Prof.Sawadaの薬剤師ヒヤリ・ハット・ホット
事例228

薬剤師提案の血中濃度測定でジゴキシン中毒が発覚

ヒヤリした!ハットした!

ネフローゼ症候群のためシクロスポリンを継続服用中の患者に、不整脈のためベラパミルとジゴキシンが追加になった。その後、患者に食欲不振、頻脈、倦怠感の症状が発現したが、医師は消化器系症状改善薬を追加し、ベラパミルの増量を行った。薬剤師は、ジゴキシン中毒を疑い、医師にトレーシングレポートにて情報提供し、電話にてジゴキシンの血中濃度測定を依頼した。結果、ジゴキシンの血中濃度が高く(2.4ng/mL)、ジゴキシン中毒と判明し、中止により症状は改善した。

<処方1>70歳代の男性。腎臓内科クリニック。昨年9月。

プレドニン錠5mg 1.5錠1日1回朝食後
シクロスポリンカプセル50mg「VTRS」 2C1日1回朝食後
アムロジピンOD錠2.5mg「明治」 1錠1日1回朝食後
ハーフジゴキシンKY錠0.125 1錠1日1回朝食後
ベラパミル塩酸塩錠40mg「JG」 1錠1日1回朝食後
ネキシウムカプセル20mg 1C1日1回朝食後
(以上、一包化)
マーズレンS配合顆粒 1g1日2回朝夕食後
タフマックE配合カプセル 2C1日2回朝夕食後
クロチアゼパム錠5mg「日医工」 1回1錠不安時

<処方2>本年7月。

プレドニン錠5mg 1錠1日1回朝食後
シクロスポリンカプセル50mg「VTRS」 1C1日1回朝食後
シクロスポリンカプセル25mg「VTRS」 1C1日1回朝食後
アムロジピンOD錠5mg「明治」 1錠1日1回朝食後
ハーフジゴキシンKY錠0.125 1錠1日1回朝食後
ベラパミル塩酸塩錠40mg「JG」 3錠1日3回毎食後
(以上、一包化)

<効能効果>

●ジゴキシン錠0.0625「KYO」・ハーフジゴキシンKY錠0.125・ジゴキシンKY錠0.25<ジゴキシン>
○次の疾患に基づくうっ血性心不全(肺水腫、心臓喘息などを含む)
先天性心疾患、弁膜疾患、高血圧症、虚血性心疾患(心筋梗塞、狭心症など)、肺性心(肺血栓・塞栓症、肺気腫、肺線維症などによるもの)、その他の心疾患(心膜炎、心筋疾患など)、腎疾患、甲状腺機能亢進症並びに低下症など
○心房細動・粗動による頻脈
○発作性上室性頻拍
○次の際における心不全および各種頻脈の予防と治療
手術、急性熱性疾患、出産、ショック、急性中毒

どうした?どうなった?

患者は、数年前よりネフローゼ症候群のため、シクロスポリン(100mg/日)とプレドニゾロン(20mg/日)を服用していた。そのほか、テラムロ配合錠AP<テルミサルタン40mg・アムロジピン5mg>、ラニチジン(75mg/日)も服用していた。

昨年7月、動悸や不整脈があり、ジゴキシン(0.125mg/日)とベラパミル(120mg/日)が追加、胃のむかつきのためマーズレンS<アズレンスルホン酸ナトリウム・L-グルタミン>(1.5g/日)が追加となった。

9日後、胸やけ、胃もたれ、脱力感、だるさの訴えがあり、レバミピドとタフマック<ジアスターゼ配合製剤>が追加され、ラニチジンからネキシウム<エソメプラゾール>(20mg/日)へ変更となった。この時、薬剤師は患者の訴える症状からジゴキシンの副作用を疑ったが、胃のむかつきは以前より症状があったため、より深い考察を行わず、経過観察とした。後日、ジゴキシン血中濃度を確認したところ、この時点では1.3ng/mLと有効血中濃度の範囲内(0.5-1.5ng/mL)であった。

8月、患者の不調の症状は続いており、患者の「薬が多すぎる」という訴えにより、ベラパミルは120mg/日から40mg/日に減量となった。

9月、倦怠感は改善するも、食欲不振や胃もたれは続いていた。一方、血圧が低めとなり、テラムロ配合錠APからアムロジピン(2.5mg/日)に変更となった。また、胸部不安時にクロチアゼパムの頓服処方が追加となった。この時点での処方が<処方1>である。

10月、体調はすぐれないまま、味覚異常のためネキシウムは中止となり、ドンペリドンが追加された。また、シクロスポリンは100mg/日から75mg/日に減量、アムロジピンは2.5mg/日から5mg/日に増量となった。

その後、本年6月にかけて、症状は継続していたものの、寒い時期は不整脈、だるさ、胃もたれ等の症状は比較的改善していた。

本年7月、不整脈、倦怠感、胃もたれ、食欲不振の症状が強くなったと訴えがあり、ベラパミルが120mg/日に増量となっていた<処方2>。この時、クリニックの看護師より薬局へ電話があり、不整脈のためリクシアナ<エドキサバン>の追加を考えているが、患者が新しい薬を追加することへの不安を持っているため、患者への説明を依頼された。また、リクシアナの用量についても確認されたため、体重47.5kg、腎機能(血清Cr:0.64mg/dL、BUN:17.3mg/dL)の情報から、30mgが適切ではないかと回答した。

その後、患者が来局し、リクシアナの有用性や副作用などについて説明すると、不安が残るが「大事なお薬なら…」ということで納得いただいた。この時、患者は強く体調不良を訴えており、特に食欲不振が強く、食べられないとのことであった。
薬剤師は、体調不良が出始めた時期や経緯、処方内容の変化を見直し、薬物相互作用による影響を疑った。すなわち、血清Crは0.64mg/dLと腎機能は悪くないものの、ジゴキシンの腎排泄を抑制するとされるベラパミル、シクロスポリン、アムロジピン(添付文書の記載はカルシウム拮抗薬)を併用している。また、ジゴキシンを開始後3ヵ月間は、胃酸分泌抑制作用によりジゴキシンの加水分解を抑制するとされるネキシウム(添付文書の記載はプロトンポンプ阻害薬)を併用していた。さらに、寒い時期に症状が比較的改善していたことから、暑い時期は脱水傾向による電解質異常が現れる可能性も考慮し、ジゴキシンの血中濃度が高くなっている可能性が考えられた。また、ベラパミルが増量となっているため、相互作用が増強する可能性も考えられた。さらに、次回に追加予定のリクシアナも、ベラパミルやシクロスポリンのP-糖タンパク質阻害作用により、血中濃度が高くなる可能性も考えられた。
そこで、上記のことをトレーシングレポートにて医師に情報提供を行ったところ、すぐに医師より直接薬局に電話があった。強い語気で以下の様に述べた。

医師:「腎機能が正常(血清Cr:0.64mg/dL)、ジゴキシン中毒の症状は今までの経験から吐き気と徐脈と認識している。患者の症状とは違うから、ジゴキシン中毒ではない」

しかし、薬剤師が相互作用について再度説明した。

医師:「薬剤師さんがそこまで言うなら…」

次回受診時にジゴキシン血中濃度を測定することを約束いただいた。
8月、患者が食欲不振、倦怠感が強いと緊急受診した。クリニック看護師より電話連絡があり、ジゴキシン血中濃度を測定したところ2.4ng/mLであり、ハーフジゴキシンの中止指示を受けた。そこで、7月処方分の一包化薬を持参してもらい、ジゴキシンを抜薬、再分包して交付した。なお、リクシアナの開始は見送られた。
その後、食欲不振、倦怠感は改善、動悸の頻度も減少し、医師より体調不良はジゴキシン中毒によるものと判断された。

なぜ?

医師は腎臓内科が専門であり、循環器科は専門外だった。そのため、腎機能が正常だったため、患者の症状からジゴキシン中毒を疑わなかったのではないかと考えられる。薬物相互作用の観点からの判断が欠落していたと思われる。
1年前のジゴキシン追加後より症状が出ており、薬剤師は一時、ジゴキシン中毒を疑ったものの、以前から同じような症状があったため、その時点では薬物相互作用を確認しなかった。そのため、症状の悪化に応じて薬剤が追加となり、ポリファーマシーをまねいてしまった。初期の段階で、処方内容の精査をできなかったことは反省すべきポイントである。

ホットした!

処方が追加・変更となった時や、相互作用や副作用が予想される時は、あらかじめ患者に十分説明し、副作用を最小限にとどめるべくフォローアップ(来局間隔が長いときは電話フォローアップ)を実施し、患者からの訴えや小さな変化、あいまいな表現も拾い上げ、さまざまな可能性を追求する。
医師は検査値や用法・用量は確認するが、薬物相互作用までは確認しないことがある。そのため薬剤師が専門分野として情報提供を行っていくことが必要である。
薬剤師は、当該腎臓内科クリニックの医師とは面識がなかった。そのためか、突然のトレーシングレポート提出に、当初はあまりよく思われていなかったようである。しかし、相互作用について丁寧に説明したことで、最終的にはジゴキシン血中濃度測定に応じていただけ、さらに実際にジゴキシン中毒であることが判明し、医師との間に信頼関係を築くことができたのではないかと考える。

もう一言

ジゴキシン血中濃度の至適域1)
ジゴキシン血中濃度の至適域として、インタビューフォームなどでは0.8∼2ng/mLとされているが、0.5∼0.9ng/mLが予後の改善と関連し、これより高い血中濃度は死亡率の上昇と関連していたことが示されていたり、心不全に関して0.5∼0.8ng/mLで予後の改善が見られたことが報告されていることから、血中濃度の過度な上昇に注意が必要である。

ジゴキシン中毒2)
ジゴキシン中毒をおこす血中濃度は2.0ng/mL以上とされている。ジゴキシンは腎排泄型で、半減期も36∼48時間と長い上に、腎機能の低下している高齢者などで使用することが多いことから、注意深く血中濃度のモニタリングを行いながら使用していても、風邪などをひいて食欲不振や水分の摂取不良などによる脱水状態で容易に中毒を起こしてしまうことがある。また、低カリウム血症でも中毒を起こしやすくなる。
ジゴキシン中毒の症状は、消化器症状(食欲不振、嘔気、嘔吐、下痢)、めまい、頭痛、視覚異常(霧視、黄視)、不整脈、脈拍数の低下、心不全の増悪などが挙げられる。消化器症状やめまい、頭痛などの自覚症状は、風邪などによる体調不良の症状と間違われやすく、ジゴキシン中毒に特徴的な所見とはいえず、これらの自覚症状からジゴキシン中毒をすぐに思い浮かべるのは難しく、中毒に気がつかないまま重症化してしまうことがある。

ジゴキシンの相互作用1)
ジゴキシンは腎臓のP-糖タンパク質を介する尿細管分泌により尿中に排泄されるため、P-糖タンパク質阻害薬との併用により血中濃度が上昇しやすい。血中濃度を上昇させる薬剤としては、ベラパミルやジルチアゼムといったカルシウム拮抗薬や、キニジン、アミオダロンなどの抗不整脈薬、スピロノラクトン、イトラコナゾール、マクロライド系抗菌薬などがある。相互作用を有する薬剤は非常に多いため、相互作用の確認は必須である。

[引用文献]
1)木村丈司,薬局.67(8):2541-2546,2016.
2)大出尚郎,神経眼科.36(3):291-296,2019.

[国試対策問題]

問題:60歳代の男性。心房細動による頻脈のため、ジゴキシンによる治療が開始されることになった。この治療に関する記述のうち、誤っているのはどれか。2つ選べ。

1 ジゴキシンの腎排泄を阻害する薬物との相互作用に注意する。
2 ジゴキシンは主に肝代謝により消失するので、肝障害時には減量する必要がある。
3 ジゴキシンは治療域と中毒域が近接しているので、治療薬物モニタリング(TDM)を行う。
4 ジゴキシンの治療薬物モニタリング(TDM)では、投与2時間後に採血を行う。
5 ジゴキシン中毒の症状として、悪心、嘔吐、不整脈などに注意する。

【正答】2、4
2 ジゴキシンは主に腎排泄により消失し、糸球体濾過とP-糖タンパク質を介する尿細管分泌により尿中に排泄される。
4 ジゴキシンの治療薬物モニタリング(TDM)では、定常状態のトラフ(服薬後12∼24時間、次の服薬の直前)での採血が勧められる。困難な場合は、服薬後6時間以降での採血が望ましい。

*本稿では、全国各地において収集したヒヤリ・ハット・ホット事例について、要因を明確化し、詳細に解析した結果を紹介します。事例の素材を提供していただいた全国の薬剤師の皆様に感謝申し上げます。

澤田教授

澤田教授
四半世紀にわたって医療・介護現場へ高感度のアンテナを張り巡らし、薬剤師の活動の中から新しい発見、ヒヤリ・ハット・ホット事例を収集・解析・評価し、薬剤師や医師などの医療者や患者などの医療消費者へ積極的に発信している。最近は、医薬分業(薬の処方と調剤を分離し、それぞれを医師と薬剤師が分担して行うこと)のメリットを全国民に理解してもらうためにはどのような仕組みとコンテンツが必要かや、医療・介護の分野でDXが進む中で薬剤師はどのような役割を果たすべきかなどを、日々考えている。

薬学者。東京大学薬学部卒業。その後、米国国立衛生研究所研究員、東京大学医学部助教授、九州大学大学院薬学研究院教授、東京大学大学院情報学環教授を経て、現在、東京大学大学院薬学系研究科客員教授。更に、NPO法人 医薬品ライフタイムマネジメントセンター理事長・センター長。著書には「ポケット医薬品集2024」(南山堂,2024年)、「処方せんチェック・ヒヤリハット事例解析 第2集」(じほう,2012年)、「ヒヤリハット事例に学ぶ服薬指導のリスクマネジメント」(日経BP社,2011年)、「処方せんチェック虎の巻」(日経BP社,2009年)、「薬学と社会」(じほう,2001年)、「薬を育てる 薬を学ぶ」(東京大学出版会,2007年)など他多数。

記事作成日:2025年4月24日

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