
一包化薬から1剤だけ抜く変則的な調剤で患者が混乱?!
患者は大腸内視鏡検査を受けるために休薬する必要があり、プラビックス錠<クロピドグレル硫酸塩>を別包とし、他剤の一包化薬に服薬する日の分だけテープでつける方法で調剤していた。しかし、患者は一包化薬をバラバラにして管理していたため、どれを中止したら良いのか分からず、休薬すべき日まで服用してしまった。薬剤師から患者への説明不足(服用日の記載が小さく見えにくかったことも原因の一つ)と、変則的な調剤を行ったことが原因と考えられた。
<処方1>70歳の男性、病院の循環器内科。
パリエット錠10mg | 1錠 1日1回 朝食後 91日分 |
---|---|
クレストール錠2.5mg | 1錠 1日1回 朝食後 91日分 |
アジルバ錠40mg | 1錠 1日1回 朝食後 91日分 |
アーチスト錠2.5mg | 2錠 1日2回 朝夕食後 91日分 |
プラビックス錠75mg | 1錠 1日1回 朝食後 84日分 |
<処方2>同病院の総合診療科。
【般】グリメピリド錠0.5mg | 0.5錠 1日1回 朝食後 56日分 |
---|---|
エクメット配合錠HD | 2錠 1日2回 朝夕食後 56日分 |
スーグラ錠50mg | 1錠 1日1回 朝食後 56日分 |
【般】カンデサルタン錠4mg | 1錠 1日1回 朝食後 56日分 |
<効能効果>
●プラビックス錠25mg・75mg<クロピドグレル硫酸塩>
○虚血性脳血管障害(心原性脳塞栓症を除く)後の再発抑制
○経皮的冠動脈形成術(PCI)が適用される下記の虚血性心疾患
急性冠症候群(不安定狭心症、非ST上昇心筋梗塞、ST上昇心筋梗塞)
安定狭心症、陳旧性心筋梗塞
○末梢動脈疾患における血栓・塞栓形成の抑制
患者は病院の循環器内科と総合診療科に通院している。以前より薬の管理に不安があり、残薬を預かって2科を一緒に一包化するなど、患者が安全に安心して服用できるよう工夫していた。
今回、翌々月9日に入院して大腸内視鏡検査を実施するため、プラビックス錠は翌々月2日から8日まで休薬するよう医師から指示があった。また、再開日は入院時に調整するとのことだった。
服用の再開時期が未定であるため、プラビックス錠だけ別包にし、他の一包化調剤した包に服用すべき日の分だけテープで貼り付けた。具体的には、翌々月1日の分までプラビックス錠を貼り付け、検査前の翌々月2日から8日まではプラビックス錠は貼り付けなかった。9日以降の一包化薬については、入院時の指示に従うように患者に指導し、残りのプラビックス錠は別にして交付した。患者には一包化調剤した薬は日付通りに服用するように指導した。
翌々月6日に、検査当日(9日)の朝はエクメット、グリメピリド、スーグラを中止するよう指示されたが、一包化された薬剤のなかのどれを中止したらよいのか分からないと来局した。患者は、1包ずつバラバラにした薬を持参しており、バラバラにして保管していた理由を尋ねた。
患者:「字も小さくて日付が入っているとは思わなかった。すぐに服用できるように、バラバラにして保管していた」
これまでの服用状況を詳しく確認すると、プラビックス錠を前日5日(2日から8日までは休薬のはずである)まで服用していたことが判明した。担当医師に状況を報告したところ、大腸内視鏡検査は急がないので、3日後の検査は中止し、改めて検査の予約をすることになった。
その後、検査日が決まり、プラビックス錠は入院7日前から休薬、再開日は検査翌日と医師に確認し、一包化調剤を行った。今回は、プラビックス錠を別包にせず、プラビックス錠が入ってない一包化薬にはペンで線を引いて交付した。
薬剤師:「ペンで線を引いた一包化薬にはプラビックス錠は入っていないので、入院7日前から服薬するようにしてください」
その後、患者は予定通り検査をすることができた。
患者は長年来局している顔なじみであり、いつも話しかけに対して「はいはい」と返事をするので、薬剤師は今までと同じように服用できると信じて疑わなかった。理解度の低下に合わせた調剤、指導ができていなかったことが問題である。
薬剤師は、患者のコンプライアンス向上を期待して、下記の(1)の様な一包化調剤(服用日の印字、他薬の別包にテープで貼り付け)を行ったが、患者の理解が曖昧であったことを確認できていなかった。特に、当薬局の一包化分包機は日付の文字が小さかったため、高齢の患者は見にくかった可能性がある。
<(1)今回の調剤方法>
翌々月1日まで:別包のプラビックス錠を他剤の一包化薬にテープで貼り付け
2日∼8日:プラビックス錠を抜いた一包化薬
9日(検査当日)以降:別包のプラビックス錠と他剤の一包化薬
プラビックス錠などの抗血小板薬を休薬する場合には、患者が理解しやすい言葉でなぜ休薬する必要があるのか説明する指導箋を作るとともに、中止する時期、再開する時期などに応じて調剤を工夫するとともに、交付後にも電話フォローアップする必要があると考えられる。
一包化調剤された分包紙への日付、用法などの印字は可能な限り大きくし、特に注意すべき項目については目立つようにマークする。
一包化薬からある期間だけ抜く薬剤が有る場合、上記(1)の様な方法以外に、以下の方法(2)も考えるべきであった。
<(2)別の調剤方法>
翌々月1日まで:通常通りプラビックス錠を含む一包化薬
2日∼8日:プラビックス錠を抜いた一包化薬
この場合、一方にはペンで印をつけたり、両方に色を変えた印をつけるなどしてしっかりと区別する。
消化管内視鏡検査・治療における抗血小板薬・抗凝固薬の休薬[文献1]
消化器内視鏡による観察、生検、出血リスクの低い処置においては、抗血栓薬休薬による血栓塞栓症発症のリスクを回避するために、休薬しないことが原則である。消化管ポリープの切除など消化管内視鏡による出血リスクの高い処置において、主な抗凝固薬・抗血小板薬の休薬期間について以下の表にまとめる。
表.消化管内視鏡による出血リスクの高い処置における主な抗凝固薬・抗血小板薬の休薬期間と再開時期
分類 | 一般名 | 主な商品名 | 休薬期間 |
---|---|---|---|
抗凝固薬 | ワルファリン | ワーファリン | PT-INRが治療域なら継続、またはDOACへ一時的変更 |
ダビガトラン | プラザキサ | 当日のみ | |
エドキサバン | リクシアナ | ||
リバーロキサバン | イグザレルト | ||
アビキサバン | エリキュース | ||
抗血小板薬 | アスピリン | バイアスピリン | 血栓塞栓症リスク低:3∼5日間 血栓塞栓症リスク高:休薬なし |
アスピリン・ランソプラゾール | タケルダ | ||
アスピリン・ダイアルミネート | バファリン | ||
チクロピジン | パナルジン | 5∼7日間 血栓塞栓症リスク高:アスピリン/シロスタゾールへの置換も考慮 |
|
クロピドグレル | プラビックス | ||
プラスグレル | エフィエント | ||
アスピリン・クロピドグレル | コンビプラン | 抗血小板薬の休薬が可能となるまで内視鏡を延期※ | |
シロスタゾール | プレタール |
血栓塞栓症リスク低:1日間 血栓塞栓症リスク高:休薬なし |
※内視鏡の延期ができない場合には、アスピリン(またはシロスタゾール)の単独投与とし、クロピドグレルは5∼7日間休薬する。
(文献1、2を基に筆者作成)
[参考文献]
1.藤本一眞ら,抗血栓薬服用者に対する消化器内視鏡診療ガイドライン,日本消化器内視鏡学会雑誌,54(7)
:2075-2102,2012.
2.加藤元嗣ら,抗血栓薬服用者に対する消化器内視鏡診療ガイドライン,直接経口抗凝固薬(DOAC)を含めた抗凝固薬に関する追補2017,日本消化器内視鏡学会雑誌,59(7):1547-1558,2017.
[国試対策問題]
問題:60歳代の男性。非弁膜症性心房細動のためリクシアナ錠(エドキサバン)を服用している。会社の健康診断で消化管ポリープが発見されたため消化器内科を受診したところ、内視鏡によるポリープ切除を行うことになった。
消化器内科の担当医より、内視鏡前のリクシアナの休薬期間とその代替薬について薬剤師に質問があった。以下の組み合わせのうち、最も適切なのはどれか。1つ選べ。
術前休薬期間-代替薬
1 なし-なし
2 当日-なし
3 当日-シロスタゾール
4 当日-ヘパリン
5 4日-シロスタゾール
6 4日-ヘパリン
【正答】2
2 上記の表のとおり。ガイドライン(文献2)では、「出血高危険度の消化器内視鏡において、DOAC服用者は前日まで内服を継続し、処置当日の朝から内服を中止する。内服は翌日の朝から再開する。」とされている。
*本稿では、全国各地において収集したヒヤリ・ハット・ホット事例について、要因を明確化し、詳細に解析した結果を紹介します。事例の素材を提供していただいた全国の薬剤師の皆様に感謝申し上げます。

澤田教授
四半世紀にわたって医療・介護現場へ高感度のアンテナを張り巡らし、薬剤師の活動の中から新しい発見、ヒヤリ・ハット・ホット事例を収集・解析・評価し、薬剤師や医師などの医療者や患者などの医療消費者へ積極的に発信している。最近は、医薬分業(薬の処方と調剤を分離し、それぞれを医師と薬剤師が分担して行うこと)のメリットを全国民に理解してもらうためにはどのような仕組みとコンテンツが必要かや、医療・介護の分野でDXが進む中で薬剤師はどのような役割を果たすべきかなどを、日々考えている。
薬学者。東京大学薬学部卒業。その後、米国国立衛生研究所研究員、東京大学医学部助教授、九州大学大学院薬学研究院教授、東京大学大学院情報学環教授を経て、現在、東京大学大学院薬学系研究科客員教授。更に、NPO法人 医薬品ライフタイムマネジメントセンター理事長・センター長。著書には「ポケット医薬品集2024」(南山堂,2024年)、「処方せんチェック・ヒヤリハット事例解析 第2集」(じほう,2012年)、「ヒヤリハット事例に学ぶ服薬指導のリスクマネジメント」(日経BP社,2011年)、「処方せんチェック虎の巻」(日経BP社,2009年)、「薬学と社会」(じほう,2001年)、「薬を育てる 薬を学ぶ」(東京大学出版会,2007年)など他多数。
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