Prof.Sawadaの薬剤師ヒヤリ・ハット・ホット
事例226

「うがい薬を2種類出しておくね」という医師の処方とは?

ヒヤリした!ハットした!

患者は医師から「うがい薬を2種類出す」と言われていたが、処方箋には含嗽用ハチアズレ<アズレンスルホン酸ナトリウム水和物・炭酸水素ナトリウム>しか記載されていなかった。疑義照会したところ、口内炎に半夏瀉心湯(ハンゲシャシントウ)を含嗽で使用することが分かった。

<処方1>70歳台の女性。病院の外科。

ユーエフティE配合顆粒T100 3包 1日3回 毎食後1時間 28日分
ユーゼル錠25mg 3錠 1日3回 毎食後1時間 28日分
ツムラ半夏瀉心湯エキス顆粒 7.5g 1日3回 毎食前 35日分
含嗽用ハチアズレ顆粒 210g 1日3回 1回1包 うがい

<効能効果>

●ツムラ半夏瀉心湯エキス顆粒(医療用)
みぞおちがつかえ、ときに悪心、嘔吐があり食欲不振で腹が鳴って軟便または下痢の傾向のあるものの次の諸症:急・慢性胃腸カタル、醗酵性下痢、消化不良、胃下垂、神経性胃炎、胃弱、二日酔い、げっぷ、胸やけ、口内炎、神経症

どうした?どうなった?

患者は大腸がんで、ホリナート・テガフール・ウラシル療法を行っている。今回、半夏瀉心湯エキス顆粒と含嗽用ハチアズレ顆粒が処方追加されていたため、薬剤師は投薬時に、患者から症状などを聴取した。

患者:「お腹は空くけど、味覚障害がひどい。口内炎の様なのも少しできている。食べる気にならない」
薬剤師:「薬による影響もあって、味覚障害や口内炎が出ているのかもしれません。味覚異常や口内炎により食欲がない時に半夏瀉心湯に使うこともあります」

薬の説明を終えたところで、患者から質問を受けた。

患者:「今回、先生がうがい薬を2種類出すと言っていたけど、1種類しか出ていませんか?」

うがい薬は1種類(含嗽用ハチアズレ顆粒)しか処方されていなかったため、薬剤師は医師に確認することにした。
疑義照会の結果、半夏瀉心湯を50℃ほどのぬるま湯に溶かして、口に含んでクチュクチュうがいをするようにと医師から説明があった(適応外の使用法であり、処方箋に半夏瀉心湯のうがいに関する指示はなかった)。
医師と話し合い、含嗽の方法は「半夏瀉心湯を1回2.5gを水50mLに溶解し、10秒間含嗽する。1日3回。含嗽後30分間飲食しない」と指導することとなった。
患者へ、通常は内服する半夏瀉心湯を、今回はうがい薬として使うように、説明をし直した。また、投薬後に調べたところ、半夏瀉心湯が抗がん薬治療による口内炎に、経口または含嗽で有効であるとの報告は確認できたが、味覚障害に関する報告は確認できなかった。

なぜ?

薬剤師が、抗がん薬の処方を受けているにもかかわらず、抗がん薬治療による口内炎、または難治性の口内炎に対して、適応外ではあるが半夏瀉心湯が含嗽用として使われることを認識していなかった。
医師は、患者に口頭で説明したつもりだったかも知れない。また、薬剤師が半夏瀉心湯の適応外使用を知っていると思っていた可能性もある。いずれにしても、薬剤師が医師の意図に沿った服薬指導ができるように、処方箋にコメントを記載するなどの対応が必要かもしれない。今回は、患者が医師から「うがい薬が2種類出る」という指示をしっかりと覚えていたため、医師の意図に沿った薬剤の使用につながった。

ホットした!

新しい薬が処方された場合には、一般的な説明のみで終わらせるのではなく、患者の症状や、薬に関して医師からどのように説明を受けているのかなどを丁寧に聴き取り、個々の患者に適切な服薬指導をしていくことが大切である。
抗がん薬を調剤し服薬指導を行っている立場上、がん治療に関連するさまざまな知識(レジメン、適応外使用も含む)を薬局内で共有する必要がある。
医師も、適応外処方に関して、患者に簡単に説明するだけでなく、実際に薬剤を交付する保険薬局の薬剤師にも何等かの手段で処方意図を情報提供してもらえるように医療機関に働きかける。

もう一言

半夏瀉心湯の口内炎に対する効果について
抗がん薬治療や放射線治療により口腔粘膜に炎症が発生することで、TNFαやCOX-2などが活性化され、プロスタグランジンE2などの炎症性サイトカインが産生されて、口内炎による痛みが生じる1)
半夏瀉心湯(ハンゲ、オウゴン、カンキョウ、カンゾウ、タイソウ、ニンジン、オウレン)は、invitro試験によってCOX-2阻害薬と同程度にCOX-2によるプロスタグランジンE2の産生を抑えること2)、構成生薬のオウゴンに含まれるバイカリン、オウレンに含まれるベルベリン、カンキョウに含まれる成分である6-ショウガオールや6-ジンゲロールなどがプロスタグランジンE2の産生を抑制すること3)、が報告されている。
FOLFOX、FOLFIRI、XELOX療法中に口内炎を呈した大腸がん患者90名を対象に、次の化学療法の開始から2週間、プラセボまたは半夏瀉心湯の含嗽(1回2.5gを50mLの水に溶かし、2~3回に分けて含嗽。1日3回)を行ったところ、口内炎の頻度は半夏瀉心湯群で48.8%とプラセボ群の57.4%よりやや低下し、口内炎発症期間の中央値は半夏瀉心湯群で5.5日とプラセボ群の10.5日より有意に低下したことが報告されている4)

[文献]
1.吉田直久ら,京都府立医科大学雑誌,125(2):115-125,2016.
2.KaseYetal.,BiolPharmBull,21(12):1277-1281,1998.
3.KonoTetal.,IntegrCancerTher,13(5):435-445,2014.
4.MatsudaCetal.,CancerChemotherPharmacol,76:97-103,2015.

[国試対策問題]

問題:50歳台の女性。大腸がんのため、外来化学療法としてmFOLFOX6療法(フルオロウラシル、ロイコボリン、オキサリプラチン)が開始となった。外来化学療法室の担当薬剤師が、有害反応として確認すべき症状として適切でないものはどれか。1つ選べ。

1 手足のしびれ
2 吐き気
3 口内炎
4 目のかすみ
5 下痢

【正答】4
FOLFOX療法やmFOLFOX6療法による有害反応として、末梢神経障害、悪心・嘔吐、食欲不振、口内炎、下痢、味覚異常、手足症候群、脱毛などが知られている。霧視はクリゾチニブなどの分子標的薬でよく見られる。

*本稿では、全国各地において収集したヒヤリ・ハット・ホット事例について、要因を明確化し、詳細に解析した結果を紹介します。事例の素材を提供していただいた全国の薬剤師の皆様に感謝申し上げます。

澤田教授

澤田教授
四半世紀にわたって医療・介護現場へ高感度のアンテナを張り巡らし、薬剤師の活動の中から新しい発見、ヒヤリ・ハット・ホット事例を収集・解析・評価し、薬剤師や医師などの医療者や患者などの医療消費者へ積極的に発信している。最近は、医薬分業(薬の処方と調剤を分離し、それぞれを医師と薬剤師が分担して行うこと)のメリットを全国民に理解してもらうためにはどのような仕組みとコンテンツが必要かや、医療・介護の分野でDXが進む中で薬剤師はどのような役割を果たすべきかなどを、日々考えている。

薬学者。東京大学薬学部卒業。その後、米国国立衛生研究所研究員、東京大学医学部助教授、九州大学大学院薬学研究院教授、東京大学大学院情報学環教授を経て、現在、東京大学大学院薬学系研究科客員教授。更に、NPO法人 医薬品ライフタイムマネジメントセンター理事長・センター長。著書には「ポケット医薬品集2024」(南山堂,2024年)、「処方せんチェック・ヒヤリハット事例解析 第2集」(じほう,2012年)、「ヒヤリハット事例に学ぶ服薬指導のリスクマネジメント」(日経BP社,2011年)、「処方せんチェック虎の巻」(日経BP社,2009年)、「薬学と社会」(じほう,2001年)、「薬を育てる 薬を学ぶ」(東京大学出版会,2007年)など他多数。

記事作成日:2025年4月24日

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