
痙攣時指示のダイアップ坐剤、実はしゃっくりへの処方?
フスコデ配合シロップなどが処方された4日後にダイアップ坐剤<ジアゼパム>が痙攣時の指示で処方され、薬剤師はフスコデ配合シロップに含まれるクロルフェニラミンによる薬剤誘発性痙攣を疑った。しかし実は、咳がひどい時に起こる「しゃっくり」のためという適応外使用であることが判明した。
<処方1>70歳の男性。A内科病院(デイサービス施設の附属医療機関)。
ヒダントールF配合錠 | 9錠1日3回毎食後14日分(粉砕) |
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ホクナリンテープ2mg | 14枚1日1回貼付 |
クラリスドライシロップ10%小児用 | 4g1日2回朝夕食後7日分 |
フスコデ配合シロップ | 12mL1日3回毎食後7日分 |
エンシュア・H | 750mL1日3回毎食後16日分 |
<処方2>
ダイアップ坐剤6 | 痙攣時1回1個肛門より挿入10回分 |
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*<処方1>の4日後の処方である。
<効能効果>
●フスコデ配合錠・シロップ<ジヒドロコデイン・メチルエフェドリン・クロルフェニラミン>
下記疾患に伴う咳嗽
急性気管支炎、慢性気管支炎、感冒・上気道炎、肺炎、肺結核
●ダイアップ坐剤4・6・10<ジアゼパム>
小児に対して次の目的に用いる
熱性痙攣およびてんかんの痙攣発作の改善
患者はデイサービスに通所しており、その附属の内科病院から咳風邪に対して<処方1>が処方された。その4日後に、痙攣に対してダイアップ坐剤が追加処方された<処方2>。
担当薬剤師は、ダイアップ坐剤が処方された痙攣に関して、フスコデ配合シロップに含まれるクロルフェニラミンによる痙攣発作を疑い、服用継続しているフスコデ配合シロップを中止あるいは変更すべきではないかと考えた。
そこで、デイサービスの看護師に確認した。
看護師:「咳がひどく、そこからしゃっくりが止まらなくなったので、ダイアップの処方になりました」
実は、ダイアップ坐剤はしゃっくりが止まらない時に使用するように、処方医から指示されていた。
薬剤師は、前回の処方(フスコデ配合シロップ)と今回の処方箋の指示(ダイアップ坐剤を痙攣時に使用)から、薬剤性痙攣を疑った。ダイアップ坐剤の痙攣時の指示が、適応外使用であるしゃっくりが止まらない時を指しているとは思わなかった。
薬剤師は、処方薬が適応外で処方されている可能性も考慮して、初めての薬剤や追加薬の場合、何のための処方か、患者や介護者へのインタビューなどで詳細に確認していく必要がある。
しゃっくり(吃逆)におけるジアゼパムの有効性について
しゃっくりは致命的な疾患ではないが、症状が続くと夜間の不眠や日常生活にも支障がでることがある。しゃっくりに対する薬物治療として、クロルプロマジン塩酸塩(ウインタミン細粒やコントミン糖衣錠など)、呉茱萸湯(ゴシュユトウ)(コタロー、ジュンコウ、太虎堂のみで、ツムラには適応はない)には保険適応があるが、その他の薬剤は適応外使用となる。
ジアゼパムは難治性吃逆に有効性を示す報告もあるが、鎮静作用による意識低下も起こしやすく、しゃっくりが止まる有効量において起立不能となり、服薬が継続できなかったという報告もある(文献1)。本事例でも、ジアゼパムを用いた場合に鎮静、血圧低下、呼吸抑制などが起きる危険性があり、しゃっくりが無事に止まっても、観察や注意を要すると考えられる。
<文献>
1)東澤知輝,日本ペインクリニック学会誌12(1):21-24,2005.
[国試対策問題]
問題:医薬品の適応外使用に関する以下の記述について、正しいのはどれか。2つ選べ。
1 適用外使用とは、添付文書に記載されている効能・効果、用法・用量の範囲外で使用することである
2 適応外使用の可能性のある医薬品については、その適応外使用の詳細を添付文書に加えなければならない
3 医薬品を適応外使用した場合、いかなる状況においても保険は適用されない
4 医薬品等の副作用によると疑われる健康被害が生じても、ガイドラインに記載されているなど一定のエビデンスに基づき医療現場で広く行われている場合を除き、適応外使用は医薬品副作用被害救済制度の対象外となる
5 十分なエビデンスがあれば、医師の裁量のみで適応外使用できる
【正答】1、4
2 適用外使用とは、添付文書に記載されている効能・効果、用法・用量の範囲外で使用することであり、適用外使用の詳細は添付文書に記載されていない
3 「医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬検討会議」において、薬事承認の申請について公知申請が適当とされたもので、その後、薬事・食品衛生審議会において公知申請の事前評価が終了したものについては、薬事承認上は適応外であっても、保険適用の対象となる
5 適応外使用が必要となった場合には、医療機関の倫理審査委員会で承認され、説明文書などを用いて患者に説明し、同意を得ることが原則である
*本稿では、全国各地において収集したヒヤリ・ハット・ホット事例について、要因を明確化し、詳細に解析した結果を紹介します。事例の素材を提供していただいた全国の薬剤師の皆様に感謝申し上げます。

澤田教授
四半世紀にわたって医療・介護現場へ高感度のアンテナを張り巡らし、薬剤師の活動の中から新しい発見、ヒヤリ・ハット・ホット事例を収集・解析・評価し、薬剤師や医師などの医療者や患者などの医療消費者へ積極的に発信している。最近は、医薬分業(薬の処方と調剤を分離し、それぞれを医師と薬剤師が分担して行うこと)のメリットを全国民に理解してもらうためにはどのような仕組みとコンテンツが必要かや、医療・介護の分野でDXが進む中で薬剤師はどのような役割を果たすべきかなどを、日々考えている。
薬学者。東京大学薬学部卒業。その後、米国国立衛生研究所研究員、東京大学医学部助教授、九州大学大学院薬学研究院教授、東京大学大学院情報学環教授を経て、現在、東京大学大学院薬学系研究科客員教授。更に、NPO法人 医薬品ライフタイムマネジメントセンター理事長・センター長。著書には「ポケット医薬品集2024」(南山堂,2024年)、「処方せんチェック・ヒヤリハット事例解析 第2集」(じほう,2012年)、「ヒヤリハット事例に学ぶ服薬指導のリスクマネジメント」(日経BP社,2011年)、「処方せんチェック虎の巻」(日経BP社,2009年)、「薬学と社会」(じほう,2001年)、「薬を育てる 薬を学ぶ」(東京大学出版会,2007年)など他多数。
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