
患者の提出忘れ!処方箋は実は2枚つづりだった!
医師の指示とは異なる部位へ処方薬を塗布してよいか患者から尋ねられたことをきっかけに、2枚つづりの処方箋のうち1枚を患者が提出し忘れていたことが発覚した。処方箋に頁数の記載がないことに起因した事例であったため、薬局から当該医療機関に申し入れを行い、後日、処方箋に頁数が記載されるように改善された。
<処方1>70歳代の女性。A皮膚科クリニック。
【般】ヘパリン類似物質外用液0.3% | 50g頭保湿 |
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※用法記載漏れのため、医師に疑義照会を行い、1日2回と確認済み。
<効能効果>
●ヘパリン類似物質ローション0.3%
血栓性静脈炎(痔核を含む)、血行障害に基づく疼痛と炎症性疾患(注射後の硬結並びに疼痛)、凍瘡、肥厚性瘢痕・ケロイドの治療と予防、進行性指掌角皮症、皮脂欠乏症、外傷(打撲、捻挫、挫傷)後の腫脹・血腫・腱鞘炎・筋肉痛・関節炎、筋性斜頸(乳児期)
使用部位として頭と記載されたヘパリン類似物質外用液0.3%の処方箋を1枚受け付けた<処方1>。
患者から「この薬は体にも塗ってよいよね?」と質問された薬剤師は、数ヵ月前にヘパリン類似物質外用液0.3%を体に使用する指示のある処方箋を調剤した記録が薬歴にあったため、「体に使用しても大きな問題はないでしょう」と医師の指示とは異なる使用を半ば容認するような回答をしてしまった。
服薬指導を終えた薬剤師は、ヘパリン類似物質外用液0.3%の100gを頭と体との広範囲に塗布したら、次回の受診日までに薬が足りなくなるのではという疑問がわいた。処方元の医師は普段から患者の症状や使用部位に応じてきめ細やかに処方を行う医師であり、体用の薬が処方されていない状況に違和感を覚えた。
そこでやっと薬剤師は、発行された処方箋は実はもう1枚あるのではないかと思い至った。薬剤師が帰ろうとしていた患者を呼び止めて確認したところ、患者の鞄の中からもう1枚の処方箋が出てきた。この処方箋が2枚つづりのうちの1枚目であり、先程調剤した<処方1>は2枚つづりの2枚目であった。
調剤をし直し、正しい薬を患者に交付した。1枚目の処方箋に体に塗布すべきヘパリン類似物質外用液0.3%も記載されていた。
A皮膚科クリニックの処方箋には、頁数を示す記載がなかった。そのため、2枚目の処方箋だけからは、複数枚つづりの一部であることが分からなかった。ただし、A皮膚科クリニックの処方箋には、二次元コードが印字されている。最初に患者が提出した<処方1>には二次元コードが印字されておらず、そのことから処方箋が複数枚あることに気づけたはずである。
なお、当該薬局では処方箋のレセプトコンピュータ入力に際し、処方箋の二次元コードを利用していなかった。理由は、近隣医療機関での処方箋への二次元コード印字普及率が低い上、唯一二次元コード印字のあるA皮膚科クリニックの処方箋は、レセプトコンピュータの互換性の問題からか、二次元コードで読み取った情報が薬袋に反映された時に患者に分かりにくい表記になってしまうことなどから利用を敬遠していた。普段から二次元コードを利用していれば、二次元コードの処方箋情報から処方箋全部が揃っていないことに気づけたはずである。
当該薬局では過去にも複数回、同様の事例を別の薬剤師が経験していたが、局内で情報共有したのみで、その問題点を当該医療機関へ報告せず、放置していた。
後から患者の鞄から出てきた処方箋を確認したところ、医師の押印が漏れていた。朱色の押印がなかったため、患者は診療明細書だと思い、薬局に提出しなかったとのことであった。
当該医療機関からの処方箋には頁数を示す記載(例:1/2、2/2など)がないために起こった事例である。薬局から医療機関に申し入れを行い、処方箋に頁数を記載するようにレセプトコンピュータの設定を変更してもらった。
処方箋の問題点を把握した早い段階で医療機関に報告すべきであった。処方医は、薬局がそのようなことで困っていて、患者に薬を渡しそびれる事例が発生しているとは思っていなかった。また、処方箋に二次元コードを印字し処方箋情報をデータ化しているのに、それを利用していない薬局が存在するとは思っていなかったとのことであった。
医療安全の観点から、現場の薬剤師が経営陣に強く訴え、当該薬局は二次元コードを利用できる高機能なレセプトコンピュータへの入れ替えを行うことになった。
厚生労働省の内服薬処方せんの記載方法の在り方に関する検討会から、将来の処方箋記載例が提示されている1)。
内用薬(散剤)の場合の例を以下に示す。
<現状>
テグレトール細粒50%1日1.6g
分2朝夕食後14日分
<移行期間>
テグレトール細粒50%1回0.8g(1日1.6g)
1日2回朝夕食後14日分
または
カルバマゼピン(散剤)1回400mg(1日800mg)【原薬量】
1日2回朝夕食後14日分
<在るべき姿>
テグレトール細粒50%1回0.8g
1日2回朝夕食後14日分
[引用文献]
1)厚生労働省、内服薬処方せんの記載方法の在り方に関する検討会報告書
https://www.mhlw.go.jp/shingi/2010/01/s0129-4.html
[国試対策問題]
問題:患者が持参した処方箋を確認した薬剤師は、処方箋に不備があるため調剤できないと判断した。その理由として、誤っているのはどれか。1つ選べ。
1 「処方箋の使用期間」欄に記載がない。
2 軟膏剤が処方されているが、塗布部位や1日の塗布回数の記載がない。
3 処方日数が訂正されているが、訂正印の押印がない。
4 「処方」欄に「以下余白」の記載がない。
5 「変更不可」欄に「×」が記載されているが、医師の署名がない。
【正答】1
1 交付の日を含めて4日以内の場合は、「処方箋の使用期間」欄の記載は必要ないため、記載がないこと自体は不備ではない。この場合、患者が提出したのが交付日から4日を超えていれば、処方箋は無効である。
*本稿では、全国各地において収集したヒヤリ・ハット・ホット事例について、要因を明確化し、詳細に解析した結果を紹介します。事例の素材を提供していただいた全国の薬剤師の皆様に感謝申し上げます。

澤田教授
四半世紀にわたって医療・介護現場へ高感度のアンテナを張り巡らし、薬剤師の活動の中から新しい発見、ヒヤリ・ハット・ホット事例を収集・解析・評価し、薬剤師や医師などの医療者や患者などの医療消費者へ積極的に発信している。最近は、医薬分業(薬の処方と調剤を分離し、それぞれを医師と薬剤師が分担して行うこと)のメリットを全国民に理解してもらうためにはどのような仕組みとコンテンツが必要かや、医療・介護の分野でDXが進む中で薬剤師はどのような役割を果たすべきかなどを、日々考えている。
薬学者。東京大学薬学部卒業。その後、米国国立衛生研究所研究員、東京大学医学部助教授、九州大学大学院薬学研究院教授、東京大学大学院情報学環教授を経て、現在、東京大学大学院薬学系研究科客員教授。更に、NPO法人 医薬品ライフタイムマネジメントセンター理事長・センター長。著書には「ポケット医薬品集2024」(南山堂,2024年)、「処方せんチェック・ヒヤリハット事例解析 第2集」(じほう,2012年)、「ヒヤリハット事例に学ぶ服薬指導のリスクマネジメント」(日経BP社,2011年)、「処方せんチェック虎の巻」(日経BP社,2009年)、「薬学と社会」(じほう,2001年)、「薬を育てる 薬を学ぶ」(東京大学出版会,2007年)など他多数。
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