新しい発見、ヒヤリ・ハット・ホット事例を収集・解析・評価し、薬剤師や医師などの医療者や患者などの医療消費者へ積極的に発信している。最近は、医薬分業(薬の処方と調剤を分離し、それぞれを医師と薬剤師が分担して行うこと)のメリットを全国民に理解してもらうためにはどのような仕組みとコンテンツが必要かや、医療・介護の分野でDXが進む中で薬剤師はどのような役割を果たすべきかなどを、日々考えている。

薬学者。東京大学薬学部卒業。その後、米国国立衛生研究所研究員、東京大学医学部助教授、九州大学大学院薬学研究院教授、東京大学大学院情報学環教授を経て、現在、東京大学大学院薬学系研究科客員教授。更に、NPO法人 医薬品ライフタイムマネジメントセンター理事長・センター長。著書には「ポケット医薬品集2024」(南山堂,2024年)、「処方せんチェック・ヒヤリハット事例解析 第2集」(じほう,2012年)、「ヒヤリハット事例に学ぶ服薬指導のリスクマネジメント」(日経BP社,2011年)、「処方せんチェック虎の巻」(日経BP社,2009年)、「薬学と社会」(じほう,2001年)、「薬を育てる 薬を学ぶ」(東京大学出版会,2007年)など他多数。

記事作成日:2025年8月5日

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