
ニトロダームTTS、ライナーのほうを胸に貼付していた家族
ニトロダームTTS<ニトログリセリン>が初めて処方された患者の家族(娘)に対する服薬指導が不適切であったため、娘はニトロダームTTSのライナー(使用時に剥離する塩化ビニルフィルム)を薬と間違えて患者の胸に貼付してしまった。その後、娘は、薬剤師に「説明書をよく見てから使ってください」と何度も念押しされたことを思い出し、患者用説明書をじっくり見たところ誤使用に気がつき、適正に薬剤を貼り直した。
<処方1>80歳代の女性。内科クリニック、日曜診療。
レニベース錠5 | 1錠1日1回朝食後4日分 |
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ユニフィルLA錠400mg | 1錠1日1回朝食後4日分 |
ニトロダームTTS25mg | 4枚1日1回1枚胸部に貼付 |
<効能効果>
●ニトロダームTTS25mg<ニトログリセリン>
狭心症
患者は急な呼吸苦で日曜診療を行っていた内科クリニックを受診し、急性心不全と診断され、患者の娘が薬局へ薬を受け取りに来た。
患者は不在だったため、娘に対して、製薬企業作成のニトロダームTTSの患者用説明書を見せて服薬指導を行った。一般的な湿布等とは異なり、ニトロダームTTSは薬物貯蔵層に有効成分を封入したリザーバー製剤であるため、厚みがあるほうが薬であることを伝えようと、以下の様に指導した。
薬剤師:「シール(ライナー)を剥がすと、白くてむにゅむにゅしているものが見えます。それが薬です。胸に貼ってください」
帰宅後、娘は、ニトロダームTTSのライナーのほうを患者の胸に貼付してしまった。薬からライナーを剥離した際、ライナーに粘着剤の糊残りが僅かにあり(糊が残存していた原因や、現在の製剤でも起こるかどうかは不明である)、患者が寝たきりであったため、ライナーが体から脱落することはなく、娘は不審に思わなかった。
ほどなくして、娘は、薬剤師に「説明書をよく見てから使ってください」と何度も念押しされたことを思い出し、患者用説明書をじっくり見たところ誤使用に気がつき、適正に薬剤を貼り直した。
翌日、娘が来局し、この顛末を話したため、薬剤師は自らの不適切な服薬指導により誤使用を招いたことをお詫びした。娘も自分の思い違いであったことを反省していた。
患者の娘は、薬剤師が「白くて…」と言った部分のみが印象に残り、白色のライナーを薬と思い込んでしまったと考えられる。
薬剤師はこれまで、ニトロダームTTSの服薬指導時には、内袋を開封して薬の実物を見せたり、希望する患者には実際に患者の胸に薬を貼付したりする方法で服薬指導を行ってきた。今回は患者が不在であり、添付文書に開封後はなるべく速やかに使用することとあるために、開封を行わなかった。
娘の受け答えから理解力のありそうな人物と判断し、薬を見せることをしなかった上に、リザーバー製剤であることの説明が不適切で、誤使用を招いたと思われる。
貼付剤は、医療用医薬品だけでなく、一般用医薬品においてもよく使用される剤形であり、患者や家族は使用に慣れていると思い込んで、服薬指導が十分に行われないことが少なくない。鎮痛薬のテープ製剤やパップ製剤などについては、比較的理解されているが、今回のニトロダームTTSのように支持体、薬物貯蔵層、放出制御膜、粘着剤、ライナーの5層よりなる複雑な構造の製剤については理解できていない可能性がある。
従って、事前に構造と適正な使用方法などを分かりやすく説明しておく必要があるだろう。
ニトロダームTTS25mgが関係したほかのヒヤリハット事例を以下に示す1)。
ニトロダームTTSの「1日1回貼り替え」を「1日2回貼付」と解釈した患者
<処方1>80歳代の男性。病院の内科。
ニトロダームTTS25mg | 1枚1日1回貼付14日分 |
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患者は、ニトロダームTTSの薬袋に印字された「1日1回貼り替え」の指示を見て、ニトロダームTTSを1日2回貼付していた(朝に貼ることは当たり前と考え、「1日1回貼り替え」を「朝に貼付したほかに1日1回貼り替える」と解釈してしまっていた)。
処方箋に貼り替える時間帯が指示されていなかったので、投薬した薬剤師が「1日1回、同じくらいの時間に貼り替えるのだが、いつがよいか」と聞いたところ、患者は「朝なら忘れずに貼ることができそうだ」と答えたので、「1日1回、朝に貼り替えましょう」と説明した。ニトロダームTTSの薬袋と薬剤情報提供文書には、「1日1回貼り替え」と用法が印字されていた。
患者は1週間後に再受診し、再度ニトロダームTTSが8日分処方された。前回14日分処方されていたため、まだ1週間分の残りがあるはずだと患者に確認したところ、もうなくなったとのことだった。詳しい使用状況を聞いてみると、上記の誤用が発覚した。患者は「1日1回貼り替えと薬袋に書いてあったから、朝と夜に貼り替えていた。朝に貼るのは当たり前だから、1日1回貼り替えるっていうのは、朝のほかにもう1回貼り替えるということだろう。薬袋の書き方が悪い!」と述べた。幸い、患者には有害事象は起きていなかった。
患者へは、説明が不足していたことを謝罪するとともに、投薬時に「1日1回、朝だけ1枚貼ること、貼った後は翌朝まで、そのまま貼り替えなくてよい」と念押しして説明して、再度ニトロダームTTSを交付した。
患者は高齢であり、以前にも別の薬で誤服用したとのことであったため、慎重に説明したつもりだった。しかし、患者が朝に貼ることは当たり前なので、「1日1回貼り替え」を「朝に貼付したほかに1日1回貼り替える」と解釈することは予測できず、また、このような勘違いを招きやすい表現であることに気付かなかった。
「1日○回貼付」という用法を「1日○回貼り替え」と表現すると、今回のような誤った解釈を生む可能性があることが分かった。貼付剤の使用法説明時には、このことを十分認識して、より一層注意深く説明に当たる必要がある。表現に十分注意して、患者の理解と食い違いが生じていないかに細心の注意を払う必要がある。実際に貼り替える時間帯も具体的に指示・確認すべきである。
[引用文献]
1)NPO法人・医薬品ライフタイムマネジメントセンター(理事長・センター長澤田康文)が運営する薬剤師間情報交換・研修システム「アイフィス」で紹介されている事例を一部改変したものです。
[国試対策問題]
問題:日本において用いられている医療用医薬品の放出制御型製剤に関して、有効成分と放出制御機構の組み合わせとして誤っているのはどれか。2つ選べ。
有効成分-放出制御機構
1 硫酸鉄-グラデュメット型
2 リスペリドン-浸透圧ポンプ型
3 パリペリドン-生分解性マイクロカプセル
4 オキシブチニン塩酸塩-マトリックス型
5 ニトログリセリン-リザーバー型
【正答】2、3
2、3:パリペリドンの浸透圧ポンプ型製剤がインヴェガ錠、リスペリドンの生分解性マイクロカプセル製剤がリスパダールコンスタ筋注用である。
1はフェロ・グラデュメット錠、4はネオキシテープ、5はニトロダームTTSである。
*本稿では、全国各地において収集したヒヤリ・ハット・ホット事例について、要因を明確化し、詳細に解析した結果を紹介します。事例の素材を提供していただいた全国の薬剤師の皆様に感謝申し上げます。

澤田教授
四半世紀にわたって医療・介護現場へ高感度のアンテナを張り巡らし、薬剤師の活動の中から新しい発見、ヒヤリ・ハット・ホット事例を収集・解析・評価し、薬剤師や医師などの医療者や患者などの医療消費者へ積極的に発信している。最近は、医薬分業(薬の処方と調剤を分離し、それぞれを医師と薬剤師が分担して行うこと)のメリットを全国民に理解してもらうためにはどのような仕組みとコンテンツが必要かや、医療・介護の分野でDXが進む中で薬剤師はどのような役割を果たすべきかなどを、日々考えている。
薬学者。東京大学薬学部卒業。その後、米国国立衛生研究所研究員、東京大学医学部助教授、九州大学大学院薬学研究院教授、東京大学大学院情報学環教授を経て、現在、東京大学大学院薬学系研究科客員教授。更に、NPO法人 医薬品ライフタイムマネジメントセンター理事長・センター長。著書には「ポケット医薬品集2024」(南山堂,2024年)、「処方せんチェック・ヒヤリハット事例解析 第2集」(じほう,2012年)、「ヒヤリハット事例に学ぶ服薬指導のリスクマネジメント」(日経BP社,2011年)、「処方せんチェック虎の巻」(日経BP社,2009年)、「薬学と社会」(じほう,2001年)、「薬を育てる 薬を学ぶ」(東京大学出版会,2007年)など他多数。
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