
散剤から液剤への変更で上手く嚥下ができないと訴えた患者
疼痛管理を行っている患者において、医師は粉薬の服用が十分に行えていないのではないかと判断し、オキノーム散5mg<オキシコドン塩酸塩水和物>からオプソ内服液5mg<モルヒネ塩酸塩水和物>に変更した。しかし、患者からは、液剤は飲み込みが大変であり、うまく嚥下できない、あまり効果もないとの訴えがあった。
<処方1>70歳の女性。病院の内科。
オキシコンチン錠40mg | 2錠 1日2回12時間毎7日分 |
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オプソ内服液5mg | 1包 疼痛時15回分 |
リリカカプセル75mg | 2Cap 1日2回朝夕食後7日分 |
マグラックス錠330mg | 6錠 1日3回毎食後7日分 |
※その他フェマーラ錠も併用されている。
<効能効果>
オキノーム散2.5mg・5mg・10mg・20mg<オキシコドン塩酸塩水和物>
中等度から高度の疼痛を伴う各種がんにおける鎮痛
オプソ内服液5mg・10mg<モルヒネ塩酸塩水和物>
中等度から高度の疼痛を伴う各種がんにおける鎮痛
今回から、オキシコンチン錠が60mg/日から80mg/日に増量となり、レスキューの薬剤もオキノーム散5mgからオプソ内服液5mgに処方変更となっていた<処方1>。
薬剤師は、患者にオプソ内服液への変更について説明した。
薬剤師:「散剤から液剤に変わったので飲みやすくなりましたよ」
患者:「水剤は飲めない、効き目もない、医師にも話したはずなのに!」
患者は、数ヵ月前にもオプソ内服液を服用したことがあり、その時に飲みにくく、あまり効果が得られないと感じていたようだった。さらに詳細を聴取したところ、以下の様に答えた。
患者:「いつも薬は服薬補助ゼリーを使って服用しており、滑りが良くないと嚥下できない。また、水剤では飲み込むとき大変ですぐに使えない」
普段から常にイライラしている様子であまり話したがらない患者のため、これ以上は聴取できなかった。
医師に疑義照会を行い、患者の訴えを詳細に伝え、嚥下しやすい医薬品に変更できないか相談したところ、これまでと同様のオキノーム散5mgに処方変更となった。
患者は、服薬補助ゼリーで錠剤、散剤、カプセル剤は問題なく服用できているが、水剤については飲み込めないという特性があった。
医師は、患者の疼痛コントロールがうまくいっていないことから、オキシコンチン錠の増量を行ったが、頓服であるオキノーム散の様な粉薬はうまく飲めていないと判断して、内用液に変更した。しかし実際には、医師に患者の服薬状況が伝わっていなかった可能性がある。
薬剤師は、患者の嚥下機能の状態などを考慮せずに薬剤切り替えの説明をしてしまった。また、一般的に散剤から水剤への切り替えによって、薬が飲みやすくなるという思い込みがあった。
今回の事例のように、突出痛へのレスキュー・ドーズに用いる製剤では、とりわけ、速やかに服用できる製剤を選択することが重要である。1回服用量が個包装となっているオプソ内服液は服用しやすい包装形態であると考えられるが、嚥下障害のある患者では、液剤の剤形が服用しづらいと感じるケースがある(患者によって液剤を好まない場合もある)ことを認識しておくことが必要である。
患者の嚥下機能の状態を確認し、服薬しにくい医薬品はないか常に気を配る。薬剤切り替えの際には、とりわけ注意が必要である。
患者が服薬し難いことが理由で、服薬に苦慮している状態をできるだけ早く発見し、服薬困難(トラブル)になっている場合には、調剤上の工夫や他剤形の提案などを通じて、患者の服薬をサポートする。
嚥下障害のある患者において、安全であると考えられている服薬方法として、以下の方法があるとされている[文献1)]。
(1)嚥下食またはとろみをつけたもの、半固形物などの食物と一緒に内服する
(2)服薬補助ゼリーと一緒に内服する
(3)とろみをつけた水分、お茶で内服する
(4)簡易懸濁法で溶かしてから、とろみをつけて内服する
ただし、簡易懸濁法で溶かしてはいけない薬剤、溶けない薬剤があるので注意が必要である。
[引用文献]
1) 北岡美子.誤嚥・口腔疾患を惹起する薬剤の薬学的管理.薬局.61(3):404-411,2010.
[国試対策問題]
問題:90歳代の女性。介護施設に入所しており、嚥下機能が低下してきたため、ミキサー食の提供が開始されることになった。介護施設のスタッフから、服用している薬剤(4種類の錠剤)はどのように服用したらよいか相談を受けた。薬剤師の対応として、適切でないのはどれか。1つ選べ。
1 服薬させる直前に砕いて服用させるように介護施設スタッフへ指導する。
2 服用薬の情報を調べ、可能なものは散剤や液剤への剤形変更を医師に提案する。
3 服用薬の情報を調べ、可能なものは錠剤の粉砕を医師に提案する。
4 服用薬の情報を調べ、可能なものは簡易懸濁法で溶かしてから服用させるように介護施設スタッフへ指導する。
5 服薬補助ゼリーの使用を患者・家族、介護施設のスタッフへ提案する。
【正答】1
製剤の中には、腸溶錠や放出制御製剤などの製剤設計が行われているものがあり、砕くことで治療効果や有害事象発現に影響が出る製剤も存在するため、無条件に砕くことは避けなければならない。また、介護施設スタッフによる粉砕は、手間やインシデントのリスクもあり、薬局において粉砕することが望ましい。
*本稿では、全国各地において収集したヒヤリ・ハット・ホット事例について、要因を明確化し、詳細に解析した結果を紹介します。事例の素材を提供していただいた全国の薬剤師の皆様に感謝申し上げます。

澤田教授
四半世紀にわたって医療・介護現場へ高感度のアンテナを張り巡らし、薬剤師の活動の中から新しい発見、ヒヤリ・ハット・ホット事例を収集・解析・評価し、薬剤師や医師などの医療者や患者などの医療消費者へ積極的に発信している。最近は、医薬分業(薬の処方と調剤を分離し、それぞれを医師と薬剤師が分担して行うこと)のメリットを全国民に理解してもらうためにはどのような仕組みとコンテンツが必要かや、医療・介護の分野でDXが進む中で薬剤師はどのような役割を果たすべきかなどを、日々考えている。
薬学者。東京大学薬学部卒業。その後、米国国立衛生研究所研究員、東京大学医学部助教授、九州大学大学院薬学研究院教授、東京大学大学院情報学環教授を経て、現在、東京大学大学院薬学系研究科客員教授。更に、NPO法人 医薬品ライフタイムマネジメントセンター理事長・センター長。著書には「ポケット医薬品集2024」(南山堂,2024年)、「処方せんチェック・ヒヤリハット事例解析 第2集」(じほう,2012年)、「ヒヤリハット事例に学ぶ服薬指導のリスクマネジメント」(日経BP社,2011年)、「処方せんチェック虎の巻」(日経BP社,2009年)、「薬学と社会」(じほう,2001年)、「薬を育てる 薬を学ぶ」(東京大学出版会,2007年)など他多数。
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