
ゼロックス療法なのにカペシタビン錠の処方がない!
ゼロックス療法(オキサリプラチン+カペシタビン)を行う患者が提出した処方箋にゼローダ錠<カペシタビン>の記載がなかった。<処方1>の右肩には1/2、<処方2>の右肩には1/1と通し番号が記載されており、通し番号2/2の処方箋がないこと(患者の提出忘れ)に気づかなかった。
<処方1>60歳代の男性。総合病院の消化器外科。処方箋の右肩に1/2
アプレピタントカプセル125mg | 1Cp1日1回本日点滴前1日分 |
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(化学療法開始前に内服院外薬局では調剤しないでください) | |
アプレピタントカプセル60mg | 1Cp1日1回朝食後2日分 |
デカドロン錠4mg | 2錠1日1回朝食後2日分 |
上記、化学療法2日目から内服 |
(次ページへ続く)
<処方2>処方箋の右肩に1/1
ヒルロイドローション0.3% | 100g1日2~3回 |
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手・足に最初に塗る | |
白色ワセリン | 20g |
ザーネ軟膏0.5% | 80g1日2~3回 |
手・足・角質ヒルロイドの後に塗る | |
マイザー軟膏0.05% | 100g1日2~3回 |
炎症がひどく赤くなっている部分に塗る |
(以下余白)
<処方3>処方箋の右肩に2/2
ゼローダ錠300 | 10錠1日2回朝夕食後30日分 |
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(以下余白)
<効能効果>
●ゼローダ錠300<カペシタビン>
○手術不能又は再発乳がん
○結腸・直腸がん
○胃がん
患者が提出した処方箋は2枚であった<処方1、2>。当該病院では、抗がん薬療法を開始する患者のお薬手帳にそのレジメンが貼付されている。お薬手帳を確認したところ、ゼロックス療法のレジメンが貼付されていたが、提出された2枚の処方箋にはカペシタビンの記載がなかった。
患者に確認したところ、点滴前に冊子をもらい、内服薬についても説明を受けたとのことだった。カペシタビン錠の処方がなかったため、病院に問い合わせする旨を患者に話し、病院に電話していたところ、患者が「処方せんを1枚出し忘れていました。」と述べた。その3枚目の処方箋に「カペシタビン錠」の記載があった<処方3>。
複数枚にわたる処方箋の場合、通し番号がある。処方箋が3枚の場合、1/3~3/3と明らかに3枚であることが分かる場合と、1/2~2/2、1/1のように分かれる場合がある。今回は後者であり、<処方1>の右肩には1/2、<処方2>の右肩には1/1と記載されていたが、通し番号2/2の処方箋がないことに気づかなかった。
カペシタビン錠が初めての処方であったこと、<処方1>には「次ページへ続く」、<処方2>には「以下余白」の記載もあり、2枚で完結しているように見えたため、お薬手帳を確認するまでは患者の処方箋の出し忘れに気づかなかった。
今回はお薬手帳にレジメンの記載があったことで、カペシタビン錠の必要性に気づけたが、患者からの聞き取りがうまくいかなかった場合、調剤されない可能性が考えられた。
処方箋の通し番号の確認を行い、薬剤交付の際に患者と相互確認を可能な限り行うようにする。お薬手帳には、調剤過誤を防ぐような情報が記載されている可能性もあるので、必ずチェックするようにする。
レジメンの開示により、これまで聞き取りの難しかったがん化学療法の内容が分かり、支持療法の提案や日常生活のアドバイスなどもしやすくなった。今後は各治療法の詳細や注射剤に関する知識なども深めていく必要がある。
[国試対策問題]
問題:50歳代の男性。心筋梗塞、慢性胃炎のため、以下の処方薬を服用している。大腸がんの摘出手術を受け、明日からXELOX療法(カペシタビン+オキサリプラチン)を実施する予定である。外来化学療法室の薬剤師の対応として適切でないのはどれか。2つ選べ。
(処方)
ワルファリン錠1mg 1回2錠(1日2錠)1日1回朝食後
ファモチジン錠10mg 1回1錠(1日2錠)1日2回朝夕食後
1 ワルファリンによる出血リスクが上昇するので、鼻血やあざなど注意すべき自覚症状について患者に指導する。
2 カペシタビンの血中濃度が低下するので、ファモチジン錠の継続の必要性を医師に確認する。
3 カペシタビンの吸収に影響するので、高脂肪食を避けるよう、患者に指導する。
4 手や足の赤みや腫れなどの発現に注意し、症状が現れたら医師や薬剤師に報告するよう、患者に指導する。
5 手や足の痺れや痛みなどの発現に注意し、症状が現れたら医師や薬剤師に報告するよう、患者に指導する。
【正答】2、3
1 ワルファリンとカペシタビンの併用により、ワルファリンの作用が増強する可能性がある。
2 カペシタビンとファモチジンの相互作用の注意喚起はされていない。胃酸分泌抑制薬との相互作用に注意が必要な抗がん薬としては、チロシンキナーゼ阻害薬などがある。
3 カペシタビンの体内動態に高脂肪食が影響するとの報告はない。
4 カペシタビンの重大な副作用として手足症候群が知られており、その初期症状である。
5 オキサリプラチンの重大な副作用として末梢神経障害が知られており、その初期症状である。
*本稿では、全国各地において収集したヒヤリ・ハット・ホット事例について、要因を明確化し、詳細に解析した結果を紹介します。事例の素材を提供していただいた全国の薬剤師の皆様に感謝申し上げます。

澤田教授
四半世紀にわたって医療・介護現場へ高感度のアンテナを張り巡らし、薬剤師の活動の中から新しい発見、ヒヤリ・ハット・ホット事例を収集・解析・評価し、薬剤師や医師などの医療者や患者などの医療消費者へ積極的に発信している。最近は、医薬分業(薬の処方と調剤を分離し、それぞれを医師と薬剤師が分担して行うこと)のメリットを全国民に理解してもらうためにはどのような仕組みとコンテンツが必要かや、医療・介護の分野でDXが進む中で薬剤師はどのような役割を果たすべきかなどを、日々考えている。
薬学者。東京大学薬学部卒業。その後、米国国立衛生研究所研究員、東京大学医学部助教授、九州大学大学院薬学研究院教授、東京大学大学院情報学環教授を経て、現在、東京大学大学院薬学系研究科客員教授。更に、NPO法人 医薬品ライフタイムマネジメントセンター理事長・センター長。著書には「ポケット医薬品集2024」(南山堂,2024年)、「処方せんチェック・ヒヤリハット事例解析 第2集」(じほう,2012年)、「ヒヤリハット事例に学ぶ服薬指導のリスクマネジメント」(日経BP社,2011年)、「処方せんチェック虎の巻」(日経BP社,2009年)、「薬学と社会」(じほう,2001年)、「薬を育てる 薬を学ぶ」(東京大学出版会,2007年)など他多数。
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