
介護施設でマヴィレット配合錠を誤って3倍量飲ませていた
マヴィレット配合錠<グレカプレビル水和物・ピブレンタスビル>が初めて処方された施設入居患者において、代理で来局した介護スタッフに丁寧に説明をしたが、介護スタッフが誤って、1回3錠を1日1回のところ、1回3錠を1日3回で3倍量飲ませてしまった。
<処方1>70歳代の女性。A病院の内科。
エカベトNa顆粒66.7%「ファイザー」 | 3g 1日2回 朝食後・眠前 28日分 |
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ルネスタ錠1mg | 1錠 1日1回 眠前 28日分 |
フルニトラゼパム錠1mg「アメル」 | 1錠 1日1回 眠前 28日分 |
ネキシウムカプセル20mg | 1錠 1日1回 夕食後 28日分 |
ウルソデオキシコール酸錠100mg「ZE」 | 3錠 1日1回 夕食後 28日分 |
フェブリク錠10mg | 1錠 1日1回 朝食後 28日分 |
グラクティブ錠50mg | 1錠 1日1回 朝食後 28日分 |
グリメピリド錠0.5mg「AA」 | 1錠 1日1回 朝食後 28日分 |
レザルタス配合錠LD | 1錠 1日1回 朝食後 28日分 |
(一包化) |
<処方2>B病院の消化器内科。
マヴィレット配合錠 | 3錠 1日1回 朝食後 14日分 |
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<効能効果>
●マヴィレット配合錠・配合顆粒小児用<グレカプレビル水和物・ピブレンタスビル>
C型慢性肝炎又はC型代償性肝硬変におけるウイルス血症の改善
患者はA病院の内科を定期受診し、C介護施設のスタッフが薬を受け取りに来局している。決まったスタッフではなく、ほぼ毎回異なっている。
1月6日、薬剤師が別件でA病院を訪問した際に、当該患者が市外のB病院でマヴィレット配合錠を開始することになり、B病院からの処方分を飲み終えた後は、継続してA病院で処方する予定との話を、病院薬剤師から聞いた。少し先の話だが、あらかじめ本剤を在庫しておいてほしいとのことだった。
ところが、2日後の1月8日の昼前、C介護施設のスタッフがB病院の処方箋を持って来局した。少し先の話であると聞いていたため、まだ在庫の準備ができておらず、一旦帰ってもらうことになった。
同日午後、本剤が薬局に届いた。吸湿性のため一包化はできず、PTPシートのまま薬袋につめた。C介護施設に連絡し、間もなくスタッフが来局した。今回のスタッフは無口な方で、メモは取るが、説明を本当に理解できているのかやや不安があると普段より感じていたため、慎重に丁寧に説明をしなければと薬剤師は思った。
薬剤師:「朝食後に3錠お飲みください。1つのシートに3錠含まれていますので、この1シートが1日分です。全部で14シートありますので14日分です。一緒に確認しましょう。1月9日から10、11、12…。22日までの14日分です。湿気を帯びやすいので、一包化には一緒に入れられませんが、普段の朝の一包化の薬と一緒にお飲みください。かゆみその他、なにか気になること、分からないことなどがあれば遠慮なくご相談ください」
薬袋の『1日1回』『朝食後』『1回3錠』を太い赤マジックで囲んで目立つようにした。職員は「分かりました」と答えたので、薬を交付した。
1月13日の当薬局の閉店後、夜間電話当番を担当した別の店舗の薬剤師に、C介護施設のスタッフから電話相談があった。
スタッフ:「マヴィレット配合錠の数が足りないと思って調べたところ、マヴィレット配合錠を1回3錠、1日3回飲ませてしまっていた。ひどくはないが食欲不振がある。どうしたらよいか」
相談を受けた薬剤師は、受診を勧めた。
1月14日、相談を受けた店舗より連絡があり、すぐにA病院に行き、病院薬剤師に上記を報告した。すでに患者は受診しており、マヴィレット配合錠を休薬して様子を見ることとなった。さらに、C介護施設のスタッフによれば、B病院で医師から1日3回飲んでよいと言われたとのことだった。
1月24日の朝食後から服薬再開となり、再発防止のため、本剤のPTPシートに日付を記入し、投薬の際に慎重な説明に加え、薬を取りに来た介護スタッフと一緒に薬剤を確認することとした。
B病院の医師からは、本剤のサイズが大きいことを配慮して、飲みづらかったら1日3回(に分けて、すなわち1回1錠)飲んでも効果は変わらないと言われたそうだが、介護スタッフは「1日3回」の印象が強く残っていて、誤解釈して飲ませた可能性が高いと考えられる。
本剤を交付する際に、PTPシートに日付を記入していなかった。急いで発注して準備したため、PTPシート右下に日付を記入する箇所に気づかなかった。
PTPシートには「1回3錠」「1日分」と記載されている。患者・家族・介護スタッフが、「1回3錠」の「1」と「3」だけを見て「1日3回」と思い込む可能性、「1日分」を「1回分」と思い込む可能性が考えられる。
薬を取りに来た介護スタッフに、丁寧に説明して、薬袋の「1日1回」、「朝食後」、「1回3錠」を太い赤マジックで囲んで目立つようにし、職員も「分かりました」と言っていたが、薬剤師の説明をうわの空で聞いていた可能性も否定できない。
薬を受け取った介護スタッフから、服薬を担当したスタッフまでの情報伝達過程で、誰がどのように関わっていたかなどの詳細は不明である。患者も初めて服用する薬であり、スタッフが用意してくれたまま誤りに気付かず服用したと考えられる。
本剤のPTPシートに日付を記入し、投薬時に薬剤の内容、服用指示を一緒に確認する。PTPシートに日付を記入することで、本例のように誤って1日に3回服用するリスクがかなり低くなると考えられる。
投薬時に丁寧に慎重に説明をしても、患者が実際の服薬に至るまでの過程で誤りが生じる可能性があることを認識しておく。特に初めて処方された薬剤に関しては、翌日以降、実際に正しく薬が飲めているか、介護施設に電話フォローして確認する。
マヴィレット配合錠のPTPシートの右下には、日付を記入する箇所として、「/」(斜線のみ)の記載がある。これだけでは、日付を記入することが分かりにくいため、「月日」の様な記載をメーカーに提案することも必要であろう。
[国試対策問題]
問題:80歳代の女性。高血圧症、糖尿病、骨粗鬆症などがあり、全5種類の薬剤を服用している。患者から、最近、薬の飲み忘れと飲み間違いが多いとの訴えがあった。薬剤師の対応として、適切なのはどれか。2つ選べ。
1 飲み忘れたときは、翌日に飲み忘れた分を一緒に飲むよう指導した。
2 お薬カレンダーやお薬ボックスを利用するなど、飲み忘れや飲み間違いを防ぐ方法を指導した。
3 処方医に報告し、一包化を提案した。
4 飲み忘れや飲み間違いによって治療効果がなくなったり、副作用が出たりするので、絶対に飲み忘れたり飲み間違わないよう、強い口調で厳しく指導した。
【正答】2、3
1 飲み忘れたとしても、2回分を一緒に飲まないように指導するのが一般的である。飲み忘れたときには、薬剤師や医師に報告、相談するように指導する。
4 厳しすぎる指導は、患者の萎縮を招いてしまい、逆にアドヒアランスの悪化に繋がることもある。
*本稿では、全国各地において収集したヒヤリ・ハット・ホット事例について、要因を明確化し、詳細に解析した結果を紹介します。事例の素材を提供していただいた全国の薬剤師の皆様に感謝申し上げます。

澤田教授
四半世紀にわたって医療・介護現場へ高感度のアンテナを張り巡らし、薬剤師の活動の中から新しい発見、ヒヤリ・ハット・ホット事例を収集・解析・評価し、薬剤師や医師などの医療者や患者などの医療消費者へ積極的に発信している。最近は、医薬分業(薬の処方と調剤を分離し、それぞれを医師と薬剤師が分担して行うこと)のメリットを全国民に理解してもらうためにはどのような仕組みとコンテンツが必要かや、医療・介護の分野でDXが進む中で薬剤師はどのような役割を果たすべきかなどを、日々考えている。
薬学者。東京大学薬学部卒業。その後、米国国立衛生研究所研究員、東京大学医学部助教授、九州大学大学院薬学研究院教授、東京大学大学院情報学環教授を経て、現在、東京大学大学院薬学系研究科客員教授。更に、NPO法人 医薬品ライフタイムマネジメントセンター理事長・センター長。著書には「ポケット医薬品集2024」(南山堂,2024年)、「処方せんチェック・ヒヤリハット事例解析 第2集」(じほう,2012年)、「ヒヤリハット事例に学ぶ服薬指導のリスクマネジメント」(日経BP社,2011年)、「処方せんチェック虎の巻」(日経BP社,2009年)、「薬学と社会」(じほう,2001年)、「薬を育てる 薬を学ぶ」(東京大学出版会,2007年)など他多数。
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- 事例187
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- 事例186
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- 事例185
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- 事例184
- ゼローダ錠の服薬スケジュールに関して疑義照会
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- 事例183
- イーケプラ錠の不均等処方について疑義照会
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- 事例182
- レキップCR錠の急激な減量を発見し疑義照会
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- 事例181
- ニトロペン舌下錠の保管方法に関する服薬指導不足
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- 事例179
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- 事例177
- 患者のジェネリック医薬品に対する考え方が変化
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- 事例176
- 知識不足で『レスパイトケア』の意味が分からず
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- 事例174
- 骨折でドライブスルー利用した患者への配慮不足
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- 事例173
- 腎臓疾患患者へのアスパラカリウム錠処方を疑義照会
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- 事例172
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- 事例170
- 疑義照会にて薬名類似による処方ミスと発覚
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- 事例169
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- 事例168
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