Prof.Sawadaの薬剤師ヒヤリ・ハット・ホット
事例234

たった一つの食前服用薬の追加で処方・服薬介助が混乱

ヒヤリした!ハットした!

介護施設に入所している患者にグーフィス錠<エロビキシバット>が夕食後で処方されたため、疑義照会して夕食前に変更となった。後日、服用薬剤が多い上に、服用タイミングも多岐(朝食後、朝食2時間後、昼食後、夕食前、夕食後、就寝前)にわたり、服薬させる介護スタッフの負担になっていたことが発覚した。食前服用のグーフィス錠が1剤加わるだけで、医師の処方作成、介護・看護スタッフの服薬介助に混乱が生じてしまった。

<処方1>70歳代の女性。総合病院の血液内科。

シクロスポリンCap50mg 4Cap1日2回朝夕食後
シクロスポリンCap25mg 2Cap1日2回朝夕食後
デフェラシロクス顆粒分包360mg 2包1日1回朝食後
イトラコナゾールCap50mg 4Cap1日1回朝食直後
レボフロキサシン錠250mg 1錠1日1回朝食2時間後
バラシクロビル粒状錠500mg 1包1日1回朝食後
アルファカルシドールCap0.5μg 1Cap1日1回朝食後
フロセミド錠40mg 1錠1日1回朝食後
トアラセット配合錠 4錠1日4回毎食後・就寝前
ソリフェナシンコハク酸塩OD錠5mg 1錠1日1回夕食後
ランソプラゾールOD錠15mg 1錠1日1回夕食後
アミティーザCap24μg 2Cap1日2回朝夕食後
グーフィス錠5mg 1錠1日1回夕食後
酸化マグネシウム錠250mg 6錠1日3回毎食後
リスペリドンOD錠1mg 2錠1日2回夕食後・就寝前

<効能効果>

●グーフィス錠<エロビキシバット>
慢性便秘症(器質的疾患による便秘を除く)

どうした?どうなった?

患者は再生不良性貧血で、総合病院の血液内科に継続受診していた。半年前に転倒して大腿骨骨折のため同病院に入院し、リハビリ病院を経て、特別養護老人ホーム(特養)に入所した。今回、定期的な輸血のために総合病院の血液内科に受診し、久しぶりに処方箋が発行されて来局した。
薬剤師Aは当患者のかかりつけ薬剤師であり、特養に入居中ということは認識していた。処方箋をチェック中に、半年前には処方されていなかった「グーフィス錠5mg」の用法が夕食後になっていることに気づき、患者家族に追加になった時期を質問したが、リハビリ病院時代のお薬手帳を紛失し、分からないとの返答だった。
グーフィス錠を夕食前に変更し、夕食後のほかの薬剤も夕食前への変更を提案する疑義照会をしたところ、シクロスポリンは不可だが、その他は構わないと了承を得た。また、患者家族から特養の担当者の連絡先を聞き、服薬状況を確認していくこととした。
患者家族に薬剤を交付後、施設の看護師に連絡を行った。

看護師:「特にグーフィス錠5mgだけ食前にしても構わない。服用時点は食前があっても大丈夫です」

後日、特養と契約している他薬局の薬剤師Bから、相談の電話があった。

薬剤師B:「施設業務の利便性からグーフィス錠5mgを食後に服用させたい」
薬剤師A:「薬効的には食前でお願いしたい」

2週間後、患者家族が来局し、施設看護師より、処方医と薬局に手紙をあずかってきたと渡された。

施設看護師から処方医へ
(1)下肢のむくみが強いが、水分量の見直しが必要か?
(2)下剤を服用しているが腹圧をかけられず、摘便しても水様便の排泄となっている。浣腸を処方してほしい。

施設看護師から薬局へ
(1)一包化以外の薬はステープラ留めにしてほしい。
(2)酸化マグネシウム錠250mgも一包化にしてほしい。

薬剤師は、患者家族にグーフィス錠を服用していても排便の状況が変わらないのであれば、処方医に処方削除を相談してみてほしいと話した。2週間後に受診予定であったため、相互作用を避け、排便の状況に合わせて調節できるように、処方医にトレースレポートを提出した。
後日、施設に電話して服用状況を確認したところ、施設ケアマネジャーから「シクロスポリンは一包化にできませんか?薬が多すぎて大変です」と尋ねられ、「シクロスポリンは大事な薬で、一包化にできないタイプの薬ですので、申し訳ないですが、一個一個確認しながらしっかり飲ませてください」 と返答した。

なぜ?

グーフィス錠は消化管の胆汁酸トランスポーターを阻害することで薬効を発揮するため、食事によって胆汁酸が分泌される前に服用する必要があり、食前服用とされている。疑義照会して夕食前へ変更となったため、服用タイミングが増えないように、その他の薬剤も夕食前への変更を提案したが、シクロスポリンは変更の了承が得られず、結果として服用タイミングが増えてしまった。
薬剤師Aは、施設看護師から食前服用の薬があっても大丈夫と回答を得ていたことから、問題ないと考えていた。しかし、特養と契約している他薬局の薬剤師Bからグーフィス錠を食後に服用させたいと問い合わせがあった(グーフィス錠が食前服用である理由を認識していたかどうかは不明である)ことや、施設ケアマネジャーから薬が多すぎて大変とのコメントがあったことから、施設スタッフの負担になっていた可能性がある。
他薬局の薬剤師は施設スタッフの負担を考慮して上記のような問い合わせを行ってきた可能性(ただし、薬剤師として正しい行動とは言えない)や、医師も服用タイミングを増やさないように夕食後で処方した可能性がある。服用タイミングを合わせられないことが判明した時点で、食後服用の別の便秘薬を提案すべきだったかもしれない。

ホットした!

高齢化に伴い介護施設の利用者は増加しているが、介護側の慢性的な人手不足も言われており、介護側の負担にならないような服薬設計も必要である。
高齢者にとって排便コントロールは重要な問題である。さまざまなメカニズムの便秘薬が新薬として登場しており、個々の患者の状況に応じた薬剤選択肢を医師に提案できるようにしておく。

もう一言

慢性便秘症の治療薬について以下にまとめる1)2)3)

*酸化マグネシウム:
比較的安全な薬剤であるが、腎機能低下例や長期高用量服用例のみならず、まれには腎機能正常例でも高マグネシウム血症を合併する危険性があるため、長期服用時には3~6ヵ月間隔での血液検査による血清マグネシウム濃度のモニターが望ましい。マグミットは口腔内で崩壊しやすい。

*ルビプロストン(アミティーザ):
上皮機能変容薬と呼ばれ、小腸粘膜のタイプ2クロライドチャネル活性化による塩素イオンの腸管内への能動輸送に伴って、小腸で水分分泌を促進して軟便化や排便回数を増加する非刺激性下剤である。カプセル製剤で1日最大用量が2カプセルのため、酸化マグネシウムのように微調節して使用することは困難である。施設看護師からおしりを拭いてもねっとりしていて排便後の扱いが困難との声もある。含量低下の報告があり長期の一包化には向いていない。

*リナクロチド(リンゼス):
ルビプロストンと同様に上皮機能変容薬であり、腸粘膜上皮のグアニル酸シクラーゼC受容体活性化による塩素イオンと重炭酸イオンの腸管内への能動輸送に伴って、小腸で水分分泌を促進して軟便化や排便回数を増加する非刺激性下剤である。用法は食前投与とされているが、下痢の有害事象を避けるためであり、排便回数の増加や軟便化といった下剤としての効果を期待する場合は、むしろ食後投与にした方が、効果が高い可能性がある。

*エロビキシバット(グーフィス):
食前服用で、施設スタッフには使用しにくい。食後投与での排便効果の試験は行われていないので不明だが、薬効的には食前服用が望ましい。

*センノシドなどの刺激性下剤:
上記の非刺激性下剤が適量に達するまでのレスキューとしてのみ使用する。

[引用文献]
1)味村俊樹.慢性便秘症の診断と治療.健栄製薬株式会社.
https://www.kenei-pharm.com/cms/wp-content/uploads/2018/04/shoudokukannrenn_05.pdf
2)味村俊樹ら.慢性便秘症の診断と治療.日本大腸肛門病会誌.72:583-599,2019
3)日本消化器病学会.慢性便秘症診療ガイドライン2017.南江堂.

[国試対策問題]

問題:便秘症治療薬に関する次の記述のうち、正しいのはどれか。2つ選べ。

1 酸化マグネシウムは、腸内で難吸収性の塩となり、浸透圧維持のため腸壁から水分を奪い腸管内容物を軟化する。
2 カルメロースナトリウムは、腸内で水分を吸収、膨張してゲル状となり、便塊の容積を増大し、腸壁を物理的に刺激して排便を促す。
3 エロビキシバットは、小腸上皮のクロライドチャネルを活性化し、腸管内への水分分泌を促進して便を軟らかくする。
4 リナクロチドは、回腸上皮の胆汁酸トランスポーターを阻害し、大腸内の胆汁酸の量を増加させることで水分および電解質を分泌させ、消化管運動を亢進させる。
5 ルビプロストンは、腸管のグアニル酸シクラーゼC受容体を活性化することにより、腸管分泌促進作用、小腸輸送能促進作用を示す。

【正答】1、2
3はルビプロストン、4はエロビキシバット、5はリナクロチドの説明である。
3 ルビプロストンは、小腸上皮のクロライドチャネルを活性化し、腸管内への水分分泌を促進して便を軟らかくする。
4 エロビキシバットは、回腸上皮の胆汁酸トランスポーターを阻害し、大腸内の胆汁酸の量を増加させることで水分および電解質を分泌させ、消化管運動を亢進させる。
5 リナクロチドは、腸管のグアニル酸シクラーゼC受容体を活性化することにより、腸管分泌促進作用、小腸輸送能促進作用を示す。

*本稿では、全国各地において収集したヒヤリ・ハット・ホット事例について、要因を明確化し、詳細に解析した結果を紹介します。事例の素材を提供していただいた全国の薬剤師の皆様に感謝申し上げます。

澤田教授

澤田教授
四半世紀にわたって医療・介護現場へ高感度のアンテナを張り巡らし、薬剤師の活動の中から新しい発見、ヒヤリ・ハット・ホット事例を収集・解析・評価し、薬剤師や医師などの医療者や患者などの医療消費者へ積極的に発信している。最近は、医薬分業(薬の処方と調剤を分離し、それぞれを医師と薬剤師が分担して行うこと)のメリットを全国民に理解してもらうためにはどのような仕組みとコンテンツが必要かや、医療・介護の分野でDXが進む中で薬剤師はどのような役割を果たすべきかなどを、日々考えている。

薬学者。東京大学薬学部卒業。その後、米国国立衛生研究所研究員、東京大学医学部助教授、九州大学大学院薬学研究院教授、東京大学大学院情報学環教授を経て、現在、東京大学大学院薬学系研究科客員教授。更に、NPO法人 医薬品ライフタイムマネジメントセンター理事長・センター長。著書には「ポケット医薬品集2024」(南山堂,2024年)、「処方せんチェック・ヒヤリハット事例解析 第2集」(じほう,2012年)、「ヒヤリハット事例に学ぶ服薬指導のリスクマネジメント」(日経BP社,2011年)、「処方せんチェック虎の巻」(日経BP社,2009年)、「薬学と社会」(じほう,2001年)、「薬を育てる 薬を学ぶ」(東京大学出版会,2007年)など他多数。

記事作成日:2025年5月20日

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