Prof.Sawadaの薬剤師ヒヤリ・ハット・ホット
事例230

20年以上来局している患者の色覚異常を把握していなかった

ヒヤリした!ハットした!

患者は長期にわたって当薬局を利用していた。ある時、患者からアダラートCR錠40mgが足りないと電話連絡があった。患者に詳細を確認したところ、色覚異常のためPTPシートの色の区別がついていなかったことが判明した。その後、患者宅を訪問し、服用の仕方、薬の管理の仕方などを詳細に聴取し、このままPTPシートで調剤し投薬することが最適であるとの結論に至った。

<処方1>70歳の男性。病院の循環器科内科。

バルサルタン錠80mg 1錠 1日1回 朝食後 35日分
アロプリノール錠50mg 1錠 1日1回 朝食後 35日分
イグザレルト錠15mg 1錠 1日1回 朝食後 35日分
アダラートCR錠40mg 1錠 1日1回 朝食後 35日分
ベラパミル塩酸塩錠40mg 2錠 1日2回 朝・夕食後 35日分

※ほかに同院の呼吸器内科から内服薬8剤、吸入薬2剤、精神科から内服薬5剤、糖尿病内分泌科から内服薬1剤が処方されている。

<効能効果>

●アダラートCR錠10mg・20mg・40mg<ニフェジピン>
*高血圧症、腎実質性高血圧症、腎血管性高血圧症
*狭心症、異型狭心症

どうした?どうなった?

20年ほど前から当薬局にて投薬を受けていた患者である。ある時、患者からアダラートCR錠40mgが足りないと電話連絡があった。患者は最近、「数が足りない。~の薬剤が入っていない。」などの訴えが多く、70歳代と高齢になっており、思い違いが多くなってきているのではないかと心配していた。
調剤時の写真の記録を確認したところ、交付した数量に誤りはないと考えられた。正しく薬剤を交付した旨を説明し、服薬状況について「赤茶色の錠剤の薬(アダラートCR錠40mg)は…」と確認しようとしたら、患者から「私は色覚異常で色の区別がつきません。」と言われた。
薬剤師は、患者が色覚異常であることを把握しておらず、これまでの投薬時にも、「この赤い錠剤は…」や「この白い錠剤は…」などと説明していた。不足しているアダラートCR錠40mgは、自宅内を探しても見つからず、再度受診し、処方してもらうように指導した。 今回、色覚異常であることが判明したため、患者の了承を得て患者宅に出向き、以下のような服薬状況などを確認した。

①ヘルパーなどは来ておらず、デイケアの利用もない。長男家族と同居しているが、薬剤は自己管理である。居室は整理整頓されていた。

②薬は朝・昼・夕・寝る前と紙コップに分けて入れていた。毎日の昼前くらいに1回分ずつPTPシートをハサミで切り離し、セットしていた。ビニール袋の中に薬袋が横向きに入っており、薬を出したら縦にするというルールをきめて間違わないようにセットしているということだった。

③過去に一包化調剤を行ったことがあるが、トリプタノール錠による排尿困難が生じた際に、一包化から黄色の錠剤を抜くのが大変だったことから、それ以降は一包化調剤を行っていなかった。

④色の淡いもの、特に黄緑とピンク、オレンジと赤などの区別が難しそうであった。しかし、大きさ・形にはとても敏感で、PTPシートの色の違いよりも大きさの違いで判別していた。

薬剤師は、薬が足りないとの訴えが増えてきたことから一包化を勧めようと考えていた。しかし、患者宅に出向いて服用の仕方、薬の管理の仕方などを詳細に聴取、確認できたため、このままPTPシートで調剤し投薬することにした。
患者の薬の管理の仕方を薬局内で情報共有するとともに、新しく薬が処方された場合、今まで処方されていた薬と区別がつきにくくないかを確認することを薬局内全体で共有することにした。

なぜ?

患者が色覚異常で、赤、緑、茶色の色の区別がつかないこと、さらに色覚異常の患者への対応を薬剤師は知らなかった。
ロービジョン(社会的弱視や低視覚)の患者の場合、白杖などをついており、認識することができ、相応の対応をすることができていると思っていたが、当該患者は杖などを使用しておらず、色覚異常があるとは思い至らなかった。
患者は、今までも「数が合わない、残薬がある」といった訴えが多く、色覚異常のため服用を間違えていた可能性が考えられる。薬剤師は高齢のためと考えており、患者の身体的特徴を把握しておらず、患者が安心安全に薬剤を服用できていなかった可能性がある。

ホットした!

薬剤の識別方法や服用方法を患者からよく聴取し、患者の身体的特徴に応じた調剤を心がける。
視覚障害や色覚異常には、見え方にさまざまな状態があることを理解し、ロービジョンの患者には「薬袋のセット方法、文字の大きさなど」を配慮する。薬局内で視覚障害患者への共通認識をもち、個々の患者が安心して安全に薬を服用していけるようサポートしていくことが重要である。
新しく薬が追加された場合、その薬が今まで服用していた薬と区別がつくのか確認し、区別がつきにくい場合は医師に疑義照会し薬剤の変更なども考慮しなければならない。
ロービジョンだから、色覚異常だからなどと決めつけず、その患者個々に合わせきめ細やかに投薬指導することが大事である。そのためには、患者の生活環境などを確認するために、自宅に伺うことも必要である。

もう一言

色覚異常とは(文献1)
網膜には、短波長(青)・中波長(緑)・長波長(赤)感受性錐体があり、それぞれS錐体、M錐体、L錐体と呼ばれている。3種類の錐体の一部欠損もしくは十分に機能しない場合、先天色覚異常と呼ばれる状態となる。
機能障害がどの錐体にあるかにより、1型色覚異常(L錐体)、2型色覚異常(M錐体)、3型色覚異常(S錐体)に分類される。また、機能障害の程度により、錐体の変異による場合は異常3色覚、欠損による場合は2色覚となる。これらの組み合わせにより「1型2色覚」、「2型3色覚」などと表現される。1型および2型色覚異常をまとめて赤緑色覚異常と通称される。色覚正常者は「正常3色覚」である。
一方、眼球内のさまざまな組織や視神経あるいは大脳視覚中枢の障害によって生じた色覚障害を後天色覚異常と呼ぶ。
先天色覚異常者が混同しやすい色などに関しては文献2を参照されたい。

[引用文献]
1.安間哲史,今日の診療プレミアムweb版,今日の診断指針第8版>色覚異常(2025.2.18アクセス)
2.東京都カラーユニバーサルデザインガイドライン
https://www.fukushi.metro.tokyo.lg.jp/kiban/machizukuri/kanren/color.html (2025.2.18アクセス)

[国試対策問題]

問題:80歳代の男性。視覚障害がある。糖尿病、脂質異常症、緑内障などがあり、4種類の内服薬と、2種類の点眼薬が処方されている。この患者への薬剤師の対応として、適切でないのはどれか。1つ選べ。

1 飲み間違いを防ぐため、一包化を提案した。
2 点字シールを薬袋に貼り、区別できることを確認したうえで交付した。
3 2種類の点眼薬の容器の形ができるだけ異なるように、後発医薬品への変更を提案した。
4 服用時の手間を省くため、PTPシートを1錠ずつ切り離して保管するように指導した。

【正答】4
4 1錠ずつに切り離すと、より区別がつきにくくなる。また、PTPシートのまま服用してしまうリスクもある。

*本稿では、全国各地において収集したヒヤリ・ハット・ホット事例について、要因を明確化し、詳細に解析した結果を紹介します。事例の素材を提供していただいた全国の薬剤師の皆様に感謝申し上げます。

澤田教授

澤田教授
四半世紀にわたって医療・介護現場へ高感度のアンテナを張り巡らし、薬剤師の活動の中から新しい発見、ヒヤリ・ハット・ホット事例を収集・解析・評価し、薬剤師や医師などの医療者や患者などの医療消費者へ積極的に発信している。最近は、医薬分業(薬の処方と調剤を分離し、それぞれを医師と薬剤師が分担して行うこと)のメリットを全国民に理解してもらうためにはどのような仕組みとコンテンツが必要かや、医療・介護の分野でDXが進む中で薬剤師はどのような役割を果たすべきかなどを、日々考えている。

薬学者。東京大学薬学部卒業。その後、米国国立衛生研究所研究員、東京大学医学部助教授、九州大学大学院薬学研究院教授、東京大学大学院情報学環教授を経て、現在、東京大学大学院薬学系研究科客員教授。更に、NPO法人 医薬品ライフタイムマネジメントセンター理事長・センター長。著書には「ポケット医薬品集2024」(南山堂,2024年)、「処方せんチェック・ヒヤリハット事例解析 第2集」(じほう,2012年)、「ヒヤリハット事例に学ぶ服薬指導のリスクマネジメント」(日経BP社,2011年)、「処方せんチェック虎の巻」(日経BP社,2009年)、「薬学と社会」(じほう,2001年)、「薬を育てる 薬を学ぶ」(東京大学出版会,2007年)など他多数。

記事作成日:2025年4月24日

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